家来、大いに戦う 15
二人はドラゴンの背にテレポートして、それぞれのドラゴンスレイヤーを抜いた。咲希が逆手に持った剣でドラゴンの背中を突こうとすると、大悟が制止した。
「どうせなら、二度とこっちに来たくないってぐらい、痛い目にあわせてやらないとな」
大悟はドラゴンの皮膚に刃を立てながら剣を引きずって歩き回った。豆腐のように切れるというだけあって、ひっかき傷ではすまないような痛々しい傷が大悟を追いかけていく。咲希はドラゴンのうめき声を聞いて顔を歪めながらも、大悟とは別の筋をつけて歩き回った。
「急所をはずしてバラバラにしてやろうか」
咲希は一層顔をしかめる。
「あんたって、ゲームのやりすぎで感覚が麻痺してるんじゃないの?」
大悟は気まずい顔でうなったが、それどころじゃないと言ってドラゴンの足に向かった。到着するや否や、足指の一本を切断した。ドラゴンは地響きがするほどの咆哮を上げ、水色ビームを乱射している。しかし、大悟マンが首を結んだおかげでこちらには届かない。
「急げ、気絶する前に出来るだけ苦痛を与えるんだ」
急かされた咲希は「ごめんね!」と、叫びながら、目をつむったままドラゴンの指を切断していく。
「よし、次は尻尾、それから一気に脚と首を落とすぞ!」
大悟は体じゅうに浴びた返り血を浄化しながら叫んだ。咲希もまた血を消し去りながら、文句を言う。
「これじゃあ、わたし達が悪者みたいじゃないの」
「俺だって好きでやってるわけじゃないんだけどな。つらかったら戻って待っててくれ」
大悟は咲希の肩を一つ叩いて尻尾に向かった。咲希は「もう!」と唇を尖らせながらも後を追う。
尻尾を何本か切り落としたときだった。大悟は視界の隅で嫌なものを見た気がした。
「山田がうなされているから何かと思えば、おまえ達だったか。もう容赦はせぬぞ!」
どこからか神代がテレポートしてきたのだ。
神代もまた、手に長剣を発生させた。日本の神様が持っていそうなデザインの古くさい直刀だった。そのまま神代は分身して、二人をぐるりと取り囲んだ。
「我が夫が受けた痛みを貴様らも味わうがいい!」
神代は長すぎる黒髪を振り乱し、鬼の形相で二人を斬りつける。四方八方からの斬撃は、それでも致命傷を与えない。トラウマを負わせる作戦を、そっくりそのままお返しされているのだ。
「咲希、逃げろ! こいつは俺がなんとか……」
「痛くて……テレポートに集中できないわ!」
生きたままフードプロセッサーにかけられたらこんな痛みだろうかという激痛の嵐。二人は対抗する術もなく、へたり込んで痛みを受け続けるしかなかった。
「どうだ、これで少しは懲りたか、虫けらどもめ!」
一つの体に戻った神代が振りかぶる。咲希の首を狙っているようだった。大悟は、かばってやろうにも激痛で身動きが取れない。目はかすみ、呼吸する度に血を吐く有り様だった。
長剣がうなりを上げて振り下ろされ、バチンッと骨を断つような嫌な音がした。
大悟が恐る恐る目を上げて見ると、赤い袴に包まれた脚が落ちていた。
「……誰が虫けらですって?」
咲希は表情のない顔で神代を見つめている。神代は左脚を失ってバランスを崩し、仰向けの体を腕だけで後ずさりさせていた。咲希が剣を逆手に持ち替えて突きを繰り出そうとした瞬間、神代は茶色い瓶を発生させて掲げた。そして、余裕の表情を浮かべる。
「これは、マスタードガスよりも凶悪な劇薬という考えで出したものだ。この瓶が割れれば三人とも瞬時に皮膚がただれておぞましい姿になることだろう。さあ、観念しろ、虫けらの小娘」
神代の高笑いが響く中、咲希はうつむいてブツブツ言いだした。
「……姫……だもん。……世が世なら……わたしは一国の姫なんだもん!」
咲希の髪が立て巻きロールの長髪にかわり、色が抜けていって金髪になった。よく見れば目も青い。続いて、着ていたものが豪奢な白いドレスに生まれ変わった。ゴゴゴゴと薄ピンクのオーラをまとい、剣を再び振りかぶる。
「忘れたか? 小僧の前で、皮膚のただれた醜悪な姿になってもいいのか?」
咲希は「おだまり」と、静かに呟いて歩を進めた。
「寄るな! 割るぞ! 瓶を割るぞ!」
神代の震える手が瓶を放した。その瞬間、咲希が叫ぶ。
「わたしの威厳が二人を守るわ! わたし達は無敵よ!」
咲希はガラスが割れる音も無視して神代を突きまくった。血まみれになった神代の体は瞬時にただれ、刺し傷と皮膚を焼かれる苦痛にのたうちまわる。そして、半透明になって消えていった。咲希は割れた瓶を消滅させると、ペタリと座りこんで元の姿に戻る。
「あら……わたし、何をしていたのかしら?」
大悟は自分の体を回復させ、咲希に歩み寄る。咲希の傷は、変身した拍子に完治していたようだ。
「いまのは一体? おまえ、姫だったの?」
咲希はある種のトランス状態にでも入っていたのか、自分が何をしたかはっきりとは覚えていないらしい。大悟が説明すると、咲希は耳まで真っ赤になって大悟の腕を引っぱたく。
「そ、そんなお子様みたいな妄想……。でも、たしかに、うちの先祖は大名家だったとかなんとか聞いたことはあるけど」
大悟は面白がって、おだてたり、からかったりしながら詮索した。どうやら、咲希は占い師に言われて前世が姫だったと信じているらしく、先祖も大名家かもしれないし、ということで、自分はいまでも姫なのだと思い込んでいるようだ。ヨーロピアンなお姫様の姿だったのは、咲希の好みなのだろう。よりにもよって、その姫様に向かって虫けら呼ばわりなどしたのだから、神代はいわば、『逆鱗に触れて』しまったのである。
「……あれ、ドラゴンがいない。しまった、気絶したか」
「大悟、うしろ!」
大悟は振り返って剣で防いだ。神代同様古くさい直刀で襲ってきたのは日本神話に登場する、なんとかの命みたいな格好の男だった。
「……大龍神命……教祖か!」
咲希はとっさに教祖の背後に回り込み、剣で突こうとした。しかし、教祖の背中から槍のようなものが飛びだして、咲希の胸を射貫く。ミニチュア化したドラゴンの尻尾の一つだった。咲希は目を見開いて驚いたあと、重そうにまぶたを閉じていく。




