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Deceptive Love  作者: 緋色
第五章:ヴァルグラート編
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第八十七話:蠱毒


 公爵会議前日の夜。

 

 帝都のとある豪邸、多くの窓が取り付けられている中、二階の窓から明かりが漏れ出している。一人の魔女が部屋のドアの前に立って首だけ覗かせている。


 「今日もお疲れ様、想像以上に動きが良くなってるよ。この調子で頑張ろうね。じゃあまた明日」


 魔女がドアをそっと閉めようとすると、部屋の中の人物が声を発する。


 「あ、待って‥‥‥」


 弱々しい声だった。ベッドの上で上半身を起き上がらせる。


 「うん?」


 「‥‥‥少し話したいことがあるんですけど‥‥‥良いですか」


 「もちろんだよ、リリアちゃん」


 魔女、元いレイナは部屋の中へ入りリリアのベッドに腰を掛ける。


 「‥‥‥」


 リリアは口を開かない。躊躇いが表情から容易に読み取れる。手が小刻みに震え、呼吸が少し荒くなる。だがレイナは何も言わなかった。優しく、穏やかな笑顔で彼女のことを見つめている。リリアの呼吸音と秒針の音だけが部屋の中を包み込んでいる。


 どのくらいの時間が経ったかは分からなかったが、リリアの呼吸が落ち着いた。彼女は肺から空気を大きく吐き出し口を開く。


 「私、ゼルファリス連邦国に戻ります。それがきっと、正しい選択だと思うから‥‥‥」


 声は震えていた。自身に伸し掛かる責任と大切な友を天秤にかけたのだ。一年以上の葛藤の末、その天秤は静かに傾いた。


 「それが君の選んだ道なら、私は尊重するよ。私から君のお母さんに一報を入れとくから」


 「それと‥‥‥!」


 レイナの言葉に被せるようにリリアが声を発する。リリアにとっては今から言うことが、ずっと自身の心の中で渦巻いていた後悔でもある。手を強く握りしめ、本心を曝け出す。


 「それと、ゼニウム達に会いたい‥‥‥! 会ってちゃんと謝りたいんです‥‥‥! 秘密を抱えて生きること、それが辛かったんです。皆んなは私を仲間と呼んでくれるけど、でもそれは皆んなの思う本当の私じゃない。だから、最後に本心から向き合いたいんです‥‥‥! どんな結末になっても良いから‥‥‥」


 リリアとは異なり、レイナは落ち着いていた。震える彼女の手にそっと自身の手を重ねる。


 「心配しないで、悲しい最後には絶対にさせない。私は皆んなの先生だからね。きっとまた四人で集まれる日が訪れるよ。その時は先生も仲間に入れて欲しいなぁなんてね」


 励ますように精一杯の愛嬌を振る舞った。レイナは立ち上がり部屋の入り口へと向かう。そこへリリアが再び声をかける。


 「あ、先生! あの、今まで本当に」


 「お礼は全てが終わってから、ね」


 レイナは部屋を後にする。


 暗く長い廊下をゆっくりと進む。窓の外では帝都の街並みが星空のように輝いていた。その景色を横目にレイナは様々なことを考えていた。


 レイナの足が止まる。廊下の突き当たりの窓ぶち、そこに腰を掛ける人影があった。


 「あれが例の娘、そして貴方がその護衛ということですか」


 貴族のような衣装に身を包んだ女性、月明かりが彼女の姿をより鮮明にする。体の至る所の皮膚が欠損し赤い鮮明な血肉が丸見えになっている。指が数本欠損しているが血が滴り落ちることはなかった。


 「‥‥‥何の用?」


 レイナは身を低くし警戒する。


 「争うつもりはありません。静かな夜が台無しになってしまいますから。今日は貴方を一目見に来ただけですので」


 殺意は感じられなかった。だがレイナは距離を一定に保つ。出会ったことはないが、目の前に立つ女性のことはよく知っている。

 

 「私を舐めているのかな。こんななりだけど、君よりは強いよ。執行者さん」


 ゼニウム達や昔の知り合いから彼女のことは知らされていた。神々の執行者、ビアンカ・フェッリーニ。本来ならば問答無用で消し炭にするべきなのだが、レイナにはそれが出来なかった。


