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家来、大いに戦う 11

 眠りについた四人は、大蛇大社上空から様子をうかがっていた。上から見てみると敷地が龍神の顔の形になっている。花火を打ち上げていた、校庭のような場所に、巨大なドラゴンが鎮座していた。

 八つに枝分かれした首を持っているが、胴から四本脚が生えていて、尻尾が八本ある。大蛇というよりはドラゴンのほうがしっくりくる。そのまわりにはおびただしい数のバクがいて、人間をかついでいってはドラゴンに差し出し、ドラゴンの八つの頭がそれぞれに食らいついていた。中にはバクが人を食べ、その身をドラゴンに捧げる姿もあった。

「あっちゃ~、これは物凄い数だな。いっそのこと爆撃でもするか?」

「そんなことをして片付けたとしても、信者達が眠り直せば、また湧いてくるんじゃないかしら?」

 咲希が難色を示すと、唯依も付け加えた。

「うかつにこちらの存在に気付かれると、厄介かもしれませんね」

 ウーンと唸る一同。

「そうだわ! 信者の皆さんを懐柔してみましょう」

 と、美夜。葵のように粗食を強いられて、ストレスをためている者が大勢いるはずだから、美味しいものを食べさせれば誘惑できるかもしれないというのだ。

「なるほどね。美味しいものだけだと引っ掛からない人もいるだろうから……」

 咲希は美夜に手のひらを向け、強制的に着替えさせた。黒い上下のランジェリーにパツンパツンのフリルエプロン、頭にはフリルカチューシャというエロメイドスタイルである。大慌てで目をそらすのは大悟だった。

「もう、夢の中だからってこんな格好させて……」

 美夜は「えいっ!」とお返しをした。咲希はバニーガールの姿になった。キャーキャー騒ぎながらも、大悟のほうをチラチラ見ている咲希。

「に、似合うかしら?」

 両腕を広げてむしゃぶりつきそうな大悟に、咲希は命じた。

「待て、おあずけ」

 大悟は空中でおすわりのポーズをして、クーンクーンと鼻を鳴らしそうな顔をする。

「私は何に変身すればいいですか?」

 唯依は目をキラキラさせて、なんらかのコスプレをしたがっているようだった。

「うーん、唯依は露出を増やしたところで……」

「先輩、いいかげんにしないと、ドラゴンのエサにしちゃいますよ?」

 プンプン怒っている唯依に大悟は手を向けた。唯依は巫女の格好になった。

「唯依は見るからに『乙女』だからな。神代なんかより、よっぽど説得力があるかもしれないぞ」

 遠回しに幼児体型と言われているのにも気付かず、無邪気に喜ぶ唯依だった。

「じゃあ、わたし達がバクを足止めしている間に、大悟はドラゴンを探ってきてくれるかしら?」

「三人で大丈夫か? かじられそうになったら逃げるんだぞ?」

「あんたのほうこそ、一人で倒してやろうとか無理しちゃだめよ? あんたに、もしものことがあったら……」

「あったら?」

 大悟が興味津々の顔で見つめると、咲希はプイッと顔をそむけた。

「もしものことがあったら、明晰夢を見られる家来を探し直さなきゃいけないでしょ」

 へいへいと呟く大悟。四人は早速、バクの群れの外周あたりに降下し、炊き出しの屋台を発生させた。

「さあさあ皆さん、お疲れになったでしょう。少し休んで、龍神様の復活を盛大にお祝いしましょう!」

 美夜が叫ぶと、バク達は一斉に振り向いた。薄気味悪い光景だったが、女達が豪華な料理を発生させ、美味しそうな匂いと湯気が漂いだすと、バクの変身が解けて人の姿が詰めかけたのだった。

「ほほぉ~めんこくて、ボインボインなメイドさんじゃの~」

「こっちのバニーちゃんもまた萌へぇ~」

 またたく間に美夜と咲希の屋台に行列ができた。唯依のところには数えるほどしか集まっていない。まるで人気投票でもしているかのようだった。

 唯依は形勢不利と悟ったのか、屋台の影に隠れて着替えた。いつも学校で着ている制服姿になり、ひよこがプリントされた真新しいエプロンをしている。髪は二つに結んだツインテール。そして、ちょっと上目遣いになり、必殺の一言が飛びだした。

「お兄ちゃん達、早くこないとご飯抜きなんだからね! 今日はあたしが一生懸命作った手料理なんだぞ!」

 たまらん! と、切なそうに叫んで唯依の列に加わる者が増えた。ちょっとイケナイ趣味のお兄さんやおじさんかもしれない。

 料理がある程度行き渡り、酒なども振る舞って、そこらじゅうが宴会ムードになってくると、かたくなにバクのままでいた者達が変身を解いた。中身はいろんな年格好の女達であった。「あの子、絶対、計算よね~」とかなんとか文句を言いながらも、ちゃっかりと、もらうものはもらって楽しそうにしている。

