2 自己紹介してみよう
ガチャッ・・・
よし来たぁ!!と、ドアを真剣に見つめる。おかげで後ろからの視線も消えたことだし、先生様さまだ。
・・・タッタッタッタッ・・・タッ・・・
廊下の音に耳を澄ますと、足音が遠ざかっていく音が聞こえる・・・いや待って!!遠ざからないで!!
ガタリと椅子を後ろに倒し、走ってドアへ向かう。そのままの勢いでドアを横へ引こうとした。
ガッガッ!!
開かない!?何でだ!?センセーー!!!!
「鍵、閉められたんだろ。」
「はっ!?」
後ろの四人を振り返る。四人ともまた俺のことを見ていた。だが、五角形の内の二列目の奥の男子が、一人笑っている。
「だーかーら、ドアの鍵、閉められたんだろ。俺達のクラスには先生なんざ来ねぇってことだよ。」
「はっ?いや何でだよ。」
「そういうもんだから。」
はぁぁぁあ!?こいつぁ、何を言ってるんだぁ??
「お前大丈夫か?初対面で悪いけどさ。ここ学校だぜ?先生来るのは当たり前だろ。」
「今までも来たことないし。いや、あるけどほとんどないようなもんだったんだよ。な?」
男子生徒は残りの三人に同意を求めながら、また楽しそうに笑った。
「とりあえずさ、自己紹介しようぜ?新人。」
俺のことを堂々と指差して「黒板の前に立て」と目線と指で指示される。
新人ってなんだよ。新学期で初対面のお前に言われたくないんだけど。
残りの三人にもじっと見つめられ、しぶしぶ指示通りに黒板の前に立ち、自己紹介を始める。
「イサです。」
「好きな食べ物は?」
「・・・オムレツ。」
「過去に何をやっていた?」
「・・・学生だけど。」
「よし、イサ、よろしくな。」
質問形式って。しかも短っ!!こんな自己紹介は初めてだよ。
「じゃ、次は俺。」
と、さっきから話しかけてくる男子生徒が立ち上がる。はぁ、やっと新学期らしくなってきた?のか?
「俺はオーマ、名字はない。分かってると思うけどな。好きな食べ物は肉だ。」
オーマか、こいつはオーマっていうのか。
オーマが座ったところで、隣のもう一人の男子生徒が立ち上がる。
「俺はシキだ、同じく名字はない。好きな食べ物はパンだ。」
ふつー。パンってなんだよ、好きな食べ物がパンって。何か他にないのかよ。
「私はマツカです~、好きな食べ物はぁ~う~ん、チョコレートケーキですね~。」
と、今度はシキの後ろの女子生徒が座ったまま自己紹介をした。
チョコレートケーキが好きなのかぁ。
フワリとした笑顔がかわいい。同時に頭の髪飾りがキラリと光って、尚彼女の笑顔を引き立てる。
・・・かわいい。
ガタッ!!
「ん?」
「イサ・・・私の自己紹介も聞け。」
そう言いながら、マツカの隣のすごい勢いで立ち上がった女子生徒にまた俺は目を奪われる。
彼女の髪はとても長く、しかも金色に光っている。まるで西洋の人形のようだ。俺は西洋の人形なんて見たこともないが、たぶんこんな感じなんだろうな。
・・・すげぇ~、めっちゃキレイな髪だなぁ。
顔もかなり美人だ。
「イサ?」
「ん?」
「私が自己紹介をすると言っている。ちゃんと聞け。」
「はい。」
しかもなんだろうな、この、偉そうに言われても全然何も思わない感じ。
「私は、シーテ。好きな食べ物はラーメンだ。」
うわ、しかも好きな食べ物のギャップがすげぇ。
そんなに、美人なのにラーメン好きなんだ。紅茶と一流のケーキ、みたいなのじゃないんだ。俺には一流のケーキっていうのがどういうものか分からないけど。
「分かったか?」
「うん。」
「イサ。」
「はい?」
「よろしくな。」
「うん!!」
俺のテンションが一気に上がる。変な教室だと思ったけど、意外といいかもしれないな。
・・・ずぅっと俺の前に見えている、あの巨大な檻さえなければ。
「なぁ。」
四人の内誰か一人が答えてくれればいいと思って、誰とは指名せずに質問をする。
小刻みに震える指で、ゆっくり教室の後方を指差しながら。
「あの、あの檻は・・・何なんだ?」
名字のこと(全員名字がない理由は)は次回かきます。