家来、出会う 3
咲希のおねだり顔にポーッとなっていた大悟だが、咲希の顔をまじまじと見た。驚いて二度見した。
「家来ってなんで? おまえんちって使用人とか大勢いるんだろ?」
「大勢かどうかは別として、たしかにうちには使用人がいるけど、こっちの世界ではいないから」
家来ってなにをするんだ? 期間は? 給料は? と、疑問がかけめぐったが、高校を卒業して二度とチャンスは無いと思っていたお嬢様とお近づきになれるかもしれない。これはどっちに転んでも美味しいぞとほくそ笑む大悟。
「……まあ、いいだろう。その賭け乗った。で、なにをするんだ?」
「じゃあ、戦いましょう」
咲希は即答した。
「戦いってなんだよ?」
「戦いは戦いよ。ほら、こっちではなんでも思うとおりにできて超能力まで使えるのに、戦ったことってないでしょ?」
言われてみればこちらの住人はみんな黙って言うことを聞いてくれて、葛藤が生じたり争ったりしたことなど無かった。
「でもさ、もしこっちの世界で傷付いたり死んだりしたらどうなるんだ? 危なくないか?」
咲希はうーんと考えこむ。
「まあ、死なない程度に。無理だと思ったらまいったするから」
大悟はうなずいて、数十歩の距離をとった。超能力戦ということだから炎とか光線とかファンタジーな何かで攻撃してくるかもしれない。こちらは意表をついてテレポーテーションで背後を取り、ワッ!と驚かせておしまいにしようと作戦を立てた。
「じゃあ、いくわよ~、さん、に~、い~ち」
ゼロを言うかどうかで一瞬ためらったが咲希の背後に回り込んだ。あんまりあっさり決まって咲希がふてくされるかなとほくそ笑んだ瞬間。
「ひざまづいて金縛りにかかりなさい」
「え?」
大悟の身体が強力な磁石にでも引かれるように地面にへばりつく。土下座の姿勢で硬直したまま首は咲希を見上げていた。大悟はふと短いプリーツスカートに着目した。
「風よ吹け!」
咲希はスカートと髪を手でかばい、目を閉じた。
「両手をあげて硬直!」
咲希が心の中で抵抗しているのかゆっくりとではあったが、その両手があがってゆく。吹きすさぶ風の中、白と紺のストライプ模様が、キャミソールのはためく裾から細くくびれた腰がチラリチラリと見えた。
咲希の眉間に縦のシワが寄り、こめかみがヒクヒク震えている。
「どうだ、まいったか? おとなしく降参すればこれぐらいに……」
咲希は突然目を開けて満面の笑みを浮かべた。何か思いついた顔だった。とっさに大悟は半透明のバリアーをはって攻撃に備えた。
咲希の表情が余裕の笑みに変わる。
「降参したと言いなさい」
その手があったかと気づいたときには口が勝手に動きだしていた。
「……こ、こうさん……した」
二人の身体に自由が戻った。お互いに勝負あったと確信した瞬間にそうなったようだ。
「面白かった~。これで、あんたはわたしの家来だからね、セ・ン・パ・イ」
面白くねえ、と、腕組みする大悟だったが、戦闘中に見たストライプ模様が脳裏に浮かぶ。
「まあ、しょうがないか」
「なにニヤニヤしてんのよ? あ、そういえば、あんた見たでしょ?」
再度硬直させられ、ゲシゲシと足蹴にされる大悟。
「おまえ、やめろ、人を足蹴にするな……って、おかしいな、なんでおまえは言うこと聞かないんだ……」
「ご主人様には反撃できないんじゃない? おまえは犬よ、奴隷よ、わたしの下僕なのよ」
おーっほっほと高笑いする咲希。眺めていただけの頃には清楚可憐なお嬢様と思っていたが、ずいぶんとアレなやつだったようだ。と、気づいたときには遅かった。こうして大悟の家来生活が始まったのだった。




