家来、大いに戦う 14
大悟と咲希は屋敷に帰るなり、それぞれのベッドに入った。咲希の疲労がピークに達していたのである。
女三人は昨夜、大悟を心配してあまり眠っていなかった。昼間の高速道路にバクは来ないだろうと、美夜と唯依は後部座席で眠り、大悟がずっと運転して帰ってきた。咲希は時折、頭をコックリコックリさせながらも、結局は眠らないで大悟に付き合ってきたのだった。
「さあ、行くわよ!」
夢で合流した途端、咲希は目を爛々と輝かせて、はりきっている。出会った当初は「他人には興味がない」などと言っていた咲希だが、ずいぶんとお節介焼きになったものだ。
「二人だけになってみると寂しいもんだな」
美夜と唯依は四時間の道のりを眠ってきたのだから、しばらくは夢の世界に来ないだろう。元より誘うつもりのなかった二人ではあるが。
「あんた、よくそういうことが言えるわね。……お婆さんには『カップルだ』って言ったくせに」
大悟は、いじけ顔の咲希を抱き締めて唇を奪った。
「小早川咲希、俺の彼女になれ」
大悟の腕の中、咲希はビクリと硬直した。大悟が家来になって以来、初めて咲希に命令が通ったようだ。咲希はコクリと満足げにうなずいて、自ら唇を合わせにいった。
「これで、俺も家来じゃなくなったな」
シメシメという顔の大悟だったが……。
「あんたはわたしの家来よ。たとえば、社内恋愛してる上司と部下がいたとして、付き合い始めたからってポジションはかわらないでしょ?」
あんたはわたしの犬よ、奴隷よ、下僕なのよ。と、高笑いする咲希。こういうところは、ちょっとアレな子のままらしい。
大悟は目を閉じて大蛇大社をイメージする。そして、咲希の手をとった。
「行こうか、ご主人様」
咲希は満足げに手を差し出して握らせ、二人揃ってテレポートしたのだった。
大蛇大社上空から見下ろすと、例のドラゴンとバクがちらほらいるだけだった。まだ夕方だったから、眠っている人間も少ないのだろう。
「チャンスだ」
大悟は肩にロケットランチャーを発生させる。ドラゴンの胴辺りに狙いを定め、「離れろ」と、咲希に指示する。ボフっと空気の塊を耳に押しこんだような衝撃があって、ロケットが発射された。みるみる加速したロケットは、ドラゴンの背中に命中した。その瞬間、目の前が真っ白になるほどの光が溢れ、追ってキノコ雲が発生した。大悟は咲希を抱き寄せて球状のバリアーを張っている。
「初めからこうしとけば楽だったんだな」
突然の出来事に咲希はポカーンとしている。
「……あんた、あれって」
「小型の核爆弾をイメージしてみたんだ。でも、すぐに辺りがクリーンになるっていう、都合のいい設定もしてあるから大丈夫だ」
キノコ雲が散って視界がひらけてくると、大悟はバリアーを解いた。
「だめか……」
大蛇大社の敷地全体がクレーターになっていたが、ドラゴンには傷一つ負わせられなかったようだ。
「危ない!」
咲希が叫びつつ、大悟を連れてテレポートする。二人がいた位置に、まぶしく青白い極太の光線が駆け抜けた。
「ゴジラかよ!」
と、大悟が突っ込みを入れている間にも、八つの頭が次々に光線を放って攻撃してくる。
「もう、馬鹿! 無闇に攻撃したから怒らせちゃったじゃないの!」
咲希は大悟を連れて唯依の別荘にテレポートした。歩いて十分ほどのこの場所までドラゴンの咆哮が聞こえて地響きを起こしている。八つの首が山からニョキッとそびえているのまで見えた。
「困ったわね。核攻撃でもかなわないなんて」
咲希は腕組みしてウーンとうなっている。
「まだ考えてたことがあるんだ。バクに見つからないように隠れててくれ」
