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飛んで火に入る夏の虫……?

作者: 白虹

好意はまだ淡くて、

ただ、挨拶したり、職場で見かけるだけでよかった。

それだけで満足して、一日仕事頑張ろうと思っていた。

思っていたはずだったんだ。

なのに……


「どうしてこうなった……」


私は思わず、部屋の大部分を占めるベッドの上で頭を抱えた。


「んがっ」


隣でいびきをかきながら寝る人を見て、ため息をつく。

なぜ、こんな事になってしまったのか。








そもそもの始まりは会社主催の慰労会、という名の飲み会だった。

上役の挨拶なんぞ、スルーしてご馳走を前に業務終了後の唸る腹を宥めすかしていた。

しかも悲しい事にチケット指定の席に座ればみんな自分より上の人ばかり。上司わざわざ手渡されたチケットに私の名前である『長宮彩奈(ナガミヤアヤナ)』と記入されていたので何かの意図を感じて仕方がない。

早く乾杯しないだろうか。居心地が悪すぎて、さっさと食べて他の席へ逃げたい。


「乾杯!」


思いが通じたのだろうか、やっと乾杯の音頭である。

角が立たないように立場が上の人からビールの入ったグラスを当てていく。

ビールに口をつけた後はお待ちかねのご馳走である。うむ、うまい。

下品にならない程度の勢いで食べる。周りから笑いが聞こえた気がするが気にしない。気にしては負けである。

唐揚げ、サラダにピザなどなどテーブル上の大皿料理を一通り食べて満足したので、今度はビール瓶を持って会場を徘徊する。


「課長、お疲れ様です」

「ああ、長宮さんお疲れ」


にこにこと愛想笑いをしながらグラスにビールを注ぐ。世間話をしながら気持ちゴマすりをする。

社畜の哀しさだが、こういう事って意外と大切なのだ。

私はそんなに強くないから飲まされる事はないから救いだな。

一通りゴマすりを行い、席に戻って食べようと思い戻ろうとするが別の誰かが座っていて空きそうにもなかった。

個別の物でもなかったから空いている所でいいや、と席に置いていた取り皿だけ持って空いている席を探す。

その時たまたま目に入ったのが好意を寄せる平佐田ヒラサタさんの隣だった。

他に空いている席を見つけられなかったので、平佐田さんの隣に近づく。


「お疲れ様です。隣いいですか?」

「え?ああ、お疲れさま。どうぞ」


もうすでにそこそこアルコールを飲んでいるのか、いつもよりも赤い顔をしていた彼は少し驚いた様子だった。

悪いことをしたかなと思いつつ、自分の席を見るが別の誰かが座っている。しかも何やら物凄く盛り上がっている様子なのでこのまま戻れないような気がする。

彼には申し訳ないが、座らせてもらおう。

目の前にある唐揚げを取り皿に移していると、隣から視線を感じた。


「?」


気になって見ると平佐田さんが頬杖をついてこっちを見ていた。


「食べます?唐揚げ」

「ん?いい、大丈夫だよ」


食べたいのかと思ってきいてみるけど、要らないらしい。分からん。

和服が似合いそうなイケメンに見つめられると困るんだが。

さらにアルコールでなのか目がとろんとしていて、いつもより艶があって色んな意味で目の毒なんだが。

テンパりながら唐揚げを食べていると、耳元で囁かれた……訂正する。周りの声が大きすぎるので普通の声が囁きレベルで聞こえた。


「こうやって長宮さんと話すの初めてな気がする。同じ部署なのにな」


平佐田さんは苦笑しながら、お水を口にした。

そう、私は好意を寄せながらも一度も会話をした事がなかった。


「そうですね。仕事中は忙しいですし、お昼休みも合わせづらいですからね」


そもそも、ベテラン社員な平佐田さんに新人に毛が生えたような私が声をかけるなんておこがましい。

というか、彼の人気がすごくて声をかける余地がない。


「それに、声をかけようとしても平佐田さんモテモテなので難しいですよ」

「そんな訳ないだろう。モテてたら今頃彼女の一人や二人できてんだろ」

「一人や二人って、二股ですか?!ふけつ!」

「例え話に決まってるだろ!彼女なんてもう何年もいねぇし」


ビールのおかげか、普通に話せた上に意外と趣味が合う事が分かり意気投合していった。

そこで連絡先を交換して終わっておけばよかったんだ。

なのに……


「この近くでいいお店知っているんです。飲み食べ足りないので一緒に行きませんか?」


そう、彼を誘ってしまった。


「あ、いいよ。明日休みだし」


快諾され、行きつけの居酒屋に行ったのが間違いだった。

話が弾んでしまい、二人して終電を逃してしまった。

どこかに泊まろうって話は普通だ。

でも、なんで泊まり先をラブホにしたんだろう……

ビジネスで二部屋取ればよかった。

時間を戻せるならその時の私を殴りたい。

選んだ所が悪かったのか、お隣さんの声が丸聞こえで変な雰囲気になり……

結局美味しく頂かれてしまった。途中から記憶がないというのは初体験である。






思わず遠い目をしていた私は隣で平佐田さんが起きた事に気付かなかった。


「おはよう、彩奈」

「うひゃっ!あ、はい、おはよう…ございま、す」


いきなり声をかけられてビクゥッ!と肩が跳ねた。

その様子がおかしかったのか、くつくつと笑い声が聞こえた。


「彩奈も今日は休みなんだよね?」

「え、は、はいそうですが……」


下の名前で呼ばれている事に違和感があるが、今日休みなのは間違いない。

そうじゃないと飲み会になんて出られない。

素直に休みだと伝えた瞬間、顔つきが変わり……


「じゃあ、もう少しくらい大丈夫だよね?」

「ふぎゃぁっ!!!」





また更に美味しく頂かれてしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 キャ、チャイルドな私にはまだ早かったかも……! 展開や、地の文や会話が軽快でとても読みやすかったです。オチで笑ってしまいましたよ! やはり男は狼なのでしょうかね……!
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