家来、大いに戦う 6
「メイドの私が先にお風呂をいただいちゃって、すみません」
「美夜さんは咲希ちゃんのメイドさんなのであって、私とはただのお友達でしょう?」
咲希、美夜の順に風呂を済ませたのだった。ゲストが先と気を使った唯依だが、
「大悟が入った後じゃ唯依も気持ち悪いでしょ? 気にしなくていいのよ」
と、咲希。大悟はグサッときたポーズで胸を押さえたが、
「最後でいいよ。足が火薬臭いし、お湯が汚れそうだからな」
と、余裕の表情を保った。咲希はきっとツンデレなのだ。みんなの前だから照れ隠しで口が悪いキャラなのだ。と、分析する。
「お嬢様、お疲れになったでしょう? マッサージでもして差し上げましょうか?」
美夜が申し出ると、咲希はなんだか心外な顔をした。
「やめてよ、それじゃあまるで、わたしがいつもお風呂上がりにそんなことさせてるみたいじゃないの」
「じゃあ、終わったら、もみ返してくださってもかまいませんのよ?」
美夜が首を回すのを見れば真意はばればれだった。長距離運転で肩がこったようだ。
「素直に揉んでって言えばいいのに」
「それでは、お言葉に甘えて」
美夜は、ソファの手すりにちょこんと腰かけて肩もみをされていたが、
「……あっ……はぅぅ……そこっ、たまんないわぁっ……お嬢様、もっと、もっと強くぅ……」
と、エロティックに悶え始めた。
「ちょ、ちょっと待って。ここでは大悟がおかしな気分になるわ。上にいきましょう?」
「あら、私ったら何か変なことをしましたかしら? どうぞお気遣い無く……」
「だめ、こっちいらっしゃい」
年上のメイドさんはお嬢様に引っ張られて二階に連行されるのだった。
大悟と唯依は、互いのノートパソコンを付き合わせて対戦ゲームをしていた。こんなところまでノートパソコン持参というのが現代っ子らしい。
「そういえば、ここってずいぶん通信いいのな」
「はい、例の大蛇大社の教祖が政治的な人脈も持ってるらしくて、この辺のインフラって都会並みに整備されてるんですよ。実害を受けたことがあるわけじゃないし、あの人達が住み着いてからずいぶんと便利になりました」
なるほどな、と、うなずきつつ、大蛇大社の話から女難の相について連想する大悟。ボケーッとそんなことを考えていると、
「チェックメイト」
唯依が勝利宣言した。唯依に教わりながらやっていたチェスだから勝てるとも思っていなかったのだが、逆に負けてよかったとホッとする大悟だった。大悟が勝てばいつまでも風呂に入れなかっただろう。
「さてと、お嬢様が寝るって言い出すまえに風呂に入りたいから、さっさと入ってきちゃってくれよ」
すると、どういうわけか唯依は大悟の手を握り、じっとりとした視線で見つめた。
「ねえ、先輩。一緒に入っちゃいましょうか?」
大悟は裏返った声で「なんで?」と、問い返した。
「先輩を一人で入らせたら、お風呂のお湯を飲もうとするじゃないですか。排水口にたまったお毛々を集めて、お守りとか言って持ち帰るかもしれないでしょ~」
「どれだけ人を変態扱いするんだか……」
しかし、妙なことを言われてしまうと、それをやらない自信はなかった。どのみち一人で入れば唯依はそういう目で見るのだろうか? と、深読みしてしまう。きっとチェスをやったせいだ。と、大悟は思う。
「じゃあ、先に入って待ってますね。……女の子に恥かかせちゃ、だめなんだぞっ」
唯依は顔を真っ赤にしながら、キャハっと奇声を上げ、浴室にかけていった。
大悟はそーっとそーっと階段を登り、耳をドアにくっつけて中の様子をさぐった。大悟と咲希が使っている部屋でマッサージが行われていたのだ。あいかわらず美夜はいやらしい声を出して悦んでいる。
「指痛くなってきた~」
「まだ三十分経ってませんよ。ほら、交替まであと十三分」
おあつらえ向きに持ち時間を教わってしまい、大悟は後戻りできなくなる。四十三分あれば、二人に気付かれることなく、唯依との秘密の入浴を済ませられるだろう。
大悟はゴキブリのように音もなく速やかに階段を下り、浴室前で服を脱いだ。タオルで前を隠してドアを開ける。
「やだ、先輩ったら……すっぽんぽん……」
見れば、唯依は黒いスクール水着を着用していた。途端に真っ裸でプールサイドにでもいるような羞恥心が芽生え、大悟は背を向ける。しかし、唯依がその背中を抱き締めて引き止めた。
「ゆ、唯依……当たってる……」
