家来、就職する 2
うながされるまま男についていくと、屋敷に入り、『エレベーター』で三階に上がった。そこは室内プールになっていた。二十五メートルプールの向こうの窓辺には、サマーベッドとテーブルが置いてある。黄色地にオレンジの花柄ビキニを着けた咲希が、サマーベッドに寝そべっていた。かたわらのテーブルには果物がささったトロピカルジュース。フロアのどこかから、ごく自然な室内楽が抑えたボリュームで流されている。
「これのどこがメディテーションだ! 自宅にいながらのんびりバカンスしやがって!」
と、突っ込みを入れつつ咲希に歩み寄りながらも、目は咲希の水着姿に釘付けだった。ついさっきまで泳いでましたというように、水滴を弾くつややかな白肌。大きすぎず、小さすぎず魅惑の谷間を形成する胸。細すぎる腰からムッチリと盛り上がっていくヒップのライン。そして、張りつめて輝く太もも、太もも、太もも。まるでグラビアアイドルのような、住む世界の違う美少女のオーラをまとっていた。
「泳いでると考えがまとまったりするのよ。それに、こうやってリラックスしてると、細かいことなんかどうでもいいっていう心境になれるし」
大悟はうながされて隣のサマーベッドに腰かける。メイド服を着たメイドさんが咲希のものと同じトロピカルジュースを持ってきて、ニコリと一礼して立ち去った。
「で、佐藤大悟急募っていうのは?」
咲希は身体の左を下にして大悟のほうを向く。柔らかそうな胸が寄って、さらに谷間が強調された。
「あんたっていつ寝てるの? あの日以来どこを捜しても見当たらないし。なんで主人のわたしが家来を捜しまわらなくちゃならないのよ?」
大悟が近頃の生活パターンを説明すると、咲希は「あきれた」というようなため息をついた。
「どうせそんなことだろうと思ったけど。つまり、あんたと寝食を共にして、わたしがあっちにいる間は家来として仕えてもらうっていうアイデアなんだけど、どうかしら?」
中身がちょっとアレな子とは知らずにとはいえ、ずっと憧れてきた咲希との共同生活。一つ屋根の下で寝食を共にする。在学中なら学校で噂になりそうだからとためらったかもしれないが、使用人の一人として就職するのなら断る理由などないだろう。それでも、一応待遇について訊ねてみた。
「そうね、お給料については他の人達と同じ計算で……」
目が点になるような高給だった。他の使用人は定時で自宅に帰るが、大悟の場合は住み込みで拘束時間百パーセントだから給与も破格に跳ね上がるのだ。
「だけど、そんなに給料出して俺に何をさせるつもりなんだ?」
咲希が起きている間は基本的に自由時間だが、咲希が寝るときには、それが昼寝であろうがなんだろうが直ちにかけつけて一緒に寝なくてはならないそうだ。夢の中での目下の仕事は城の建築らしい。
「まあ、あっちでは城を建てるって言っても力仕事にもならないし、本当にいいのか? それに親御さんはこの件について知ってるのか?」
「パパもママもあんまり帰ってこないし、遊び相手を一人雇うって言ったら、あっさりオーケーしてくれたわ」
金で友達を雇うなどと聞いて何も言わない親ってどんな人なんだろうと思いつつ、親御さんが不在なら気楽でいいやとホッとする大悟だった。
「じゃあ決まり。契約とか詳しいことは中条さんから聞いてやっておいてね」
中条というのは、先ほど大悟をここまで案内してきた男のことらしい。
二、三日中に引っ越し屋を向かわせるので、それまでに用意しておくようにと言われ、ひとまず帰宅しようとする大悟だったが、
「そうそう、わたしが眠るときに眠れないとかは困るから、生活パターンをしっかりしておいてね。まあ、どうしても眠れないときには方法が無くはないけど」
クスクス笑いに嫌な予感を感じ、生活パターンの変更を心に誓う大悟であった。