 大悟はこっそり抜け出してドラゴンに駆け寄った。近くで見るとやはりでかい。首の一本一本がビルのようにそびえていて、赤く光る目が、ちょうど高い建物に設置される航空障害灯を思わせた。黒々としていて、濡れたようにいやらしく光る爬虫類の肌。連中は神として崇めているが、それはまるで悪の象徴にしか見えない。バクたちが途切れて退屈しているのか、苛立ったように唸っている。鼻息だけでもブシューブシューと突風が巻き起こるほどだ。

 しかし、これだけの大物にどうやって対抗するべきか。思案する大悟の後でジャリッと地面が鳴った。

「そなたも龍神様を拝みにきたのか。殊勝な心掛けだな」

 神代がいた。大悟は振り返って頭をかきながらヘラヘラと笑う。

「じ、実はそうなんだ。それにしてもでっかいな~。さすがは神様だ」

 神代はフンっと鼻を鳴らす。

「ところで、あの乱痴気騒ぎはなんだ? そなたの仲間が仕掛けているようだが?」

 このままでは計画が露呈してしまう。大悟は答えるよりも早く神代の背後にワープし、神代の口元を手で覆った。

「たんまりご馳走になったから、おとなしくすれば手荒な真似はしない。さあ、一緒に来てもらおうか」

 神代はフッフッフと笑いだし、しまいには腹を抱えて涙が出るほど大笑いしている。

「なんの真似だ。そなた、この龍神の巫女にかなうとでも思っているのか?」

 大悟の体が宙を舞った。背負い投げされたようだ。そのままみぞおちを踏み付けられ、呼吸困難に陥った。大悟は顔を歪めながらも、手の中にサイレンサー付きの拳銃を発生させる。

「悪いが、あんたには目を覚ましてもらうぜ」

 トストストスっという音と共に、鉛の銃弾三発が発射された。神代の姿が消え、大悟は体勢を立て直した。

「危なかったぜ……」

「危なかったとは、危ないものが去ってから言う言葉だ」

 大悟が振り返ってみても誰もいない。姿を消しているのか、と、気付いたときには背中に違和感を感じたあとだった。

「手が汚れるではないか。この巫女の手を穢すとは、万死に値する罪だぞ?」

 背中の中心でボキッという大きな音がした。痛みすら感じることなく、体の自由が全くきかなくなった。

「それ、お前も龍神様の糧にしてやろう」

 神代は大悟の首根っこをつかんで飛びあがり、ドラゴンの顔の近くまで上昇した。大悟は口をきくことさえできない。

「こちらで死なせたところで意味は無いからな。龍神様の腹の中でせいぜい奉仕するがいい」

 神代が大悟を放り投げると、八つの巨大な頭が競うようにして迫った。そのうちの一つがパクッと大悟をとらえ、飲みこんだ。

 神代は急降下すると、炊き出し屋台に向けて火炎を放った。

「そやつらは天界の間者ぞ! とらえて龍神様に差し出せ!」

 叫び声は、どんちゃん騒ぎしている信者達には届かなかったようだ。

「ええい、役立たずどもめ」

 神代は、屋台から逃げた咲希達のそばに着地した。

「このめでたい日に、とんでもない狼藉をやらかしてくれたものだな」

 咲希は神代の姿に気付き、「大悟……」と呟く。

「あんた、大悟をどうしたのよ!」

 神代はせせら笑って言う。

「今頃は龍神様の腹の中だ。そなたらも後を追うがいい」

 神代が三人に向けて手のひらを掲げる。

「返して……わたしの大悟……返せ!」

 咲希が土煙を上げる勢いで駆け出し、神代に殴りかかる。唯依は屋台のがれきからフォークを拾って続く。神代は涼しい顔でかわし、受け流して二人をからかっているようですらあった。

