『ある廃寺で願い事をした男の子の話』…第1章・願い事
では、次のお話を始めます。今度は地球を舞台にしたファンタジーです…多分(笑)。
「願いを何でも叶えてくれる」…そんな言い伝えのある寺があった。
昔は賑わっていた時代もあったが、現在は参拝に訪れる人間が途絶え、ひっそりと時を刻むばかりの廃寺になっていた。
古びた本堂の屋根は苔に覆われていて、風が吹くたびに軋む音が辺りに響いた。
そんなある日、一人の少年がその廃寺にやってきた…寺にとっては何十年か振りの参拝客だ。
小学6年か中学1年ほどの年頃で、どこか寂しそうな雰囲気の少年だった。
彼は手に持った百円玉をお賽銭箱にそっと投げ入れると、目を閉じて手を合わせ、静かに願い事を始めた。
…数分程経っただろうか、中々に願い事が終わらない様だ。何かを強く求め、欲している様子が彼の背中に表れていた。
「おや、これは珍しいな…この寺に客とは」
するとそこへ、白髪頭の一人の老人がゆっくりと近づいてきた。杖をつきながら、老人は少年の横に立つと言った。
「お前さんが心の底から願うなら、ここの神様はきっと耳を傾けてくれるさ。まぁ、騙されたと思って信じてみな」
少し困惑しながら少年は目を上げ、老人に小さくお辞儀をすると、踵を返して去った。夕陽が彼の影を長く伸ばし、境内を静かに染めていた。
老人は彼が遠ざかる背中を見ながら笑みを浮かべて呟いた。
「くくく、寂しそうな顔をしとるが、なかなか欲張りな小僧だな…これは久しぶりに面白い事になるかもしれんて」
老人のその言葉と同時に、廃寺の奥から光が漏れ出した。それは不思議な輝きで、まるで何かが目を覚ましたかのように揺らめいていた。
「…そうか、お前もそう思うか」
老人は光に向かって笑いながら語りかけた。