『とことん女運の悪い男とストーカー女』…第2章・結婚、そして…
季節は冬へと移り、咲美の影が薄れていく中で、義彦はある決意を固めた。
クリスマスイブの夜、自宅で明日香と二人で小さなケーキを囲んでいると、義彦はそっと立ち上がり、ポケットから小さな箱を取り出した。
「明日香、俺…ずっと考えていたんだけど…」
緊張で言葉に詰まりながらも、箱を開けて指輪を見せる。
「結婚してくれないか?」
その一言に明日香は目を丸くし、やがて嬉しそうに笑った。
「嬉しい…私…ずっと待ってたよ。夢みたいだね、こんな日が来るなんて…」
「本当か?」
「本当だよ。こんな大事な時に冗談なんか言うと思う?」
「あ…あはは、そうか…ありがとう…」
「もう!お礼を言うのは私の方だよ!?」
「え?いや、その…ははは。」
「はぁ、義彦ったらほんと…うふ、うふふ…」
彼女は指輪を受け取り、二人は笑い合った。
年が明け、二人は結婚の準備を始めた。役所に婚姻届を提出し、親しい友人だけを招いたささやかな式を開いた。
やがて結婚から半年が経ち、二人の生活は穏やかに進んでいた。そして更なる喜びが訪れた――明日香が妊娠したのだ。医師からは「2か月目かな。順調ですよ」と言われ、義彦は父親になる実感に胸を膨らませていた。明日香は穏やかな笑顔で「名前、どうしようか」と話すことが増えた。
しかし、再び異変が忍び寄り始めた。ある日、義彦が仕事から帰宅すると、ポストに封筒が入っていた。中には一枚の写真があり、街角で買い物袋を抱える明日香が写っていた。メッセージは何も書かれていないが、遠くから不自然に撮られた構図に、義彦の背中に冷たいものが走った。
「咲美…また始まったのか?」
彼はすぐに警察に連絡し、写真を提出した。
警官は眉をひそめながら言った。
「保護命令はまだ有効です。彼女が関与しているなら、即座に逮捕できます。とりあえず、警戒を強めてください。」
義彦は頷きつつ、身重の妻に危険が及ぶことを恐れた。
「そうなの…。あの人、また…」
義彦から咲美の事を報された明日香は辟易した様子で義彦の手を握った。
数日後、近所で買い物をしていた明日香が帰宅し、少し顔を曇らせて言った。
「今日、スーパーで変な感じがしたの。誰かに見られている気がして。」
義彦は目を鋭くした。
「どこかでアイツを…咲美を見たのか?」
「…はっきりとは分からない。ただ…何となく。」
彼女はお腹をさすりながら「少し休むね」と呟いた。
その後、家の周囲に不審な足跡が見つかり、翌朝、玄関先に萎れかけた花束を置く咲美を寝ずの番をしていた義彦が目撃した。
「あいつ…やっぱりか!!懲りずに嫌がらせを……」
警察は咲美を再び勾留し、尋問したが、彼女は「彼に会いたいだけ」と繰り返すばかりだった。