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お嬢様の天敵 3

 大悟は、咲希の友達こと芳野唯依よしのゆいを応接間に案内した。キョロキョロと邸内を見回しては「すご~い!」と声を上げるのだから、今までに遊びに来たことはなかったのだろう。そんな『お上り(のぼり)さん』状態の唯依だが、仕草などから、育ちが良さそうなオーラを感じた。

 大悟の母校でもある高校の制服は男女ともにブレザーだった。一学期末だから唯依は夏服姿である。女子の夏服は白いブラウスにグレーと白の明るいチェック柄のプリーツスカートで、サマーセーターの袖を無くしたような紺色のベストをだぼっと着ている。背は咲希よりもだいぶ小さく、ひょっとしたら百五十センチもないかもしれない。スカートは短め、サラサラストレートの髪は腰までの長さだ。あどけない顔付きといい、まるでお姉さんの制服を借りて着ている中学生みたいだが、ロリ属性がある男子にはたまらないんだろうな、と、大悟は『鑑定』した。

「あの、そんなに舐めまわすような視線で見ないでくれませんか?」

 唯依は自らを抱き締めるように腕を交差させて胸をかばった。しかし、かばうほどのものか? と、大悟は思う。ペッタンコだった。

「あの……先輩って女子高生萌えなんですか?」

 大悟はギクリと硬直した。つい今朝方、咲希の制服姿を「やっぱり女子高生はええの~」と、ジットリした視線で眺めて白い目で見られたばかりだったのだ。

「あれ、今なんて言った? ひょっとして俺のこと覚えてるのか?」

「はい、元生徒会長の佐藤先輩」

 ああ、存在を認めてもらうというのはいいものですね。と、大悟はジーンときた。胸が多少控えめだったとしても、この子は絶対にいい子だ。とっても素敵な子だ。と、鑑定に手心を加え直す。

「ところで、咲希ちゃんは?」

 寄り道して夕方まで帰らない旨伝えると、「テスト期間中なのにずいぶんと余裕じゃないのよ!」と、急に怒りだした。キーっとハンカチでも噛みそうな勢いだった。そして、妙なことを言いだした。

「どうして咲希ちゃんばっかりこんな大きなお屋敷に住んで、お勉強もスポーツもなんでもできて、可愛くて、かっこいいダーリンがいて……」

 聞き捨てならないセリフが飛びだして、大悟は思わず遮った。

「咲希って誰か付き合ってる人いるのか?」

 考えてみればあんなに美人で非の打ち所がないお嬢様だ。ちょっと大悟をぞんざいに扱うものの、性格だって悪くはないだろう。……同級生かもしれないし、ひょっとしたら中条さんと? 憶測が脳裏を駆け巡る。ただでさえ教え子に手を出す家庭教師がいるというのに、中条は完璧人間のスーパーマンで、しかも執事だから毎日一緒にいるのだ。そう考えてみれば末期ガンでも宣告されたみたいに、何もかも手遅れな気がしてくる。

「あれ? 先輩と同棲してるのかと思ってたんですけど……」

 たしかに同棲といえば同棲だが、使用人として雇われているだけだと説明する。

 とりあえず、同級生の女の子がそう勘違いしていたのなら、学校に彼氏がいるという線は消えそうだ。大悟はホッと胸を撫で下ろした。すると、唯依もなんだか似たような表情をしていた。

「佐藤大悟急募なんて張り紙をしてたから、学校で少し噂になってるんです。でも、よかった~」

 自業自得とはいえ、学校で変な噂が立って大丈夫かなと咲希のことが心配になる大悟。あれ、でもなんで唯依が「よかった」なんて言うんだ? と、不思議に思う。思ったが、近頃上手い話に乗っかってがっかり続きだったからと慎重になる。

「ところで、咲希になにか用事だったのか?」

「はい、えと、その、……ちょっとお勉強を教えてもらおうと思いまして。咲希ちゃんってテストでも毎回学年トップなので」

 そういう予感はしていたが、改めて学年トップなどと言われると『高嶺の花』感が増してくる。俺も苦学生でもいいから大学行けば良かったかなと、大悟は後悔した。

「学年トップか。夢みたいな話だな」

「でしょ~。私も学年トップになってみたくて」

 唯依は「実は……」と、ある計画を告白した。

「ちょっと待て、俺は咲希の使用人だぞ? 言ってみれば咲希の仲間だ」

 咲希がいるせいで万年二位の唯依は、勉強を教えてもらうためではなく、咲希の試験勉強を妨害しに来たのだという。丁度いいから先輩も手伝ってと言いだしたのだった。

「まあ、トップになってみたいっていう気持ちが分からなくもないが、相手を妨害して勝つってのはどうかと思うぞ?」

 唯依は突然グスングスンと鼻を鳴らし始める。

「……私だって……頑張ったんだもん……でも、勝てないんだもん」

 大悟は幼女趣味ではなかったが、喜怒哀楽の激しいちびっ子のような少女を憎めないなと感じた。さすがに妨害活動の片棒をかつぐ気はないが……。

「ちょっと待っててくれ」

 ティッシュ箱を差し出して応接間をあとにする。

 自室から小早川の本を持ってきて唯依に手渡した。サイン本をもらって一冊余っていたのである。

「いいか、このことは咲希には内緒だぞ? これは咲希の親父さんが書いた本だが、たぶんこれが咲希の完璧さの秘訣だと思う」

「そんな凄い本を……いいんですか?」

 こいつ、嘘泣きか? というほどに、唯依はケロッとした笑顔になった。渡された本を大事そうに胸に抱きしめている。

「先輩からプレゼントもらっちゃった!」

 内股気味の足をジタバタさせて、心底嬉しそうだ。

 大悟の胸にズキーンという衝撃が走る。しかし、これは罠だ、こいつはとんでもない女狐に違いないと大悟の中の警報がけたたましく鳴り響いた。

「さてと、明日も試験だろ? そろそろ戻って勉強したほうがいいよ」

 唯依は「は~い」と、聞き分けよく返事して帰っていったのだった。

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