表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/45

お嬢様の天敵 5

「ちょっと、どうして二人揃ってこっちに来るんですか? あなた達ってやっぱり……。二人で『いいこと』して、先輩の腕枕で……?」

 大悟と咲希が夢の中で覚醒すると、やつがいた。唯依は目を見開き、握りこぶしを口元に当てて驚いていた。

「そんなわけないでしょ。それよりも、なんであんたは人の家に上がりこんでるのよ?」

「だって、咲希ちゃんに用事があるんですもの。チャイムを鳴らしても誰も出てこないし、中で待たせていただこうかと……」

 言葉のやり取りだけを聞いていると、気の弱いお嬢ちゃん(唯依)が気の強いお嬢様(咲希)に押されているように見える。この子が計算高い『裏番』的な存在だなんて、咲希の思い過ごしじゃないのかと大悟は思った。

 咲希が怖い顔をして唯依をにらんだまま、いたたまれない無言の時が続く。助け船とばかりに大悟は口を開いた。

「それにしても、よくあの本を読んだだけで……」

 よくあの本を読んだだけで明晰夢を見られるようになったな。と、言いかけて止めた。しかし、手遅れだった。

「あの本? どういうこと? まさか、あんたが芳野をこっちの世界に呼び寄せたんじゃないでしょうね?」

「き、記憶にございません」

 咲希の鋭い眼光が大悟をとらえる。

「佐藤大悟、命令よ、白状なさい。全部話して楽になるといいわ。素直に言えば怒ったりしないから」

 素直に言えば……と言われて怒られなかった試しがない。しかし、改めて命令されると大悟は逆らえなかった。咲希の命令にも何らかの超能力が宿っているのかもしれない。

「ふ~ん。あんたってば、わたしの家来でありながら『可愛い唯依ちゃん』に鼻の下を伸ばして、スパイだとわかった上であの本をプレゼントしたんだ」

 咲希の繊細な指が、その姿形からは想像出来ないほどの力で大悟の頬をつねる。

「いでででで……」

「先輩をいじめちゃだめ! ……です」

 唯依がそう言うと、咲希の握力がゆるんだ。

「あら、これはどういうこと? わたしが大悟を折檻したい気持ちよりも、芳野の気持ちのほうが上回ったっていうことなのかしら?」

 唯依はポッと頬を赤らめた。咲希はふ~んと意地悪そうに鼻を鳴らして、大悟を一瞥する。

「ねえ大悟、あんた芳野の家で雇ってもらったら? ずいぶんと気に入られてるようだし」

 一般ピープルの家庭に家来を雇う余裕なんてないでしょうけど、ウププ。という嫌味かと思う大悟だったが……。

「咲希ちゃん、ずるいです。そうやって払い下げみたいにすれば、私のプライドが許さないのを知ってて言ってるんでしょう? 素敵な先輩を譲ってくれる気なんてないくせに……」

 払い下げとか譲るとか、なんだか遠い異国に売り飛ばされる娘になったような心境の大悟。どうやら、唯依の家にも家来を雇う余裕があるらしい。

「そう……いらないのね。後悔したって知らないわよ? まあ、明晰夢を見られる家来なんてそう多くはないから、もうしばらくうちに置いておこうかしら」

 やっぱり唯依よりも咲希のほうが怖いと縮こまる大悟だった。

「ところで、どうやってわたしを妨害するつもり? 受けて立つから早くなさい」

 堂々と妨害するとか受けて立つとか宣言する潔さ。この二人、世が世なら相当な女傑になっていたかもしれない。

 芳野軍が仕掛けた計略は『超難解クロスワードパズル』という雑誌だった。一冊まるごとクロスワードパズルで、しかも超難解ときたら、大悟など想像しただけで肩がこりそうな代物だ。

「言っておくけど、わたしは一夜漬けなんかしなくても、三年生の分まで全部『理解』してあるから無駄よ?」

 なんか今日のご主人様ってちょっと可愛くないかも。と、幻滅しかかる大悟。しかし、それは余裕が無いことの裏返しなのかもしれない。


 大悟は咲希を手伝おうとして一緒にパズルを考えたものの、足手まといに終わった。それでもなんとか一冊まるごと仕上げたときには夜が明けていた。唯依は唯依で三教科ほどの教科書の例題を全てやり終え、おさらいは十分と満足げに肯いたのだった。

 咲希と唯依はお互いの成果を交換して答え合わせしている。三人揃ってあくびが出て、なんとなく顔を見合わせる。いつの間にか険悪ムードも消え去っていた。一晩じゅう一緒に頑張ったという連帯感のようなものまで生まれつつある。

「あ、起こされてるわ……じゃあ、また学校で……」

 女子二人は互いに手を振って目覚めていった。大悟は特に起こされてはいなかったが、ベッドに横たわってリアルで目覚めるための眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