家来、出会う 2
地元でも有名な大邸宅である小早川邸についたが……。
コンクリート打ちっぱなしの外壁が素敵なお屋敷を中心に、ドーナツ型の衝撃波が走り、小早川邸が地面に沈んでいった。
「なんだ、これ……」
門柱にもたれかかっていた咲希が気怠そう(けだるそう)に大悟を振り返った。
「お城を建てようと思って。邪魔だから片付けてたの」
と、涼しい顔の咲希。
「な、なるほどね……まあ、ここは夢の中だし……あはは」
砂埃がおさまると、屋敷はがれきの山さえ残さずに消え失せていた。
咲希は小花柄のキャミソールと白いミニスカートをパンパンと払って埃を落とす。そして、手のひらに発生させた手鏡で髪の乱れを直した。
爆心地に向かって歩きだした咲希に大悟も続いた。
「なんか用? できれば夢の中でも人の敷地に勝手に入らないでほしいんだけど」
ギクリとする大悟。夢の中の人達は細かいことなど気にせず、女湯をのぞこうが街中で堂々とナンパしようが、嫌がられたことなど無かったのだから。
「おまえ、ひょっとして……これが夢だって気づいてる人?」
咲希はほどよく膨らんだ胸の前に腕を組む。そして、いかがわしいものでも見るような細い目をした。
「さてはあんた、女湯とかのぞいたでしょ?」
「あ、あれは事故だ!」
そう、事故だったのである。超能力が物珍しかった時期に壁抜けなどしながら飛びまわり、たまたま女湯にも通りかかっただけだったのである。残念ながら若い女の子は入っていなかったのだから、やましいところは無い。と、胸を張る大悟。
「まあ、別にいいけど。で、このわたしをデートに誘おうとか企んでここに来たのね? 夢の中だから『あんなこと』や『こんなこと』ができると思って」
図星をつかれて気まずい顔をする大悟。
「まあ、そうだ。……嫌か?」
咲希は腕組みから右腕を立て、人差し指を頬に当てる。
「そうね~、リアルでなら、このわたしが初対面のさえない男なんかとデートするなんてありえないけど……」
咲希は現実のことを『リアル』と呼んで区別しているらしい。
もったいぶった口調に加えて『初対面』などと言われて大悟はガックリきた。
「初対面じゃないんだけどな。ま、いいわ。嫌がってるやつとデートしたってつまらないしな」
「ちょっと待って、あんたひょっとして『普通の佐藤』じゃない? そうだ、普通のくせに生徒会長に立候補して……生徒会長になったんだっけ?」
三年間の高校生活で唯一普通じゃなかった功績だった。それをあっさり忘れられたどころか、生徒会選挙に受かったかどうかも覚えていないらしい。これは脈無しだ。夢の中にまで来て大恥かいたと背を向ける大悟だった。
「ねえ、ちょっと待ちなさいよ……佐藤先輩!」
咲希の小さな手が大悟の手を握って引き止める。柔らかな感触と温もりにグラッときたが、高校卒業と同時に封印したニックネームを呼ばれた屈辱で素直になれない大悟。
「小早川のお嬢様が普通の佐藤めに何かご用でしょうか?」
「やだ、気にしてたの? 普通の佐藤って呼ばれるのがそんなに嫌だったんだ」
きゃははは、うける~。などと笑われて大悟は仏頂面になった。
咲希は咳払いを一つして真顔を取り戻した。
「あれって、『薄気味悪いほうの佐藤』と区別するためだったんじゃないの? あんたってほら、生徒会長……だったのよね? で、有名人だったし、あっちの佐藤は別の意味で有名だったし」
たしかに、数々の奇行で有名な『薄気味悪いほうの佐藤』というやつがいた。当時、学校に二人しか佐藤姓がいなかったのでそういう区別をされていたんだと思い出す。ちなみに、教師にも一人佐藤がいたが、そちらは『先生の佐藤』であった。
「だけど、生徒会長だったことも覚えてなかったんだろ?」
「わたしはあんまり他人に興味が無いから」
なんでそんなこと訊くの? と、いうように小首を傾げる咲希。少し茶色がかった肩までの髪がシャラランと揺れる。大きな瞳に侮蔑の色はなかった。
ふてくされた自分を引き止めフォローしてくれたんだと自信を取り戻す大悟。
「それで、デートしてくれる気になった?」
「そうそう、それ。ちょっとわたしと賭けをしない?」
「賭けってなにを?」
「もしあんたが負けたら……」
腰の後で手を組んで石でも蹴るようにモジモジする咲希。
「わたしの家来になってほしいの」