大悟はそう言い残してさっさと飛び上がった。ジュワッ! っと、妙な掛け声をかけて。その姿は離れていくにつれて小さくなるどころか巨大化し、しまいには銀と赤のピッタリしたタイツマンになり、どこかで見たことのあるヒーローっぽい姿に変身を遂げた。
「……さすがに妄想力だけは逞しいみたいね」
咲希は呆気にとられながらも、プッと吹き出して笑うのだった。
大悟マンが着地すると同時に周囲を大地震が襲った。咲希は慌てて飛び上がり、離れた空から観戦する。
大悟マンは、光線をひらりひらりとかわしてドラゴンの頭の一つに近寄り、ヘッドロックをきめてガツンとゲンコツをはった。殴られた頭は気を失って、キューっと地面に伏せた。同様の手順で八つの頭全てを気絶させ、だらんとした長い首を結びつける大悟マン。
「やったわ!」
咲希はテレビの前のちびっ子みたいに喜んだ。
しかし、そのあとがちょっとお粗末だった。大悟マンはドラゴンの胴体にパンチを入れたが、相当に硬いらしく、拳をフーフー吹いて痛がった。腹いせとばかりに結んだ首を引っ張っているが、ちぎれたり傷付いたりしているようには見えない。そうこうするうちに、大悟マンの胸で赤いランプが点滅し始めた。
大悟マンは大きな体で「しまった」というジェスチャーをしながらも、腕をクロスさせて、何とか光線を放った。しかし、核攻撃さえも受け付けなかったドラゴンの皮膚は、大悟マンの必殺光線でもびくともしなかった。
大悟マンはやれやれと首を振りつつ、ジュワッ! と、飛び上がる。大悟の姿に縮小しながら飛んできて、咲希のそばに合流した。
「ちくしょ~、三分って意外と短いのな」
「あんた、なんでそんなところまで忠実に再現してるのよ! 馬鹿じゃないの?」
「あ、そっか」
きつい口調で突っ込んだ咲希だったが、思い出したように肩を震わせ、アーッハッハと大笑いした。大悟に抱きつき、大悟の肩をバンバン叩いて笑い続けた。
「……それにしても、『あの大悟マン』でさえかなわないなんて。他にもっと凄いヒーローはいないの?」
今さら顔を赤らめて恥ずかしがる大悟だったが、
「あ、そうだ!」
と、ひらめいたようだった。
大悟は右手に大きな剣を発生させた。
「ドラゴンスレイヤーだ」
咲希は「何それ?」と、問う。
「よくゲームなんかに登場する伝説の剣で、ドラゴンの鋼のような肌をまるで豆腐でも切るように切り裂くという最強アイテムだ。……あれ、バターのようにだったかな?」
「ふーん。でも、なんか伝説っぽく見えないわね。ちょっと貸して」
咲希は左手に色とりどりの宝石を発生させ、剣の柄に埋め込んでいく。携帯電話をデコレーションするようにして、どんどんきらびやかになっていった。
「まだか~。重いんだけど……」
鞘をかぶった刀身を支えている大悟が文句を言い出した。咲希はすっかり熱中していたのだ。
「羽毛のように軽いとかいう設定にすれば?」
「あ、そうか」
大悟がつぶやいた瞬間、大きな剣がフワッと浮き上がりそうになった。そのまましばらく待つと、咲希が「かわい~! ね、可愛いでしょ?」と、目を輝かせて顔を上げた。
「って、可愛くしてどうするんだよ」
咲希は「それもそうね」と、宝石に手のひらを向け、ルビーやサファイアのような高級感のある彩りに変更していった。鞘と刀身にアラベスク(唐草)模様を浮き彫りにして、満足そうにうなずいた。
「これなら、なんでも切れる伝説の剣に見えるな」
咲希は早速同じ物を発生させて、腰に装着した。一度イメージが固まってしまえば複製はたやすいのだ。
「咲希はここで待ってろよ。危ないから」
「気持ちは嬉しいんだけど、あんたってば、どうも詰めが甘いのよね。任せておいたら日が暮れちゃうわ」




