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お嬢様の天敵 4

 咲希は帰ってくるなり中条との授業に入り、大悟は美夜と二人で夕飯を済ませた。咲希を待たなくていいのかと訊ねてみたが、気にすることはないということだった。お嬢様なんて呼んではいるが、家族のように、三人兄妹みたいにして過ごしてきたそうだ。滅多に家にいられない両親が、兄や姉のような役回りも兼ねて二人を雇ったというところらしい。

 大悟は自室で一風呂浴びて、早く就寝のお許しが出ないかなと待ちわびていた。居眠りしないように、それでいて興奮し過ぎないように、海外のコメディドラマなど見て時が過ぎるのを待った。

 結局、日付が替わる寸前になって咲希が訪ねてきた。淡いピンクのバスローブを羽織っている。

「そろそろ寝るわよ。おやすみなさい」

 内線電話で言えば良さそうなものを、けっこう律儀なやつだと感心する大悟。咲希の顔を見て用件を思い出した。

「そういえば、昼間友達が来てたぞ」

「あら、誰かしら? そういう用件は早く言ってくれなきゃだめじゃないの」

 名前を思い出そうとしたが、一度聞いたきりの名前をなかなか思い出せない。

「うーん、なんて言ったっけあの子……背はちんちくりんで、ツヤツヤの髪がお尻ぐらいまで伸びてて……」

 しっかりしなさいよとでも言いたげな細い眼で見られる。

「あ、そうだ! テストで毎度学年二番手っていう……」

 咲希はゲッと言った。お嬢様なのに、はしたなくゲッと驚いた。

「まさか芳野が……うちに……来たの?」

「そうだ、芳野唯依ちゃんって言ったな。やっぱり類は友を呼ぶっていうか、美人の友達は美人なんだな」

 ついうっかり咲希が美人であると堂々と言ってしまって赤面する大悟。何か突っ込まれるかと待ちかまえたが……。

「あいつ、なんでうちがわかったのかしら……教えてないのに……」

 咲希はブツブツ呟いている。駅を降りて、タクシーの運転手に「小早川さんのお屋敷まで」と言えばまずここに案内されるだろう。遠くから咲希を眺めて幸せになっていた時期の大悟でさえ知っていたぐらいだ。一年ちょっともの間、同級生をやってきた唯依が知らないと考えるほうがおかしい。しかし、咲希はそんなことにも気づけないぐらい動揺しているらしかった。

「そんなに仲悪い子なのか?」

「仲が悪いっていうか……」

 なんでもかんでも一番になりたくてしょうがない子なのだという。それを咲希が悪気無く邪魔してしまうものだから、咲希を目の敵にして付きまとっているらしい。

「あいつ、勝手にわたしのライバルで大親友を名乗っているのよ。ほら、あいつってば小動物みたいに可愛いくて、泣いたり笑ったり賑やかで、その上計算高いから……」

 ほめているのかけなしているのか分かりづらいが……。要するに、男女問わずにクラスメイトからの人気を集め、その発言力の大きさでなんでも思い通りにしてしまうらしい。咲希としても、そんな危ないやつを敵に回すのは得策でないと、あからさまに拒絶できないでいるようだ。

「おまえにも天敵がいたんだな」

 ウププっと、つい噴き出してしまう大悟。咲希はふくれっ面になる。

「で、なんの用事だったのよ?」

 例の本を渡したことは言わないで、唯依の用件を伝えた。

「そう……。それは受けて立つしかないわね……」

 咲希は心底、仕方がないという面持ちで肩を落としている。大悟は昔のマンガみたいにずっこけた。

「受けて立つなよ。ちょっと手抜きして、あいつにトップを取らせてやればそれで済む話だろ」

 咲希は信じられないという目付きで大悟を見た。宇宙人でも見るような表情だ。

「わかっている問題をわざと間違えろっていうの? そんな気持ち悪いこと生理的に受け付けないわ。それに、そんなことをしたらわたしという存在の完璧さに傷がつくじゃないの……」

 ああ恐ろしい! とでも言うように寒気がするような仕草。こいつらどっちもどっちなんじゃないの? と、大悟はあきれるばかりだった。咲希にしたって学年トップになるほど頭がいいのだから、下手を打っていじめられっ子になるようなこともないだろう。

「まあ、好きにすれば」

 大悟は傍観者を決めこむ宣言をした。

「もう、他人事だと思って……」

 咲希はフラフラと大悟のベッドに崩れ落ちた。純白の布が見えてもおかまいなしのようだ。

「おいおい、見えてるぞ」

 即座にバスローブを整えて隠したものの、ゴロンと仰向けになった拍子に胸の谷間が見えた。

「お、おまえ……ノーブラ……」

 咲希はうるさそうに胸元を隠す。

「おやすみだけ言って戻ろうと思ってたから、いちいちブラなんか着けてこないわよ」

 そう言ったきり、咲希は帰ろうともせずにタオルケットをお腹にかけて目を閉じてしまった。やれやれ、バスローブなんかで眠ったら風邪ひくぞと心配しつつも、大悟はいつもの安楽椅子で眠ることにした。咲希のチラリズムをしばらく反芻して寝付きが悪かったものの、なんとか『深夜の訪問者』が来るまえに眠りに落ちていったのだった。

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