 「否定はしません。貴方に私の能力は効かないでしょう。ですが、後ろの部屋で寝ている彼女はどうでしょうか」


 「っ!」


 一雫の汗が頬を伝う。今できる最善の策は相手を刺激しないことだった。だが。


 「ふふ、にしても可哀想な子ですね。彼女はただの道具、あの怪物達が求めているのは彼女自身の成長ではなくスキルであって」


 「それ以上言ったら殺すよ?」


 明確な殺意がビアンカの皮膚を刺激する。流石の圧に一歩後退りするもすぐに姿勢を正す。


 「ゴホン、これは失敬。貴方を一目見れたことですし、私はこれで」


 ビアンカの足元に魔法陣が浮かび上がる。魔法に詳しいレイナは、それが転移魔法だと確信していた。廊下の壁に取り付けられている時計の針が零時を示す。


 「では、最後の夜をお楽しみください」


 「何を言って‥‥‥」


 ビアンカの姿が光粒子となり消えた同時に、窓から鋭い光が溢れ出す。複数の光の柱が帝都に立ち上り暗闇を打ち消す。


 「これは‥‥‥!」


  ◇◇◇◇◇◇◇


 帝都郊外に一人の魔族が立っている。杖を突き、目の前の巨大な都市から溢れ出す光を柱を眺め状況を把握する。そして、背後からこの魔族に近づく一つの影。


 「はぁ、やっと見つけた。峡谷にいねぇ時はどうしようかと思ったが、好都合だ」


 「‥‥‥何者だ?」


 魔族は振り返り、背後を取った人間に問いかける。


 「ただの武器屋だよ。惰性の十翼(ダクシオン)を警戒してるなら心配はいらねぇ、あの怪物共は魔族なんて眼中にねぇよ。なぁ、あんたらはこの国に恨みがあるんだろ? 今この混乱に乗じれば帝都を楽々落とせると思うんだが」


 その間、魔族は目を細め、武器屋を名乗る人間を興味深そうに観察する。


 「‥‥‥神々の執行者か。イシュガルの魔王を誑かしたのは貴様だな」


 互いに向き合い一歩も引かない。冷たい風が二人の間を通り抜ける。


 「‥‥‥で、どうなんだ」


 執行者は鋭い視線で魔族を睨みつける。魔族は少しの間を置き返答をした。


 「理解できぬな、何故今なのだ。全てが終わってからで良いだろう。去年の侵攻もそうだが、若い者はすぐ事を急ぐ」


 同意には至らなかった。だが彼にとってそれは折り込み済みだった。他人からの理解など、殆ど得られたことは無かったからだ。


 「理解でき(分かってくれ)ねぇか‥‥‥別に良いぜ」


 人間は魔族に向けゆっくりと手を伸ばす。


 「聖約(パクトゥム・)侵食(サンクトゥム)


 彼の手から溢れた淡い光の膜が目の前の魔族を優しく包み込む。他者の思想を侵食し、思いのままに操る力。サクヤ・ツキモリが転移時に神から授かった呪いである。


 光の膜が完全に魔族を覆い隠そうとした時、魔族は杖の先を地面へと突き刺した。光の膜はガラスのように砕け散り、跡形もなく空気中に離散する。


 「な‥‥‥!?」


 チッ‥‥‥! やっぱこのタコには効かねぇか‥‥‥! だからって効果ゼロだとは思わねぇよ‥‥‥!


 執行者の能力は絶対的な力を誇る。その気になればこの時代の弱体化した人間程度なら絶滅させることが出来るだろう。しかしこの千年間、それが実行されることは無かった。何故なら、神の力すら凌駕する怪物達がこの世界に君臨しているからである。惰性の十翼(ダクシオン)を始め、ラグゼントの王、サディスの女王、そして、人間との戦争を生き延びた太古の魔王。


 「‥‥‥見くびるなよ、小僧」


 圧倒的な強者の圧がサクヤを飲み込む。額から汗が流れ、体が震える。


 「だが、あんたのお友達の吸血鬼は既に帝都にいる。見殺しに出来ねぇからここまで来たんだろ?」


 サクヤの足元に魔法陣が浮かび上がる。魔王はただそれを傍観している。


 「自分から地獄に飛び込むなら、精々怪物同士殺し合ってくれ」


 彼の体は粒子となってその場から跡形も無く消えた。


キャラクター紹介③

<<ルビリス・リンドベリ>>

性別:女

種族:人間

誕生日:5/5

身長:150cm

体重:48kg

称号:なし

スキル:なし

好きなもの:可愛い自分、ニグラス、ボードゲーム、お絵かき、高級品

嫌いなもの:虫、孤独、体格マウントしてくる奴

ーーーーーーー

学園時代は「歩く黒歴史漏洩機」と言われるほど口数が多く他人を揶揄うことを好んでいた。自己中心的で子供じみた言動が目立つが四人の中で一番誕生日が早い。ほんの僅かにサキュバスの血を引いているが、恵まれない自身の体格のせいで本人はあまり信じていない。学園を出て以降ニグラスへの好意が目立つようになってきている。

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