家来、大いに戦う 4
四人でぞろぞろ買い出しにいってもしょうがないということになり、美夜と荷物持ちの大悟が二人で出かけることにした。
「じゃあ、行ってくるよ」
「……うん、気をつけてね」
大悟と咲希は名残惜しそうな顔をして、視線を絡ませ合う。二人の異変に気付いた唯依は、
「着いた途端にあやまちを……!? 先輩の裏切り者!」
と、陶芸部屋に走っていってしまった。裏切り者と呼ばれた大悟は、いたたまれなくなって追いかけた。
リビングに残った二人はヒソヒソ話しをする。
「『一夏の経験』もいいけど、あんまり急いではだめですよ? もうちょっと彼がどういう人なのか見極めてからでも……」
なまめかしい話をする美夜。咲希は首をブンブン振って否定する。
「あ、あいつにもちょっとはご褒美が必要かなと思って。夢を見させているだけよ」
言いながらも、咲希は人差し指と人差し指をぶつけ合わせてモジモジしていた。
「旦那様と奥様に代わって一つだけ忠告させていただきます。『対策』だけはきちんとしてくださいましね。せめて大学を出るまでは、ママになるようなことなどあっては……」
咲希は湯気を噴き出しそうなほど頭を沸騰させて、目を潤ませた。
「ないないない、絶対ないから心配しないで!」
「なにがないんだ? スーパーまでは結構あるから、欲しいものがあったら今のうちだぞ?」
と、大悟が戻ってきた。
「なんでもないわ。遅くなるから早く行ってきなさいよ」
ツンっと横を向いてしまう咲希。大悟は「変なやつ」とつぶやきながらも玄関に向かっていった。
「そうそう、あんまりもったいぶると、彼が他の女性とあやまちを冒すかもしれませんよ?」
「あいつにそんな度胸あるわけないじゃない。大体、どこの世界にあんな『普通の佐藤』を好きになる女なんかが……」
美夜は意味ありげに微笑んで言う。
「彼はどんどん頼もしくなっています。自分の可能性に目覚めた男の子って変身するものですよ。唯依さんも明らかに好意を持っていらっしゃるようだし、年上のお姉さんが誘惑しないとも限りませんのよ?」
咲希は真顔になって美夜の目を真っ直ぐに見た。
「受けて立つわ。もしも美夜さんが勝つようなことになっても、卑怯な真似はしない。これは女の勝負よ」
と、男らしくさえもある台詞。
「それだけの気持ちがあれば、十分ですわね」
美夜がニッコリ微笑むと、咲希は肩の力を緩めた。
「美夜さんの意地悪。わたしを試したのね?」
「いいえ、私も自分の気持ちがまだはっきりとはわかりませんが、彼のこと、嫌いじゃありませんよ」
ウフフと笑いながら踵を返し、美夜は出ていった。
優しい姉のように思っていた美夜さんがまさか挑んでくるなんて、と、ソファに沈む咲希。唯依にもなんらかのフォローをしなければ、と、すぐに立ち上がった。
「まさか、あいつを取られる心配をするようになるなんてね……」
ポツリと呟いた独り言に驚く。そこまで真剣に大悟のことを思っていたつもりはなかったのに。あいつは、たまたま罠にかかった家来に過ぎないのに。それなのに、遠ざかっていくエンジン音をついつい耳で追ってしまう咲希だった。




