第八十四話:立場
八月が終わった‥‥‥???
ケルセナ神聖国の旗艦は作戦司令部として機能しており、その会議室では様々な思想が火花を散らしている。
「何故全軍で攻撃を仕掛けないのですか! 敵に守護者が居ようと我々は六倍の兵数を有しています! このままでは各個撃破されるだけです!」
「その通りだ! 我らが創造主から下された天啓はゼルファリス連邦国の早期撃滅、仮に敗北ともなれば民の信仰心に亀裂が生まれる恐れがある!」
ケルセナ神聖国では貴族よりも聖職者が高い地位を築いている。各都市から集った大司教達がこの戦争の指揮権を保持しているのだ。彼らの怒りの矛先は一人の人物に向けられていた。年老いた顔ぶれが並ぶ中、彼女だけは若く美しい容姿をしている。白い豪華な衣装、顔を白いベールで隠し、堂々と足を組んでいる。罵声を浴びながらも表情を変えることはなかった。
「何か言ったらどうなのですか! 枢機卿!」
枢機卿、ケルセナ神聖国の事実上最高権力者であり、この戦争における最高司令官でもある。枢機卿の上には聖王が存在するが、あくまで国の象徴として君臨しているに過ぎない。枢機卿はため息をつくと顔を上げる。
「天啓‥‥‥果たしてそれは事実なのか? ただの空耳じゃないのかな」
枢機卿
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レベル???
「何をふざけたことを言っているのですか! あの遺骨の声をここにいる全員が聞いたのです! なのに貴方は何年経っても軍を編成しようとせず、いざ出兵してみれば敵を前に怖気付いている! 貴方ほどの者が、天啓が聞こえなかった、なんて言わせませんよ!」
一人の老人が机を強く叩きつける。それでもなお彼女は動じない。この状況に痺れを切らしたのか、ほかの老人が立ち上がる。
「我々が仕えるのは神であって貴方ではない! このまま足踏みをしているだけならば、私は勝手にやらせていただく!」
そう言うと、席を離れ部屋を後にする。他の者達もそれ続き部屋を出て行く。先程までの喧騒が消え失せ、静寂が部屋を包み込む。椅子は乱雑に放置され、一人残った枢機卿は再びため息を吐く。
「聞こえるわけないだろう。神への信仰心などこれっぽっちも無いのだから」
◇◇◇◇◇◇◇
「動いたか」
ラントゥールは前進してくる軍勢を飛空戦艦から眺めている。六十万の聖騎士が怒号を上げ、狂ったように前線とぶつかるのを見た。彼は非常に落ち着いていた。惰性の十翼にとっての敵は眼下の有象無象ではなく、天上の神々だからだ。
「前線の指揮権をルーメンヴァイスに、ノクスハルトを出撃させろ」
ラントゥールが無線機で指示を出し終えると、彼は空を見上げた。空は黒く染まり、無数の雫が彼の黒いコートを打ち付け離散する。二年後、あの空から神々の軍勢が降臨する。獣人である彼は前回の大戦を経験している。大英雄である父ですら命を落とすほどの戦い、それに比べれば今行われている戦争はただの火遊びに過ぎない。
「‥‥‥全ては彼女次第か」
◇◇◇◇◇◇◇
ケルセナ神聖国の聖騎士はヴァルムント帝国の騎士とは異なる。後者は剣術や弓術を用い乱戦を得意とするのに対し、前者は武具に魔法を付与し、状況に合わせ臨機応変に行動する。
前線の聖騎士達の足が突如止まる。
「おいどうした、何故止まる?」
先程までの怒号が止み、目の前の騎士がゆっくりと首を後ろへ向ける。
「体‥‥‥が‥‥‥勝手‥‥‥に‥‥‥助け‥‥‥」
前線の聖騎士達は自身が握る剣を自らの首や心臓へゆっくりと運ぶ。その手は震えており、顔は恐怖一色で染まっていた。
「はい、おーしまい⭐︎」
何処からか声が聞こえた。女性の声だ。声色からしてまだ未成年だろう。だが何故こんな戦場に子供がいるのだろうか。その疑問は一瞬で脳から抹消された。目の前の同胞達から血飛沫が上がる。自らの首を斬り落とす者、自らの心臓を貫く者、辺り一帯から悲鳴が上がる。
ふと、遠くの空を見上げると黒い翼を生やした者が浮遊していた。血に染まった戦場、自ら命を絶った者達を嬉々として見下ろしている。
「アハハ! 爽快だなぁ!」
ラナキュア・ノクスハルト。人間とサキュバスの混血であり、惰性の十翼の中でも対軍戦闘に特化している。
「ひ、怯むな! 我々は神の加護を授かっている! あんな魔族もどきに」
「私の前で数は無意味だよ」
ラナキュアが指を鳴らすと、悲鳴と共に再び血の湖が出来上がる。前線の指揮は崩壊し、悲惨な光景を目にした者達は敗走を始める。
「アハハハ! もう逃げるの? 君達の信仰もその程度ってことかな!」
◇◇◇◇◇◇◇
「ラナキュア、あれだけ言ったのにどうして‥‥‥」
キクエラは通信室の巨大なスクリーンに映し出される前線の映像を眺めている。そこには無防備にも敵を虐殺するラナキュアがいた。この時代の聖騎士程度では千年以上生きるラナキュアを殺せる者はいないだろう。しかし、ラントゥールを始めとするラナキュア以外の惰性の十翼には一つだけ懸念していることがあった。
ラグゼント王国の艦隊ですら突破出来なかった聖都の大結界。それが個人の魔法なのか、それとも兵器なのか。少なくとも今言えることは、強大な力を持つ何かがあるということだけである。
「良いではありませんか。楽しむことは生きて行く上で重要なことです。特に我々のような老人には」
白衣を身につけた高身長の男性。白衣の下では僅かに何かが蠢いている。
「あら、ゼルヴァリオン。守護者の方は順調?」
「ええ、全て問題ありません。ご命令とあらばいつでも出撃可能です」
キクエラの横に並び、スクリーンを見る。多くの命が散り、屍が積み重なって行く。
「嘆かわしい。多くの可能性が失われていく。ですが、より多くの命を救うためには仕方のないことです」
彼は目を瞑り、片手を胸に当て黙祷をする。キクエラはその行動を面白そうに見つめる。数百年間共に働いてきた彼女には全てお見通しだった。
「ふふ、嘘つき」
「‥‥‥やはり大精霊の目は誤魔化せませんか」
黙祷を止め、再びスクリーンを見つめる。
「では、そろそろ宜しいでしょうか」
「ええもちろん、始めてちょうだい」
白衣のポケットから一つの通信機を取り出した。彼はこのために戦場へ足を運んだのだ。大戦に備え磨き続けた神々への二番目の刃。
「守護者、全機発進」
世界の守護者、ここに解き放たれる。
キャラクターの名前紹介(?)みたいなものを一時期書いていましたが、それやるくらいならキャラクターシートみたいなの書こうかなと、思ってたり思っていなかったり。(( _ _ ))..zzzZZ




