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家来、大いに戦う 12

 大悟は一つ大きなくしゃみをした。唯依の予想に反してエッチなことはしていなかった。何本もの配線がつながった金属製のヘルメットをかぶらされ、精神エネルギーを吸われていたのだった。

「き~もちいい~」

 周囲には無数に同様の電気椅子みたいな装置があって、バクや人間達がよだれを垂らしてエネルギーを吸われている。ドラゴンの腹の中は生き物の体内というより、何かの研究所みたいな場所だった。リノリウムの床にまぶしくない明るさの白い壁。それ以外には窓があるわけでもなく、殺風景なところだ。

 はるか向こうには、この『施設』を管理しているらしい中年男がいた。男のデスクから、モニターとキーボード、マウスなどが馬鹿でっかい箱につながっている。いわゆるパソコンとは違う、高性能なコンピューターなのだろう。

 大悟は遊園地の巨大滑り台にも似たドラゴンの喉を滑ってくるうちに、『自分の体が元通りだ』と思えば元通りになることに気付き、とっくに復活していた。ついでだからドラゴンの弱点でも発見できないかとウロウロしていたら白装束達に捕まり、装置にかけられたのだった。それも調査のためにあえてしたことであった。しかし、エネルギーを吸われる装置が強烈な快感を伴って、一緒になってよだれを垂らしていたのである。

 アホ丸出しの顔で座っている大悟の袖を誰かがクイクイっと引っ張った。大悟はその手を「うるさいな」と何度か払いのけたが、しつこさに負けてそちらを見た。葵だった。声をかけようとすると、シーっと人差し指を立てる。

 葵は慣れた手付きで大悟のヘルメットをはずし、大悟の手をとってどこかへテレポートした。

 淡いピンクの壁にカラフルな風船模様が散りばめられた部屋だった。シングルベッドとシステムキッチン、二人がけのテーブルセット、冷蔵庫があるだけのシンプルな部屋だが、ベッドの上は大小さまざまなぬいぐるみで埋め尽くされていた。

「葵のお部屋へようこそ、おにいちゃん」

 大悟は座るともなしにテーブルセットの椅子に腰かけた。葵も向かいに腰かけて、部屋の真ん中で二人は対面する形になった。

「ここはいったい……?」

 葵は少し自慢げな顔をして言う。

「葵のお部屋だよ。ここも龍神様の体の中だけど、いつもこっそり抜け出してきて遊んでるの」

 気付けば出入り口も無く、この空間があると知った上でテレポートしてこなければ入れないような部屋だ。葵好みの部屋らしいが、葵一人で考えついて作り上げたものとも思えない。

「ここは誰が作ったんだ?」

 葵は「内緒なんだけど……」と、ためらいながらも、

「巫女様が作ってくれたの。忙しくないときには遊びにきてくれるのよ。いいでしょ~?」

 よくない、大変よろしくないと叫びたい大悟だったが、葵は神代のことが好きなのだろう。背骨をへし折られてドラゴンのエサにされたなどとは言いづらかった。

 神代が来るかもしれないと思うと、途端に逃げ出したくなる大悟だったが、葵が冷蔵庫からフルーツ牛乳のパックを取り出してきてコップに注いだ。それを振る舞われて立ち上がるわけにもいかなくなる。

「夢の中ならなんでも好きに出して、飲んだり食ったりできるだろ。なんでそんな面倒なことをしてるんだ?」

「巫女様が用意してくれたものしか食べちゃだめなの」

 また子どもに変なルールを押しつけているのかと、大悟は顔をしかめた。しかし、どうやら事情が違った。夢の力に目覚めたばかりの葵はお菓子を山ほど出して食べていた。それを神代が、「夢の中で癖になると現実世界でも食べたくなって、おデブになっちゃうぞ~」と、適量のおやつを用意してくれることになったらしい。

「へ~、あの神代も葵の前ではそんな喋り方するんだな」

「巫女様はえらい人だから、周りに大人がいるときには、えらい人の喋り方をするんだって」

 大悟が懐かしく甘いフルーツ牛乳に手をつけていると、葵はポケットをまさぐって、なにやら取り出した。細い金のチェーンと卵形のトップがついたペンダントだった。

「御柱様に取り上げられちゃったけど、思い出して作ってみたんだ~」

 渡されてつまみを押してみると、ペンダントがパカッと開いて、中には写真があった。

「これは……」

 赤ん坊を抱く神代と教祖の山田龍造が三人で写っていた。ここは宗教施設だから、赤ん坊にありがたい洗礼でもほどこしている図に見えなくもないが。

「葵のパパとママなのか?」

 葵は唇に人差し指を当てて、シーっと言いながら、心底嬉しそうに微笑んでいる。

「……そなた、ここで何をしている?」

 背後で突然声がして、大悟は腰を抜かす寸前だった。

「巫女様!」

 葵は椅子をひっくり返しながら立ち上がって、大悟の後に駆けていった。大悟はチャンスとばかりに小さくテレポートして、葵が座っていた椅子のそばに出る。葵に抱きつかれている神代は、黒地に白い水玉のワンピース姿だった。

「見たな……」

 朝顔の花を重ねたようなスカートのフェミニンなワンピース姿を言っているのか、それとも写真のことなのか。どちらにしても神代の秘密を知ってしまったらしいと、物凄く嫌な予感がする大悟。葵の前だが仕方ないと、ためらいがちにファイティングポーズをとったが……。

「帰ってくれないか。あの娘達を連れてこの土地を出ていくなら、手荒な真似などしたくはないのだ」

 威厳に満ちた低い声ではなかった。ワンピースに負けないぐらい可愛らしい声だった。そういう目で見てこなかったから気付かなかったが、これは美夜さんに匹敵するぐらいの素敵なお姉さんかもしれない。しかし、人妻で娘がいるのだとちょっと残念な大悟。なんとなく拍子抜けして握りかけた拳を解いた。

「あんた、本当はいい奴だろ? 葵にこれだけ愛されてるんだから。そんなあんたがどうして……」

 神代は屈み込んで葵の目の高さになり、我が子をひしと胸に抱いた。

「私は物心ついたときから孤児みなしごだった。もしも自分が子を持つようなことがあれば、その子には決して苦労をかけたくない。そう思って金と力を持つ者を頼った。山田を利用してやろうと近付いたのだが、このざまだ。奴は龍神復活に執着し、多量の精神エネルギーを人間の体に吸い上げて気が触れた」

 龍神は既に教団のシンボルとして、無くてはならない存在だ。山田は生きる屍のようになって、神代が手を引き、代わりに喋ってやらないと何もできない。実質、教団を運営しているのは神代なのだ。自分がとんでもない悪事を働いていると知りながら、もう後には引けない。葵を路頭に迷わせることはできない。

 神代は吐き捨てるように言い終わると、大悟に手のひらを向けた。

「立ち去れ」

 大悟は抵抗する気も失せたまま、目覚めていくのだった。

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