『ある廃寺で願い事をした男の子の話』…第6章・決着
犯人達のリーダーはいよいよ苛立ちが抑えきれなくなっていた。隠れている者を探しに向かわせた3人からの連絡が途絶え、焦りがピークに達していた。
「ちくしょう!何で誰も戻ってこないんだ!?」
彼は山川を射殺した赤い髪の手下に目を向けた。赤髪は血走った目で見られて、緊張で顔を引きつらせる。
「今度はお前が動け!誰でもいいから人質を盾にしろ、それで隠れてる野郎を始末してこい、今すぐだ!!」
命令された赤髪は焦り、人質の中から適当に誰かを選ぼうと生徒達に近づくと、椿が前に出た。
「やめてください!この子達に手を出さないで!!」
恐怖に震えながらも生徒達を守ろうとする椿。だが、そんな彼女を赤髪は鼻で笑った。
「けっ、今時流行らねぇヒーロー気取りかよ、ならお前でいいんだな?」
「…っ」
「せ、先生!!」
短気な赤髪が椿の腕を掴んだ。生徒達が悲痛な叫び声を上げたが、赤髪は銃を上に向けて「黙れ!!」と一喝した。先程この男に山川が殺される瞬間を見ていた彼らは恐怖で抵抗できなかった。
椿は抵抗せず、素直に従った。恐怖で心臓が締め付けられる思いだったが、生徒たちを守らなければならないと覚悟を決めていた。
二人はロビーを離れ、廊下に差し掛かった。すると…
「!誰だ!?」
赤髪が銃を構えた先に、異様な姿の人物が闇の中から現れた。昭弘だった。彼は倒した三人の内、二人から奪った装備で武装していた。銃とナイフ、血に染まったジャケットを羽織った姿だ。意図的に目立つ格好をする事で敵の意表を突く狙いがあった。椿も彼を見て唖然とする。
「さ、真田君…!?」
姿が見えないとは思っていたが、まさか武装した犯人達を相手に戦っているとは夢にも思わなかった。赤髪も呆気に取られている。
「な、何だ、てめえは!?」
困惑するが、その隙が命取りだった。昭弘は直ぐに彼に向かって銃の引き金を引いた。
その瞬間に赤髪の右耳が吹き飛び、血が飛び散る。
「うぎゃあああ!お、俺の耳があああ!?」
赤髪は悲鳴を上げ、負傷した耳を押さえて悶えた。明弘は攻撃を止めず、銃の柄で赤髪の頭を強打し、よろけた赤髪が倒れるや否や、昭弘は冷酷にその顔を靴底で踏み潰した。「ぐぎゃっ!?」と短い声を上げて、赤髪は気絶した。これで4人目…残りはリーダー格の男一人だけだ。
昭弘は一息もつかずに最後の敵がいるロビーに突入した。リーダーは人質を前に銃を構えていたが、赤髪と同じく昭弘の姿を見て動揺した。
「な、何だお前!?そのふざけたな…」
「ふざけたなりは!?」とでも言いたかったのだろうが、言い終わらない内に昭弘は彼に向かって躊躇なく銃を発砲した。連続する銃声が響くと、弾がリーダーの下半身に…膝やふとももを撃ち抜かれて、運悪く股間にも弾が貫通した。
「ぐぎゃあああああああああっ!!!???」
ロビーにリーダーの絶叫が木霊し、下半身を血だらけにして床に崩れ落ちた。彼は人質を取る事も許されず、戦闘不能に陥った。
「あ、ああ……お、俺の…俺の…う、うああ……か、がみ…ざ…ま……う…うああ…あ…」
耐え難い猛烈な激痛に悶え、身をよじるその有様はいくら悪党とは言えあまりにも無惨だった。しかし…
「何が神様だ、人殺し共が…。どいつもこいつも自分がやられたら無駄に大きな悲鳴を上げやがって…」
昭弘はもう動かなくなっている山川を想い、冷たく吐き捨てた。しかし、これ以上の攻撃をするつもりは無かった。
「な、何てこった……!?」
ロビーにいた人質達は、あまりの事態に恐怖を通り越して呆然とし、普段昭弘をからかっていた同級生達に至っては小便を漏らし、口から泡を吹いて失神している者もいた。赤髪から解放された椿は震える手で口を押さえ、目の前の光景を見つめている。昭弘は溜息を吐くと、静かに銃を下ろして口を開いた。
「高峰先生…皆、無事で良かった」
その声は安堵に満ちており、血と硝酸の臭いで殺伐とした状況の中で温かみを帯びていた。
武装した犯人達は昭弘によって完全に無力化された。全員が重傷を負い、抵抗する力は失われている。椿を含めた人質達は、ようやく自分達が助かった事を実感し始める。
「た…助かったんだよな?」
「あ、ああ…」
「マジかよ、真田に助けられるとは…」
何人かの生徒達が震えながら呟いた。
椿はよろめきながら昭弘に駆け寄り、肩に手を置いて労った。
「真田君…!何て無茶を…怪我はない?大丈夫なの!?」
彼女の目には感謝と驚愕が混じっていた。
少しして、正面玄関を突き破り、警察官たちがロビーに飛び込んできたが、彼らは目の前の光景に愕然とした。犯人達は全員が倒れ、異様な格好をした若い男が立つ中、人質が無事に解放されている——常軌を逸した信じられない状況だった。一方の昭弘は安心した様子で銃を床に置いた。
――――
翌朝、ホテルは警察と大勢のマスコミに囲まれていた。警察の捜査で武装した犯人グループの正体と動機、ホテルの支配人の裏の顔などが徐々に明らかになった。
昭弘が人質を救うために取った行動は、正当防衛として認められた。刑法第36条に基づき、自己または他人の生命・身体を守るためのやむを得ない行為は罪に問われない。犯人達が銃を手に人質を脅迫し、既に人質の一人である山川を殺害し、更には「全員を殺してもいい」と喚くなど、明確な殺意を示していた以上、昭弘の行動は法の範囲内だと判断されたのだ。
ただ、彼が犯人達全員を無力化した点は唖然とするしかなく、捜査主任は「こんな事があるのか!?」と漏らしていた。
ホテルは一時閉鎖。修学旅行は中止となり、生徒たちは帰る事になった。
今回はここまで。続きはまた。




