3 檻の中
指の震えが止まらねぇ。
「あ~、クーちゃんのことですか~?」
マツカがまたフワリと笑う。
・・・クーちゃん?クーちゃんってなんだよ。
「グルルルル・・・」
檻の中から低く唸っているような声が聞こえる。明らかに人間じゃない。
・・・とってもかわいい声ですね?
「クマだよクマ。クマのクー、うちの教室のペットだよ。」
オーマが笑いながら言う。
あぁ~ペットね。あのカメとか魚とかウサギとか、色々ね。色々ありますよね。確かに色々あるけどさぁ。
「イサはクマ嫌いなのか?」
シーテが長い髪を揺らしながら聞いてくる。
・・・やっぱ、すげぇキレイ。
「ん、いや嫌いじゃないけど・・・って、いやいや待てよ?俺がクマが嫌いとか、そうじゃなくて、クマっておかしくねぇか?普通教室でクマは飼わないだろ。」
「クーちゃんはいい子ですよ~。」
と、マツカがふくれる。
「いや、いい子とかそういう問題じゃなくてだな。」
「はい。」
いや、「はい。」って言われてもな。
どうすればいいのか分からず、オーマの顔を見ると、オーマが笑いながら助け船を出してくれた。
「マツカ、まだこいつ来たばっかりだしよ、許してやろうぜ。何だったらこいつに任せてみればいいじゃん。」
ん?任せる?
「そうだな。それは良い案だ。」
と、シーテ。
「そうですね~。そうすれば、クーちゃんのこと分かって、きっと好きになってくれますもんね~。」
と、笑顔に戻るマツカ。
んん?何だ?俺に何を任せるんだ?
「よし、ってな訳でイサ、お前はこの一年間、クーの世話人になってもらう。」
と、こちらも笑顔のオーマ。
・・・ん?今何て言った?
「世話人?」
「そうだぜ。」
「誰の?」
「クーの。」
「誰が?」
「お前が。」
おう、そうか。俺があのでっかいでっかいクマの世話をするのか。・・・無理だろ!!絶対無理だ!!
「いや、冗談だよな?だってクマだぞ?流石にヤバいだろ。」
「クーちゃんはいい子ですよ~。」
「いや、だからいい子とかじゃなくて、クマってとこが問題なんだよ。」
「どうしてですか?」
「どうして!?」
そこ聞く!?クマを教室で飼っちゃいけないなんて確かに校則にはないかもしれないが、常識的に考えたら飼わないだろ!!クマは!!
「まあ、とりあえずやってみろよ。クーは人間食ったりしないから。」
「嫌、ですか?」
オーマの笑った顔はどうでもいいが、マツカの残念そうな顔は・・・効いた。
「・・・わかったよ。やるよ、クマの世話人。」
「クーちゃんですよ~。」
「はいはい、クーちゃんな。」
「んじゃ、クーの世話人も決まったことだし、入学式に行くか。」
「はっ?入学式あんの?」
「まぁな、一応、用意されてるらしいぜ。」
先生が来なかった時点でもう無いものだと思ってた、入学式。
ってか待てよ?クーの世話人が決まったから?だと?
「おいオーマ。」
「ん?どうしたイサ。」
「お前ら、俺にクマの世話を押し付けるの、決めてただろ。」
「さぁ?何のことやら?行くぞ。」
そう笑いながらオーマ達は教室を出ていってしまった。
やっぱりあの笑い、元から打ち合わせされてたってことかよ。
「オーマ、置いてくぞぉ。」
「うるせぇな!」
と俺も後を追う。
先生は来ないし、クラスメイトが5人しか居ないし、そもそもWなのも意味不明だし、教室でクマ飼ってるし。
・・・もう、何なんだよこのクラスは!?
入学式、やってみます(笑)