家来、怖い夢を見る 4
「起きなさい、女の敵!」
大悟は頬に痛みを感じて目を覚ました。咲希にビンタをはられたようだ。
「って~な、あの状況ではああでもしないと、奴を納得させられなかっただろ?」
「……だからって……初めてだったんだから」
急にしおらしくなって唇を尖らせる咲希。仲直りのチューか? と、起き上がろうとした大悟。体の自由がきかない。
「なんだ、これ?」
大悟は布団にくるまれ、ロープで縛られていた。いわゆる『すまき』というやつである。
「あんたがああいうこと考えてる人だったなんて知らなかったわ。いっちゃった顔してヤクザのお腹に手を……。ああ恐ろしい!」
咲希の隣で腕組みしていたメイドさんがロープをつかむ。
「お嬢様、どうなさいます? 大川にたたっこんでやりましょうか?」
「大川? なんのこと?」
メイドこと鈴木美夜は言う。
「すまきにして大川に叩きこむというのは、我が国の伝統的な懲罰とでも言いましょうか。ほら、よく時代劇とかであるじゃないですか。例えば賭場でいかさまをはたらいて捕まったときとかに……」
やだ~ふる~い、と、にこやかに美夜の腕を叩く咲希。
「美夜さんっていくつだっけ?」
「このあいだ二十六になりましたが、なにか?」
ツンとした表情で美夜は答えた。しかし、それは女同士のじゃれ合いのようだった。
「どうせ私は田舎育ちで爺さんと婆さんに育てられた古い女ですわよ……。お風呂上がりだって水滴が肌に染み込んで、ピチピチと弾いたりはしませんとも……」
美夜が本気でひがむ前にとでも思ったか、咲希は心持ち大きな声で言った。
「まあ、大川にたたっこむかどうかは、本当に危ない奴かどうか中条さんに診てもらってからでも遅くないわ。もうすぐ来る頃でしょ?」
美夜は腕時計を確認してうなずく。
「中条さんに診てもらう?」
いくらか緊張感がほぐれたのを見計らって、会話に加わった大悟。
咲希はなんだか誇らしげな顔で答えた。
「中条さんはT大からアメリカのH大を経て、医師と弁護士の免許を持つスーパーエリートさんなのよ。いつでも冷静沈着で、大人で、ハンサムで……」
要するにスーパーマンなのね、と、ため息をつく大悟。俺だってヤクザ相手に頑張ったのに、咲希の泣き顔を見てられなくて頑張ったのに、と、ふて腐れた顔になる。
そこへ、窓の外から車が止まる音がした。




