メイド、初恋の人に会う 2
三船幸三さんの居場所は……。と、考えてみると、インターネットの地図で検索するようなビジョンが頭の中に浮かんだ。集中して焦点を合わせ続けるとズームが進み、目的地が判明した。昔、夜遊びに夢中だった頃の行動範囲に彼はいた。今で言うクラブ、昔で言うディスコがあったり、おしゃれなバーがある繁華街だ。地図をクリックするように決定の意思を念じると、その場所にテレポーテーションした。
隣の席に突然美夜が現れても、三船はさして驚いた様子でもなかった。人気の無いプールバー(ビリヤード台のあるバー)のカウンターで、細長い葉巻などくゆらしていた。三船と仲間達が入り浸っていた店では、マスターがいないときには常連客が店番していたのだ。
「やあ、こんな時間にお客なんて珍しい。何か飲む?」
昼間っからお酒なんてと思いつつも、夢の中だし、今日はお休みだからいいかとメニューを眺める。眺めている間に三船はシェイカーを振りだした。まだ頼んでないのにと言いかけたが、何が出てくるのか楽しみになって抗議を取りやめる。
「ちょっとお手洗いに」
美夜は迷うことなく店内を歩く。店の様子は当時のままだ。カウンター席と通路を挟んでボックス席がいくつかある。窓辺のボックス席からは繁華街のビル群が見える。十二階に位置するこの店からは、夜になると夜景がそこそこ楽しめた。奥に進んでいくとビリヤード台が二つあり、さらに進むと手洗いがあった。
手洗いに入ったものの、用を足したかったのではなかった。バッグから財布を取り出し、中身を確認する。十分すぎるほどお金は入っていた。緊張していたのか少し汗ばんだ手を洗い、ハンカチで拭って席に戻る。
「どうぞ」
ちょうど出来上がったカクテルが差し出された。一口飲んでみて、美夜は確信した。
「幸ちゃん、覚えててくれたんだ」
お酒の強くなかった美夜のために考案された『バナナラマ風バナナミルク』だった。三船は昼間の繁華街に遠い目をしながら葉巻をくわえなおす。
「元気だったかい? 美夜子」
何度訂正しても『子』をつける呼び方まで当時のままだった。無言の微笑を交わす二人。
「……ところで、何か言うことはないの? 綺麗になったねとかなんとか」
「どこがだよ? お、そうか。ようやくバナナミルクが効いてきたんだな」
三船の視線が豊かに育った胸に注がれていた。もう……と、頬を染める美夜。
「幸ちゃんも変わらないわね」
短めに揃えられた黒い髪。薄紫のスーツを無造作に着こなし、レンズが大きめのサングラスをかけている。
――旧交を温める会話をしつつ、飲み物を賭けたビリヤードをしてはしゃぎつつ、しばしの時が過ぎた。
「いらっしゃい」
入ってきた客を振り返ると、当時ちょっぴり苦手に思っていた女だった。美夜よりいくつか年上で、三船を取り合った仲だ。逃げだしたくなって三船に精算を頼む。
「おごるよ」
「ありがとう。……じゃあ、また来るわね。ごちそうさま」
知らんぷりして女とすれ違おうとしたが。
「ちょっと、あんた美夜なの? 綺麗になったね~」
捕まってしまってそのまま少し立ち話をした。結局、その女の名前を思い出せなかった。彼女はその後、別の男と結婚し、今では二児の母であると聞いて、美夜は心置きなく店を後にした。




