幸福メーター
ある朝目を覚まして新聞を取りに行くと、玄関になにやら見慣れない箱型の機械が置かれていた。
小さな箱の上部には簡素なプレートで「幸福メーター」と書かれており、正面には0から100までの数字が円形に並び、時計のような針が1本だけ伸びて数字を示している。
「この機械は必ず肌見放さずに持っていてください。政府より」
政府からの命令なら仕方がない。私はその箱から伸びている紐を首にかけた。
とりあえず朝食を食べてみる。針は50を指した。
通勤電車に乗り込むと、狭い車内で身動きできなくなった。針は30に下がった。
上司に怒鳴られた瞬間には20。
退勤して一人で安ビールを飲んでいるとき、針はわずかに40に戻った。
ビールを飲みながら私は周囲の様子をそっと伺ってみる。
みな同じ機械を首から下げ、その数値はみな一様に低く、そしてみな同じように面白いことなどなにもないというように暗い顔をしていた。
私はなんとなく安心感を覚えてもう一度ビールに口をつける。数値は50をわずかに超えていた。
そこに突然、場違いな笑い声が響く。なんだと思いながらそちらへと目を向けると、大きな声で笑いながら歩く男がいた。その針はなんと90を指している。
次の瞬間、背広姿の警官たちが現れ、男を拘束して連れ去った。そのときの警官たちの声がわずかに耳に届く。
「幸福が基準値を超えている。不正の疑いあり」
気付けば私の針も、急に数値が上がり始めていた。あっという間に75を超え、いまにも80に届きそうだ。
理由は分からない。
だが慌てて針を手で覆い隠す。
ちらりと周りの人たちへと視線を向けると、みな一様に暗い喜びの表情を必死に取り繕いながら、同じように針を隠していた。




