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家来、怖い夢を見る 3

「泣けば許してもらえると思ったのか? たしかに俺だって若いお嬢ちゃんに泣かれていい気持ちはしねえけどよ、おまえの親父に泣かされた人達がどれだけいると思ってるんだ? お嬢ちゃん一人が泣いて許されるとしたら、それは不公平だよなぁ? 泣いてもわめいても、せこい借金を返せなくてこの世とおさらばする奴だっているんだぜ?」

 大悟は突然、何も言わずにチンピラを殴った。すわった目をして、危ない人のような顔をしている。

「兄ちゃん、それはまずいんじゃないのか? 傷害だぜ? おまえ、小早川に雇われてるんだろ?」

 チンピラは袖口で口元の血を拭ってニヤニヤする。大悟はかまわずもう一発殴った。チンピラの顔に困惑が浮かぶ。

「俺は今日入ったばっかりのバイトだ。お試し採用だ。そいつが傷害事件起こしてクビになったからなんだっていうんだ? ていうか、俺、もうこのわがままお嬢様に付き合いきれねえからさ、今この場でやめるわ。こっから先はてめえと俺とのケンカだ。かかってこいよ」

 押し殺してうめくような、どこか冷静すぎる声だった。

「おっと、その手には乗らねえぜ? お嬢様を助けるためにクビになって、ヤクザの俺様とタイマンはろうってか? 安っぽいヒーロー気取りはそこまでにしときな」

 大悟は咲希の腕を乱暴につかんで立ち上がらせ、胸を鷲づかみにした。キャミソールの裾から手を突っ込んで、荒い手つきで揉みしだく。

「や、やめて……どうしてそんなこと……?」

 大悟はかまわずに咲希の顔を引き寄せ、強引に唇を奪った。

「何するのよ! ……初めてだったのに……あんたなんかクビよ!」

 咲希は元々大きな目をさらに見開いて叫んだ。それでも大悟は抱きすくめて放さない。

「いいよ? 俺はお前の体だけが目当てで、おままごとに付き合っただけなんだからさ。今ここでやっちゃえばお前は用済みだ」

 咲希のキャミソールを引き裂こうとした腕を主婦につかまれる。

「やめなさい、これだけの人が見てる前で何考えてるの、あなた?」

 大悟はつかまれた手を引き寄せ、主婦にキスをした。主婦のメガネがずり下がり、肩の力が抜けて放心したような顔になる。

「奥さんでもいいや。俺って頭おかしいからさ、アウトドアでもなんでもありだぜ? 旦那が忙しくて、『ご無沙汰』してるんじゃないのか?」

 まんざらでもなさそうだった主婦だったが、さすがに大悟の胸を押して拒否の姿勢を見せた。

「あ~つまんね~、実に退屈だ。退屈で退屈で気が狂いそうだぜ!」

 大悟は八つ当たりとばかりにチンピラを蹴り飛ばした。夢の中の力で遠慮無く蹴って塀に叩きつける。盛大に壊れた塀の向こうからチンピラを拾い上げ、サッカーのリフティングよろしく着地させずに蹴り回す。極め付けにボレーシュートで電柱に叩きつけ、ボロ雑巾のようになったチンピラの襟首を持ち上げる。

「やめ……てくれ……」

「何を?」

 大悟の手刀がチンピラの胸をめがけて突き刺さる。女達が悲鳴を上げる。

「ころ……さないで……くれ」

「痛いか? 今俺がつかんでるこれはなんだろうな? これを握りつぶしたらおまえはどうなる?」

 チンピラは声にもならないよいうな悲鳴を上げた。スラックスの股の下で地面が濡れていく。

「おいおい、汚ねえな。いっぱしのヤクザ気取りがしょんべん漏らして命乞いかよ」

「たのむ……なんでもいうこときく……」

 チンピラは空を仰いだままつぶやいた。その目から幾筋もの涙がこぼれていた。

 大悟はチンピラの髪をつかんで目を凝視した。

「二度とここに来るな。二度と俺の前に顔を出すな。小早川家にちょっとでも危害が及んだら、そのときはいつでもてめえの心臓握りつぶしてやっからな。目を覚ましても忘れるな!」

 チンピラは安心したのか、穏やかに目を閉じて気を失った。その体が半透明になって消えていく。リアルで目を覚ましたようだった。

 大悟は主婦達ににらみをきかせ、

「おまえらも分かってるな?」

 と、凄んで見せる。

「は……はい……」

 と、返事をしながら後ずさりして、主婦達は逃げていった。

 主婦達の姿が見えなくなって気を抜くと、大悟は猛烈に吐いた。

 吐き気が一段落して振り返ると、そこに咲希の姿は無かった。

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