唯依は熱にでも浮かされたような声で耳元に甘く囁く。
「意外と小さくないでしょ?」
普段はペッタンコに見えた唯依の胸だが、水着になればさすがにいくらか膨らんでいた。背中に押し当てられると、男のものとは明らかに違う柔らかさと体温を容赦なく伝えてくる。
「さあ、入ってくださいな」
浴槽は泡の出る入浴剤と、ボコボコ吹き出るジャグジーで泡だらけだった。背後から唯依に抱きつかれたまま、大悟はそろそろと浴槽に入る。
「洗ってあげますね」
唯依の手が泡を集めて大悟の体を滑る。体じゅうをくまなく滑った手が、ふとためらった。
「そ、そこはいいよ。自分で洗えるから」
そうこうしているうちに、背後でパシッという音が鳴った。振り返ってみると、唯依が水着から肩を抜いてズリ下げていた。
「こ、こんどは、先輩が私を洗ってくれますか?」
「は、はい~、よろこんで~」
慌てて背を向けた唯依を後から抱くようにして、大悟は泡を集めた。首から腕にかけて、無難なところに手を滑らせる。そして、いよいよと意を決して二つの膨らみを包みこんだ瞬間だった。
「唯依、ちょっとごめ~ん」
ドアがいきなりガバッと開く。
「美夜さんったら、蒸しタオルを作ってこいって。まったく人使いの荒いメイドさんだわ……」
湯気が途切れて三人は顔を見合わせた。大悟は硬直して、唯依の胸をつかんだままである。
「……お邪魔……しました」
咲希は静かにそう言い残して戻っていった。熱湯攻撃や水責めを想定して身構えていた大悟は、拍子抜けしてしまう。しばしポカーンとした表情のまま唯依の胸を握ったり緩めたりして、ハッと我に返る。
「咲希……ごめん」
大悟は前を隠すのも忘れてザバッと立ち上がり、耳まで真っ赤に染まった唯依を残して浴室を出た。それでもなんとかパンツだけは履いて咲希を追いかける。しかし、無情にも二階からバタン! と、ドアの閉まる音がする。ロックが下りる音がしたかと思うと、しゃくり上げるような泣き声が聞こえだした。
「あらあら、あの大悟君がそんな大胆なことを?」
大悟がノックすると、
「変態! 馬鹿! 女ったらし!」
と、罵詈雑言が飛んでくる。
「咲希、ごめん! とりあえず、開けてくれないか?」
コツコツと音がして、ドアが少し開いた。美夜が顔をのぞかせて首を横に振る。寝袋と大悟のスポーツバッグが放り出されて、またドアは閉じられたのだった。
バスローブ姿の唯依がドアの前に合流してきた。
「咲希ちゃん、ごめんなさい。私が誘ったんです。先輩はエッチな人だから断れなかっただけだと思うの」
しばらく間があって、咲希の絞り出すような声が聞こえた。
「そいつはわたしのものじゃない……好きにすればいいわ……」
すると、唯依は
「わかりました。じゃあ、もらっちゃいますね」
と、あっさり答えたのだった。
「先輩、一緒に寝ましょ? もしも咲希ちゃんにクビにされたら、うちで雇ってあげますから。……いいえ、私のお婿さんとして、ゆくゆくはパパの会社を継いでくださいな」
大悟は唯依に手を引かれるまま、寝室に連れこまれるのであった。
「さあ、先輩、ちょっと気は早いですけど、唯依をあなたのものにしてくださいませ……」
ベッドにアヒル座りして、ンーっと唇を差し出す唯依。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。風呂に入ったら喉がカラカラでさ」
大悟はひとっ走り一階からスポーツドリンクを取ってきた。その間に、寝室が間接照明で薄暗くなっていた。唯依は目から上だけを布団から出して、大悟に微笑みかけている。大悟は枕元に腰かけて、ペットボトルをグビっと傾けた。
「ほら、水分補給」
唯依に押しつけて飲ませる。
「あいつ、相当怒ってたな。これはもうだめか?」
そんな切り口で会話を続け、ペットボトルが空になるまで回し飲みを続けた。
「先輩……なんだか……眠い……です」
「無理しなくていいよ。おやすみ」
「せっかくの……チャンス……」
そこまで言って唯依は寝入ってしまった。大悟は、中条からもらった、漢方だかなんだかの眠り薬を一服盛ったのだった。体重が軽い唯依から先に効いたのだろう。大悟もすぐに眠くなってくる。唯依を襲ったり襲われたりしないよう、二人でさっさと寝てしまおうと考えたのだ。
大悟は最後の力を振り絞って隣のベッドに移り、布団をかぶったのだった。




