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家来、初仕事 3

「よし、終わった」

 咲希は本を閉じて片付けるとウーンと伸びをする。真っさらだった問題集がページをめくられ、書き込まれて空気を含み、多少厚みを増している。問題集が自分のものになったという達成感が好きだった。

「そっちはどう? 進んでる?」

 近くに大悟の気配が無いことに気づいて見回すと、図面のとおりの城が既に出来上がっていた。きっと内装にでも取りかかっているのだろうと城に歩み寄る。

 ノイヴァンシュタイン城というドイツの城をモチーフにした建物。上下逆さまのシャンデリアのようにいくつもの尖塔が配された城は、むしろ咲希が幼い頃に見た遊園地の城に似ていた。白い壁にターコイズ色の屋根のメルヘンチックなお城。甘やかされて育った咲希でも、さすがに父に城をねだったことなどない。

 駆けだしたい衝動を抑えつつ、『プリンセスの威厳』を保ちながら城に近付くと、多少仕上げが粗い部分を見付ける。魔法少女のワンドのような小ぶりの杖を手に発生させ、それで指した部分を自分好みに修正していく。屋根の色味を多少明るく変更して、咲希は満足げにうなずいた。

 大悟の初仕事に満足した咲希は「手の甲にキスぐらいさせてあげようかしら」などと上機嫌なまま城に入る。

 天井を向いてシャンデリアを構築中の大悟は咲希に気づいて振り返った。

「勉強はもう終わったか? お姫様」

 大悟は照れ笑いのような表情を浮かべて作業を再開する。

「あんたって結構器用だったのね。わたしの目に狂いはなかったということかしら」

 まあな。と、言ったきり、また天井を向く大悟。よく見るとシャンデリアの造形があまり良くない。

「疲れたんじゃない? あんまりこっちに長居してると夜眠れなくなるから、そろそろ帰って夕食にしましょう?」

 そう言った途端に大悟のお腹がグーッと鳴った。あははと笑って咲希に向き直る。

「あ、そうか。下で作って、あとから吊したほうが楽だったのか。まあでも、今日はこれぐらいに……」

 大悟は言葉を切って咲希に駆け寄る。そして、そのまま咲希を突き飛ばした。

「ちょっと、なにするのよ!?」

 大悟はさらに手のひらを向けて咲希を浮かせ、突き飛ばす。

 尋常ではない大悟の様子に圧倒されていると、高い天井からシャンデリアが降ってきた。

 水滴を落とした瞬間をスローカメラで見たように、クリスタルの破片が飛び散った。

 咲希をかばった大悟は下敷きになり、背中から胸にかけて銀の突起に貫かれていた。

 咲希はとっさにシャンデリアを指差して消滅させたが、腰が抜けたようになって起き上がれない。

「ぶ……ぶじ……か?」

 赤い絨毯がジワジワと黒く湿ってゆく。大悟はつらそうにうめきながらも咲希に向かってはってくる。

「馬鹿! 動いちゃだめ!」

 咲希は駆け寄り、大悟の手を握った。

「ちょっと突貫工事が過ぎたか……ごめん」

「わたしのわがままに付き合わせたばっかりに……ごめんなさい……許して……」

 大悟の手を胸に抱いて涙をこぼす咲希。大悟は長いため息を一つついて全身の力を失う。

 建てたばかりの城に主の悲鳴ばかりがこだました。

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