家来、大いに戦う 5
夕食を終え、唯依のリクエストで買ってきた花火をする四人。女達は手持ちの花火をしていた。大悟は地面に設置して噴き出すものや、打ち上げ花火などを担当する。唯依が、手持ち花火を体操のリボンのように回しながら、大悟を追いかける。大悟も手持ち花火をつけたまま、隙を突いては打ち上げ花火に浴びせかけて点火していった。パラシュートが飛び出すものが炸裂すると、みんなで追いかけ始めた。
「ほら、そっちいったぞ!」
「どこ、どこ?」
唯依の真上から頭に着地しそうだったパラシュートを大悟がキャッチする。咲希と美夜が追っていたものは、美夜が身長差で上回りながらも、咲希のハイジャンプで勝負がついた。
実際に手にしてみると、大事にとっておくほどのものではない。この取り合いこそがパラシュート花火の醍醐味だろう。
少々息の切れたところで線香花火などしていると、見知らぬ女がツカツカと歩いてきた。手にはパラシュートをぶら下げ、どういうわけか巫女さんの格好をしている。美夜と同じぐらいに見えるから、二十代中盤といったところだろうか。真っ黒な髪は踵まで届きそうな長さだった。同じロングの黒髪でも、唯依とは違って身長もある分、かなりの迫力だ。
「申し訳ないが、少し静かにしてもらえないだろうか。信徒達が既に眠っているものでな」
よく通る少し低い声だった。普段から祝詞でもあげて鍛えているのだろうか。クールな美貌に男っぽい言葉がよく似合う。
「寝てるって、まだ八時過ぎじゃないの」
咲希が言い返すと、女は「うむ」と、うなずいた。咲希にパラシュートを渡してよこす。
「都会から来た人間にとってはまだ早い時間であったな。しかし、すまないが、この打ち上げ花火だけはご遠慮いただきたい」
ちょうど打ち上げ花火は打ち尽くしたところだったし、美夜が「わかりました、すみません」と、了承して詫びた。
女はさっさと踵を返して戻りかけたがピタリと歩を止め、こちらを振り向きもせずに言う。
「代わりと言ってはなんだが、明日の花火大会に来られるといい。宗教施設の催しゆえ、地元の衆は気色悪がって訪れないが、取って食いはせぬ」
気味の悪い巫女の誘いだったが、唯依が「行きましょう!」と、乗り気になってしまっていた。
「よろしい。神代に招待されたと伝えれば、丁重なもてなしを受けられることだろう」
神代と名乗った女は、たもとをモゾモゾやったかと思うと、真横にビシッと腕を突きだした。その手には名刺があった。
大悟は迫力に負けて、うやうやしく受け取ってしまう。飾り気のないシンプルな名刺だったが、龍の顔のようなロゴに『大蛇大社』という法人名、『龍神の巫女』という役職らしきものが書かれていた。
「だいじゃたいしゃの……りゅうじんのみこ? じんだい……りょうかさん……?」
「大蛇大社の龍神の巫女、神代涼香だ」
見事に全問不正解で慌てる大悟。
「な、なるほど、神代っていう苗字なのか。てっきり役職か何かの名前かと……。へぇ~、涼香さんね~。綺麗な名前だな~。あはは」
大悟がヘラヘラ笑うと、
「世辞はいい。そなた、女難の相が出ておるぞ」
と、静かながらも鋭く一喝されるのだった。
「へぇ~、この俺にもついに女難の相が?」
「そなた、恐ろしくはないのか?」
神代の声が少し高くなった。意外だとでも言うように。
「女難の相ってのは、もてない男には出ないだろ、普通。ってことは、俺はもてるようになったんだな。きっと、ここにいる三人の美女に取り合いでもされて、なんだかんだ言ってラブコメな展開が待っているんだろ?」
「大した自信だな、小僧。まあよい、せいぜい気をつけることだ」
そのまま神代はスタスタと帰っていった。
なんか凄そうな巫女さんに勝っちゃったぜ、と、達成感の顔で振り返った大悟に、ロケット花火が飛んできた。ふくれっ面している唯依が犯人だろう。
「こら、人に向けて撃つなって注意書きにあるだろうが! それに、あの巫女さんが戻ってくるぞ!」
「先輩にとってはラブコメかもしれないですけど、そういうことを本人達の前で言うべきじゃないと思います!」
そうだそうだ~と声援が上がり、大騒ぎしていると、神代が戻ってくるのが見えた。
「やべっ」
「先輩、逃げて!」
唯依は火の付いたロケット花火を大悟に向けていた。それがもう手を離れていて、直撃コースをとっていたのだ。
「つめてっ!」
間一髪かわした大悟は、燃えかすだらけのバケツに足を突っ込んだ。そこに戻ってきた神代がゴツンとゲンコツをはった。
「今のは俺のせいじゃないだろ」
「女難の相だ。私も一応女だからな。どうだ、よく当たるだろう?」
神代はハッハッハと豪快に笑いつつ、帰っていったのだった。




