『とことん女運の悪い男とストーカー女』…読み終えて
修司は『とことん女運の悪い男と女ストーカー』を読み終え、本を閉じて元あった場所に戻した。苦笑しながら
「いやはや、女運が悪いにもほどがあるな」
…と呟いた。何も知らない義彦の幸福と、咲美の末路、明日香の正体…後味は悪いが、変な笑いが出てしまった。
ふと横を見ると、隣に立つ別の客の男が顔を顰めながら本を読んでいる事に気付いた。修司は彼の手元に目をやり、読んでいる本が自分が今読み終わった作品と同じ著者のものであることに気付いた。
「眉間に皺が寄ってるけど、そんなに酷い話なんですか?」
何気なく軽く尋ねると、男は小さく頷いてページをめくる手を止めた。
「うん、日本昔話にある『食わず女房』をネタにしたホラーが描かれてるんだよ」
男は概要を語り始めた。
その物語はこうだ。
主人公の男は別れた元妻とのトラブルに悩まされていた。彼女は狂気じみた執着を見せ始め、彼が留守にしている自宅に忍び込み、自分に代わって新しく彼の妻となった女性に危害を加えようと企む。
しかし、その新妻には恐ろしい秘密があった――彼女の正体は特定の相手を喰らってはその人物に擬態し、入れ替わることで現代まで生きながらえてきた妖怪だったのだ。
元妻は彼女の本性――台所で捕まえた野良猫や鴉をそのままムシャムシャ食べている所――を目撃してしまい、口封じも兼ねて無惨に喰い殺されてしまった。
だが、運命の悪戯か…元妻は偶然にもその直前、菖蒲の湯に入ってきたばかりだった。
菖蒲は、妖怪退けに使われてきた歴史がある。
妖怪は何も知らずに彼女を喰った所為でその毒性に耐えきれず、その場でもがき苦しんで死に絶える。
そして、体はドロドロに溶けてしまった。
ラストシーンでは、帰宅した夫が異変に気づかぬまま自宅の鍵を開けようとし、「あれ?何だろう、この匂い…」…と呟くところで終わる。少なくとも夫は狂った元妻と妖怪から解放されたのが唯一の救いだが、読後感は酷く後味の悪いものだった。
「うへぇ…そりゃ確かに酷いや」
修司は苦笑した。
「だろ?少なくとも夫は狂った元妻と妖怪から逃れられたのが救いだけど」
「さっき僕もその本の著者の別の作品読んだんですけど、これも救いがあるのか解らない話でして…」
「へえ?」
「どうもこの著者、読者に救いがあるかどうかの判断を委ねる人みたいですね」
修司はしばらく彼と感想を語り合った後、再び棚に目を向けた。次はどんな物語が待っているのか。
「これはどうかな?」
別の本を手に取り、ページをめくり始めた。
いかがだったでしょうか?
ちなみに「『食わず女房』をネタにしたホラー」~は没ネタです。
没にした理由は色々ありますが、一番の理由は怖いと言うよりグロい…と思ったから(笑)
ちなみに私が人生で一番最初に知った「女運の悪い男の物語」は『食わず女房』です…結構怖かったのが今は良い思い出。
次のお話は完成次第更新します。