家来、就職する
就職情報誌を定期購読状態の大悟は、この日も近所の書店に出かけた。就職情報誌を買うや否や書店をあとにする。本が嫌いなのではなく、余計な出費を避けるために毎度そうしているのだった。
「どっかにいい仕事ねえかな~」
高給で、可愛い女の子の同僚がいて、拘束時間があんまり長くない仕事。作業内容もきつくなくて……。と、夢のような仕事を妄想する大悟だったが、実際に情報誌を眺めるときには、そこまで『より好み』してはいなかった。それでも、まだ生活費がそれほど切迫していなかったので、いい仕事があったらやろうぐらいの気持ちだったのである。
ふと、あれ以来咲希に会っていなかったなと気づく。このところインターネットでゲームをやっている大悟は、朝寝て夕方に起きる半ネトゲ廃人状態だったのだ。咲希は高校生だから普通に夜寝て朝起きる生活をしていることだろう。つまり、寝る時間がすれ違っているから夢で会えないのだ。
「ま、いいか」
咲希に会いたいような気もしたが、会えば家来としてこき使われるに違いない。勝負に負けたから家来という属性にはなってやったが、生活パターンまで変えてこき使われに行く必要もないだろう。
それでも、なんとなく小早川邸を通るルートで帰ってみようかと思い立つ大悟。情報誌をペラペラめくって眺めつつ、リアルの世界では歩くの面倒だな、などと考えつつ歩いていくと、小早川邸が見えてきた。リアルでの小早川邸は以前のままで、モダンな大邸宅だった。
わざわざチャイムまで鳴らして会っていくこともないかと、そのまま通りすぎようとする大悟。なんだか視線の隅で自分の名前を見たような気がして門柱を振り返った。門柱に張り紙がされている。
急募 佐藤大悟 三食昼寝付き 社員寮あり 給与その他詳細は面談にて。と、あった。
激しく罠の予感がしながらも、三食昼寝付きで社員寮ありなら生活費の心配がいらなくなる。給料もくれるつもりらしいから、念願の『小遣いに余裕のある暮らし』ができるチャンスなのだ。
「ええい、ままよ!」
と、後先考えないようにしてチャイムを押した。
「どちら様でしょうか?」
落ち着いた感じの男の声だった。父親か? と思って背筋を正しつつ答える。
「佐藤と申します。咲希さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「失礼ですが、身分を証明されるものを何かお持ちでしょうか?」
財布から免許証を出して、インターフォンのカメラに見せると、音も無く門扉が開いた。
「失礼しました、佐藤様。その求人を見て偽の佐藤大悟が数名訪ねてきたもので。どうぞお入りください」
偽の佐藤大悟ってなんだよと苦笑いしつつ、敷地に入る。リムジンで出入りするのが似合いそうな舗装の道と、手入れの行き届いた芝生。歩きだと数分かかりそうな道のりを歩いていくと、向こうからダークスーツ姿の青年が出迎えにきた。
「お嬢様はメディテーション(瞑想)をなさっておいでです」
「……メディテーション?」
俺は高僧にでも会いに来たんだっけか? と、ポカーンとしつつも、
「じゃあ、またあとで来ます」
と、背を向けようとする大悟。
「いえ、佐藤様がいらっしゃったら、お連れするようにと言いつかっておりますので」




