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家来、大いに戦う 16

「咲希、俺達は無敵なんだろ、まともに取り合うな!」

 教祖は振り向きもせず、大悟と力比べの直刀に力を込め続けた。

「人の心配をしている場合か。よくも我が妻を! よくも俺の涼香ちゃんをあんな目に!」

 『涼香ちゃん』って誰だ? と、大悟は首を傾げながら力攻めに耐える。あ、神代のことか。と、気付いてスッキリした表情を浮かべ、右足で蹴り上げる。

 教祖が一歩退いて間合いを取り直す。串刺しだった咲希の体は地面に落ちた。

「おまえの女も痛めつけてやろう。愛しい者を目の前で傷付けられるむごたらしさを味わうがいい!」

 大悟は「あれ?」という顔をした。

「なあ、おっさんもひょっとして、いい奴なんじゃないのか?」

 教祖の肩がビクっとして、動きを止めた。

「あんたといい、神代といい、戦闘中に我が妻だの我が夫だのって、ずいぶんと仲良さそうじゃないか。葵だって、あんなに素直でいい子だし」

 咲希はそーっとそーっと後ずさりして、立ち上がった。そして、剣をかまえて教祖に襲いかかろうとする。

「咲希、待て!」

 咲希の動きがピタリと止まった。

「俺、気付いたんだ。俺達に必要なのは戦いじゃなくて、話し合いじゃないのか?」

 教祖の直刀が大悟の胸をえぐった。

「それでは私の気が済まんのだ。苦しめ、小僧!」

 大悟は冷や汗をたらし、奥歯をガチガチいわせている。

「悪かったな、おっさん。気が済むまで付き合うから、いくらでもやれ」

「いきがるな、小僧!」

 教祖は直刀を引き抜くと、倒れた大悟に馬乗りになって殴打した。咲希が背後から教祖をめがけて振りかぶる。

「いいんだ、咲希……手を出すな……」

 咲希は振りかぶったまま身動きが取れないようだ。葛藤しているのだろう。

「パパ、おにいちゃんをいじめちゃだめ!」

 葵の声がした。見れば神代が葵の手を引いて歩いてくる。教祖は立ち上がり、殴打の嵐がやんだ。咲希は大悟に駆け寄って傷の手当てをした。大悟もまた咲希の胸に手を当てて、えぐられた傷口を癒す。

「おにいちゃんったら、おねえちゃんのおっぱい触ってる~。えっち~」

「こ、これは、傷の手当てだ。よく見ろ、ここはおっぱいよりちょっと下であってだな……」

 大悟の弁解を眺めていた神代がクスっと笑った。フェミニンな白いワンピースを着ている。

「私達の負けよ、あなた」

 神代はそう言いながら、教祖こと山田に寄り添った。

「私はまだまだやれるぞ。こんなひよっこどもに邪魔などさせるか」

 神代は山田を引き止めるようにして背後から抱き締めた。葵は両親を見上げて嬉しそうに微笑んでいる。

「あなた、人間の姿に戻って、口をきけるようになったじゃないの。この子達のおかげよ」

「おお、言われてみれば……」

 だいぶ痛い目にもあったが、ドラゴンの体を傷付けられ、神代がやられるのを見て人の姿に戻った山田。大勢の精神エネルギーを一身に背負って、後戻りできない化け物になっていた山田だったが、咲希と同様のトランス状態に入ったことで、自らの身に築いた呪縛が解けたらしい。我を忘れたことで、龍神復活という野望への執着を手放したのだろう。

「いくらやっても、この子達は何度でもやり返しにくるでしょう。しつこくて、お馬鹿で、正義感に燃えて……これが若さなのかしらね」

 神代が楽しそうに笑うと、山田はやる気が失せたとでもいうように直刀を投げ捨てた。

「さてと、あなたも人に戻れたことだし、教団のお金を持ち逃げして高飛びしましょう。この子達が思いもよらないところで、また新しい教団でも作ればやり直せるわ」

 神代は可愛い声で、優しいママの物腰で、新たな悪事を提案するのであった。

「ちょっと待て。おまえらさ、なんで悪いことしようと思うんだ? 根はいい奴そうなのに、高飛びだの新教団だのって」

 山田はうめくように答えた。

「涼香ちゃんと葵ちゃんに楽な暮らしをさせてやりたいからだ。大金を得るためには、欲深い者達の足下を見てつけこむのが一番手っ取り早いだろう?」

 咲希は小早川本を発生させて山田に手渡した。

「その本ってわたしのパパが書いたの。こうやって夢の中で出会ったのも何かの縁かもしれないし、よかったら読んでみて?」

「ほ~、とすれば、あなたは小早川会長のお嬢様で?」

 途端に改まった態度の山田。昔、パーティで小早川に出会い、その思想に共感して著書を読みあさった結果『夢現の法』を完成させて教団を立ち上げたのだという。つまり、明晰夢を見られるようになった根っこは同じで、小早川だったのだ。

「パパの本には、悪いことをしないと儲からないって書いてたかしら?」

 山田は恥じ入るような顔になる。神代は山田から本を受け取ってパラパラめくった。

「あらあら、ほとんど丸パクリじゃないの、あなた」

 教典のほとんどが小早川の著書を盗作したものらしかった。信者に知られて不利な情報だけを除いたそうだ。それを教典としているうちに、山田自身も『楽して願いなど叶わない』という主義に陥ったらしい。

「じゃあ、教団のお金を持ち逃げして、高飛びした先で楽しく暮らしましょう!」

 神代が無邪気に宣言する。

「まあ、持ち逃げは決定事項のようだから、とやかく言わないけどな。俺達は警察じゃないし。でも、捕まって葵を路頭に迷わせたりはするなよ」

 大悟はしゃがみこんで葵の目線になった。

「もしもパパとママが悪いことを始めたら、俺達に知らせるんだぞ」

 咲希がニヤニヤ笑いながら続ける。

「大悟マンとの約束だぞっ」

「うっせ、おまえだって『姫様』だろ」

 そんなやり取りをしてじゃれ合っている二人に葵は言った。

「ケンカしちゃだめ」

 ヒーローと姫様が「はーい」と揃って返事して、葵は満足そうに微笑んだ。

 大悟と葵が指切りげんまんを始めると、咲希も加わった。葵に促されて親達も参加する。

「それにしても、家族三人揃って笑える日が戻ってくるなんて、夢にも思わなかったわ」

 神代の目から涙がこぼれ落ちて、葵はポケットからガーゼのハンカチを取り出して渡す。

 大悟は咲希の腰に手を回して得意気な顔をする。

「俺だって、この小早川のお嬢さんと出会って、家来としてたんまり給料もらって、いまでは恋人同士なんだ。夢みたいな話だけどな」

 結局、一同は一晩中語り尽くした。持ち逃げにこだわっていた神代だったが、考えを改め、人のためになる教団として大蛇大社を再建すると誓った。我慢を強いる教えではなく、悩める人々を解放するための教団に。寄り添っていないと不安で仕方がない人達はたしかにいる。だから、その人達を救うのだと。

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