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メイド、初恋の人に会う 5

「それにしても、見違えたな。あの美夜っ子がこんなに綺麗になるなんて」

 美夜は三船の助手席で、口元にクールな笑みを浮かべていた。ようやく本懐をはたして饒舌になりたいところだったが、大人の女を演じてみせる。三船の真っ赤なイタリア製スポーツカーは、夜の繁華街を抜けて埠頭に向かっていた。

 美夜はメイク中に鏡と相談して奇抜な格好をしていた。少々野暮ったくも見えるワンレングスの髪。エナメル素材のボディコンは目が痛くなるようなショッキングピンクで、背中が大きく開き、スカート丈もギリギリのセクシー過ぎる姿。眉毛も太めのザ・バブル期ファッションだった。

 三船はといえば、黒いTシャツとジーンズ。愛用のサングラスを前髪にのせて、肩には白いカーディガンを結んでいる。腕には貴金属の部類に入るごっつい時計をしていた。

 スポーツカーの爆音が道行く人々を振り返らせ、痛いぐらいに注目される。

「みんな美夜子に注目してるぜ?」

 三船は若い女の集団を通りすぎるたびに、派手なダブルクラッチを使って空ぶかしした。

「今の子見たか? 結構マブイ女だったぜ」

 デート中によその女を物色して歩く三船。まあ、この人らしいやと目を細める美夜だった。

「本当はヘリで夜景でもと思ったんだが、あいにく予約が取れなくてね」

 そこで一晩かけて湾内を回るクルージングデートにしたという。

 埠頭につくとスポーツカーを無造作に止めて乗り捨てる。こんなところに止めて悪戯とかされないの? と、心配になる美夜だったが、あくまでもクールを決めこんだ。

 二、三百人は乗れそうな客船は豪華なものだった。しかし、ほぼ貸し切りと言ってもいいぐらいの乗船率である。

「不景気なのね……」

 美夜はデッキからの暗い海を見つめてつぶやく。

「まあ、野暮なことは言いっこなしだぜ」

 正装をしたボーイさんからウェルカムドリンクのシャンパンを渡され、二人はグラスをそっと掲げる。

「君の瞳に乾杯」

「誰にでもそういうキザなこと言ってるんでしょ……」

「可愛い子限定だよ」

 肩を抱かれた美夜は、三船の肩に頭をもたれさせて寄り添うのだった。


 大悟と咲希は夢に入るなり城の撤去を済ませた。

「とりあえず、更地にしといてもいいんじゃないか? あとは明日からゆっくり作れば……」

 咲希はおかまいなしといった様子で、城跡の更地に手のひらを向けた。

「もうちょっとこっちに来て……」

 人気ひとけの無い夜の空き地で二人きり、これは今度こそと期待する大悟だったが、

「だから、もっと離れないと危ないってば。人柱にでもなって我が家に骨を埋めるつもり?」

 やっぱりな、と、ため息をついて咲希に近寄る大悟。咲希のテリトリー空間を侵さないギリギリの距離を保った。

 咲希がえいっ! と掛け声をかけると、ボワワーンと白煙のようなものが上がり、リアルのものとそっくりな小早川邸が復活した。

「なんだ、そんな簡単だったなら城も自分で作りゃよかったのに」

「住み慣れた家だからイメージがかたまってるのよ」

 そんなことより、と、咲希は目を閉じた。これはチューの催促ではない。大悟はもはや悟った。咲希という子はたまに意味深な行動をとるが、それは大悟を男として意識していないという大前提に基づいているのだと。好きな男の前でガードを解くのではなく、元々がノーガードなのだと。

「見つけたわ。埠頭からクルージングデートに出るところみたい」

 差し出された手を握るべきか握らないべきか迷う大悟。大悟自ら美夜を探すという二度手間を省くためだろうと思い、えいやっ! っと手をとった。

 しめた、怒られないぞと思った瞬間、二人は埠頭にテレポートしたのだった。

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