『とことん女運の悪い男とストーカー女』…第1章・元カノがストーカーになった。
では、始めます。
都心から少し離れた住宅街に暮らす25歳の青年、山田義彦は、ここ数か月、不安に苛まれていた。原因は――元恋人の斎藤咲美だ。彼女とは大学時代に交際していたが、すれ違いが続き、関係が冷めてしまい、2年前に別れを告げて終わったはずだった。
しかし――
咲美は義彦の生活に忍び寄るようになった。最初は偶然を装った近所での遭遇や、深夜に届く意味深なメッセージだった。それがエスカレートし、ある晩、自宅の窓の外に彼女の姿を見つけたとき、義彦は背筋が凍り、思わず叫びそうになった。まるで幽霊のように、彼女はそこに立っていたのだ。
怖くなり警察に相談したが、「明確な証拠がない」と動きは鈍く、保護命令の申請にも時間と手間がかかると言われた。一方で、義彦には新しい恋人がいた。孤児院で育ち、現在は看護師として働く24歳の女性、花山明日香だ。彼女は冷静で落ち着いた性格で、ストーカー対策を義彦と話し合った。
「焦っても解決しないよ。警察の言う通り、まずは証拠を集めよう。カメラを設置して、メッセージも全部保存して…それから、私も一緒に警察に行く。第3者の私が客観的に説明したほうが伝わるかもしれないし」
「えっ?いや、でも…迷惑じゃないか?」
義彦の声は小さくなった。明日香を元恋人とのトラブルに巻き込むのは申し訳なかった。
「そんなこと思わないよ。安心して。あなたが辛そうにしているのに、私が放っておけるわけないでしょ」
明日香は穏やかだが力強く返した。彼女の言葉に義彦は胸が熱くなった。
「ごめん…君がそう言ってくれるなら心強いよ」
義彦は自宅に防犯カメラを設置し、咲美が敷地内に侵入する瞬間を捉えた。その映像を持って警察に駆け込んだが――
「これだけでは逮捕は難しいですね。もう少し具体的な危害の証拠が…」
と言われ、義彦は思わず…
「はあ?何だよそれ。具体的な危害が出た時には遅いだろ。刺されるまで待てってか!?」
と叫びそうになったが、辛うじて抑えた。現実は簡単には動かず、苛立ちが募るばかりだった。
その夜、心配した明日香が泊まりに来ていた時、異変が起きた。外で物音がし、義彦がカーテンを開けると、暗闇の中に咲美のシルエットが浮かんでいた。彼女は手に何かを持ち、じっとこちらを見つめている。明日香が素早く立ち上がり…
「今だよ、警察に電話して!」
と叫んだ。義彦は震える手で110番を押したが、頭の中はパニックだった。
通報を受け駆けつけた警察は、咲美を現行犯で逮捕した。彼女が手にしていたのは金属製のナイフ――明確な危害の意図を示す証拠だ。他人の敷地内に無断侵入し、刃物を持っていた事実を前に、警察もようやく動いた。咲美は無表情で黙ったままパトカーに乗せられ、連行された。
翌日、義彦は警察署で事情聴取を受けた。担当者は淡々と説明した。
「斎藤咲美にはストーカー規制法違反と住居侵入、それにナイフ所持による脅迫罪や銃刀法違反の疑いがあります。勾留の手続きを進めますが、裁判までは時間がかかるかもしれません。」
義彦は不安になり尋ねた。
「…しばらくは出てこられないってことですか?」
「初犯なら保釈の可能性もありますが、今回は状況が深刻なので、裁判所の判断次第ですね…」
警察の言葉は曖昧で、不安を拭い去るには至らなかった。
待合室で待っていた明日香は、疲れ切った義彦を見て声をかけた。
「大丈夫?」
「うん、でも…まだ安心できない…」
「心配しすぎだよ、証拠もあるし」
明日香は励ますが、彼女自身もどこか不安そうだった。
その後、咲美は起訴された。防犯カメラの映像やナイフ所持の事実が決め手となり、裁判所は保護命令を発出し、接近禁止も命じた。しかし、咲美の弁護士が「精神的な不安定さ」を理由に保釈を求め、わずか2週間で彼女は保釈金と共に釈放された。
警察からの電話で…
「斎藤咲美が保釈されました。保護命令は有効ですが、注意してください」
と言われ、受話器を持つ義彦の手が震えた。
「『注意してください』って…おい…」
彼は思わず天を仰いだ。
その夜、明日香と話し合った。
「こうなったらもっと証拠を集めて、徹底的に戦おう。私だって協力するから」
義彦は、勇ましい言葉で自分を励ます彼女の瞳に強い決意が宿っているように感じた。
だが、やはり危機は去っていなかった。ある晩、帰宅すると、自宅のドアに小さな紙切れが挟まっていた。そこには殴り書きで『逃がさない』と書かれていた。
二人は諦めずに対策を進めた。ドアに強化錠を付け、窓に防犯フィルムを貼り、防犯カメラも増設した。それが功を奏したのか咲美からの接触は途絶え、しばらく平穏が続いた。警察からは何かあればすぐに連絡するよう念押しされていたが、義彦は平和な日常を取り戻しつつあった。心から愛する恋人、明日香の存在が彼の支えとなっていた。
二人が近所の公園を散歩している時、義彦は明日香の手を握り微笑んだ。
「明日香。君のおかげだ…明日香がいてくれたから、俺…何とか乗り越えられたよ」
「ふふっ、義彦ったら頼りすぎよ。でも、私も貴方がいてくれて色々と助かるから、お互い様かな」
明日香は軽く笑い、風に揺れる髪を整えた。
女性と交際した経験なんて無い(泣)ので、恋愛ドラマやアニメを参考にしています。