「それぐらいにしておけ」

 神代の拳が咲希のみぞおちをえぐり、続けざまに唯依を下段回し蹴りでなぎ倒した。お嬢様二人は倒れたまま動けない。暴力を振るわれた経験などなかったのだろう。

 神代は手錠を発生させた。

「お転婆娘には別の仕置きが必要だな」

 神代が咲希の手首を持ち上げた瞬間、

「手ぬるいですわ、巫女様」

 と、美夜が歩み寄ってきた。そして、銃声が二発鳴り響いた。

「な……んで?」

 美夜が咲希と唯依を続けざまに撃ったのだ。

「私、大蛇大社の一員でしたのよ、お嬢様」

 咲希と唯依は目を見開いた。そのまま存在が半透明に薄れて消えてゆく。

 神代は美夜を値踏みするような目で眺めた。

「何を企んでおる」

 美夜はクスっと笑って首を振った。

「何も。私は保護者として、あの子達をこれ以上関わらせるわけにはいかないと、起こしただけですわ」

 美夜は神代に銃口を向けて乱射した。神代は銃弾を素手でつかみ取り、地面に捨てた。

「当たったところで、どうということはないが」

 美夜は続けざまに叫んだ。

「止まりなさい、ひざまずきなさい、私の言うことをききなさい!」

 と、命令したが、神代は微動だにしなかった。

「ふむ、そなたら、我らが夢現のゆめうつつのほうを学んだわけではないようだな。しかし、こちらの世界で自在に動く原理は同じだろう」

 神代は美夜に歩み寄りつつ言う。

「思ったより厄介な連中だったようだ。そなたには、もうこちらに出入りできないほどの屈辱でも受けてもらうとするか」

「屈辱?」

「幹部連中が田舎暮らしに退屈しておってな。同じ女性として不本意ではあるが、慰み者の一人や二人あてがってやるのもまた、巫女の甲斐性というものだろう」

 美夜はフリルエプロンの首根っこをつかまれ、引きずられるようにして歩かされる。

「ちょ、ちょっと待って、そんなつもりじゃ……」

 てっきりドラゴンのエサにされて、大悟を救出する機会もあるだろうと踏んでいたのだ。

「そなたの『つもり』に付き合う馬鹿がどこにおる」

 美夜は「あーれー」と悲鳴を上げながらも、銃をこめかみに向けて発射した。

「おやおや、それはいかんぞ」

 半透明になった美夜のこめかみに、神代が手を当てる。その手がボウッと白い光を帯びると、美夜の傷は癒え、存在感が元通りに復活した。

「そなたもメイドなら観念して男達に尽くすがよい」

 神代は美夜を連れたままテレポートして、どこかの建物に移動した。畳敷きの大広間だった。神代がテレパシーでも使って知らせたのか、五人ほどの男がテレポートしてきた。花火大会で酒を飲んでいた男もいる。

「おぉ、さっきのねえちゃんか。あんたみたいないい女は久しぶりだぜ。可愛がってやるからこっちこいよ」

 男が手招きすると、別の男が美夜の背を押した。

「ほら、若旦那様をお待たせするんじゃない」

 敵ながら見知った顔にホッとする。事情を知らずに出会ったなら、デートぐらいしてもよさそうな男だった。神代の気配が消えると、美夜はためらいがちに『若旦那様』に抱きつく。

「さっきお会いしたときから、あなたのことが気になっておりましたの。もしよろしければ、二人きりで……ご奉仕させていただきたいのですが」

「こりゃいいや。俺様に一目惚れしたってわけか」

 若旦那は背後から美夜を抱き直し、豊かな胸をむんずとつかんだ。男達はほーっと酒臭いため息をついて、羨ましそうに眺めている。

 美夜はきつく目を閉じて、おじいちゃん、おばあちゃん、ママ、ごめんなさい。……中条さん。と、それぞれの顔を思い浮かべる。なぜこんなときになって中条のことを思い出すんだろうと、思案を巡らす。そして自分の気持ちに気付いたときには手遅れだった。

「まあ、あんたも何かやらかして連れてこられたようだからな。二人きりってのはまずいだろ」

 若旦那が目配せすると、男の一人が布団を発生させて美夜を組み敷く。

「いや、やめて……中条さん助けて……」

「へっへっへ、あんた男がいるのかい? まあ、これだけのべっぴんさんなら当然だろうがな」

 坊主頭をした不潔そうな男が美夜に口付けようと顔を寄せる。美夜が甲高い悲鳴を上げると、頬をいやというほど殴られた。何発も、何発も……。

 ――美夜さん起きて!

 美夜の頬を往復ビンタしていたのは咲希だった。間一髪のところで美夜は起こされたのだ。しかし、いつかの大悟のようにすまきにされていた。

「さてと、事情を説明してもらいましょうか」

 美夜はホッとしたせいか涙が止まらなくなって、ワーっと泣いた。咲希がブツブツ言いながらロープを解く。

 ようやく泣き止んで、美夜は事情を説明した。二人を逃がそうと思ったこと、大悟を救いに行こうとして神代に捕まり、男達に差し出されてしまったこと、そして、ついでに中条の顔が思い浮かんだことまで。

「なるほど、美夜さんは先輩のこと諦めてくれるんですね。たしかに、中条さんもかっこいいし、凄い人だし、お似合いだと思います」

 咲希に「いまはそれどころじゃない」と突っ込まれて、小さな舌をのぞかせる唯依だった。

「問題は、大悟が帰ってこないことなのよ」

 三人は部屋を移った。大悟がなんだかニヤニヤした顔で眠っていた。水をかけられた形跡があり、頬が真っ赤に腫れあがっている。相当手荒に起こされたようだが、それでも起きなかったらしい。

「先輩のことだから、きっと、なにかエッチなことでもしてて、こっちに戻りたくないんですね」

 唯依の言葉に二人もウンウンとうなずいた。

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