席取り戦争
とある高校の二年B組の教室。
これから六時間目の総合の授業が始まろうとしていた。
このクラスでは生徒達の仲を深めようということで一ヶ月に一度、席替えをすることになっていた。
席替えといえばまぁ……ほとんどの場合特に揉めることなく終わるだろう。
だがこのクラス……、いや、このクラスのある二人は違った。
あの二人にとって席替えはいわば戦争だ。
自分のテリトリーが変わる、もし場所が悪ければ先生の目の前で授業を二ヶ月も受けることになるのだ。
そうでなくても苦手だったりあまり話したことがない人とは隣になりたいとは思わないだろう。
そこから始まる友情もあるかもしれないが、二人にとってはほとんど関係ない。
なぜなら二人はある席を互いに取り合っていたのだ。
漫画でよくある一番後ろの窓側の席を……
どうしてそこがいいのかは本人達にもよく分からないらしい。
じゃあ普通にくじ引きで良いだろう?
そう思う人のほうが多いだろう。しかしそんなこと二人には通じないのだ。
バカだから。
もう一度言おう、バカだからだ。
あいつらは兎に角何事にも全力だ。今どき珍しいくらいに。
ただ力を出すところ間違っているような気がするが……
「お前ら静かにしろー!」
ざわざわとしていた教室が少し静かになる。
「お待ちかねの席替えだぞー」
先生の少し間延びした声で授業が始まった。
ここからが二人にとって戦争の始まりだ。
仮に二人の名前をつけるとしよう。
一人は太郎。
クラスに大抵一人はいる背の高い男子だ。なぜか運動神経が良いと思われる不憫なヤツ。
本人はどっちかというと文系で絵を描くのが得意という見た目に反して案外細かい作業が出来たりする。
もう一人は幸子。
小柄な女の子でいかにも文系という見かけで運動が大の得意。
第一印象だったら大人しそうな可愛い系の女の子、知り合うとノリが良い気さくなやつ。
本は字ばっかりで読む気になれないそうだ。
こんな二人だ。
中身が反対だったらどっちももっと人気者に慣れたと思うのは自分だけではないだろう。
まぁ、そんなこんなで先生の言葉で二人の攻防戦……という名の小学生レベルの席取り戦争が繰り広げられる。
「ついにこの時が来たようね、太郎」
「あぁ、そのようだな幸子さんよぉ」
例えるなら二人の後ろに虎と蛇が見えたよ。そのくらい無駄に迫力があった。
幸子、せめてその傘を下ろせ。人にぶつかったら危ないだろ……てかどこから持ってきたんだよその傘しかも俺のじゃないか!!
おい太郎、普段のお前そんな裏の仕事してる人みたいなしゃべり方してないだろ、ポーズをつけんな。お前がやると洒落になんないんだよ。
もうなんなのこの二人。
やるのは別にいいんだ、やることじたいは、
なんで人の目の前でやるんだよ!!
「今回はどうやって勝負をしましょうか?」
「そうだな……なら゛あみだくじ゛でどうだ」
お、今回は比較的まともな感じだな。
酷いときは二人だけのフルーツバスケット(授業が終わるまで永遠と続いた)とか椅子取りゲーム(何故かわからないけど椅子が二つ。そんなことやってたら勝負がつかないだろ)、
どっちの絵が上手いでしょうか対決(これは太郎が圧勝。幸子のは……ある意味芸術的だった。)などなど。
常人には理解できないようなことが度々あった。
「ならあみだは先生に書いてもらうのでいい?」
「あぁ、それなら不正もできないから正々堂々戦うことができるしな!」
本当になんでそんなとこはちゃんとしてんだよお前ら。
正々堂々クラスのやつら全員と同じようにくじ引きゃ良い話だろ!?
「せんせーあみだ書いてー!」
「おーいいぞー」
先生とりあえず二人は置いといて先にくじ引きましょうよ。
なんで毎回律儀に待ってるんですか。しかもちゃんと協力するんですね。
「今日はどれくらいかかるんだろうねー二人の席取り戦争」
「んー、前は比較的早く終わったから今回はかかるんじゃないかなー?」
「でも決まるのかな?」
「十一回やって二回しか二人はあの席に座れてないもんね」
そう、実はあの二人は席替えの度に勝負をするのはいいが、
ちゃんと勝負がついたのはたった二回しかなかった。
お前ら、もう少し勝負の内容をちゃんと考えてからやったほうがいいんじゃないのか?
せめてこう……じゃんけんとかそういうシンプルなやつでいいだろ。
「あー!!くっそ、またやり直しかよー」
「よし!なんとか乗り切った!!」
「先生ー、また書いてくださーい」
「おー任せろー」
……ん?
なんで先生に紙を二枚渡す必要があるんだ、しかも線も三本あるし。
゛あたり゛に゛はずれ゛に、゛もう一回゛……?
まてまてまて、おかしいだろこのあみだくじ。なんでもう一回!?どうしてそんなのが出てきた!
普通にあたりとはずれでいいじゃないか!
まずあみだくじは一人が一枚の紙でするもんじゃないだろ。
あー……これはまた決まんないんだろうなぁ。
みんな、そんな目で俺を見ないでくれ。
わかってる。
また今回も俺が二人が狙っていた席に座ることになるんですよね!!
こうして、今回も二人の席取り戦争は終わることはありませんでした。