第八話:ネフィリムの墳墓②
「あーあ、私たち一番最後のグループだから魔物は残ってなさそう」
不満そうに言いながら、リリアは奥へと進んでいく。
「なあリリア、お前、怖くないの?」
こんな空間でも普段通りに過ごせるなんて到底信じられない。
「こことは別の場所だけど、昔何度もお母さんに連れ行かれたからね、もう慣れてるよ」
昔って‥‥‥何歳の時だよ、とんだ親がいたもんだ。
「ねぇ、リリアって自分の家の話してくれないけどさ〜、リリアの親ってどんな人なの?」
杖を胸の前で強く握り締めながら、話題を振り、恐怖を紛らわそうとするルビリス。
「どんな人って言われてもなぁ、お父さんは居ないんだよね」
俺と同じだ‥‥‥
「あ‥‥‥ごめんね、嫌なこと思い出させちゃって」
お前って謝れるんだ。
「いいよ別に、昔から何も気にしてないから」
「じゃあ母親はどんなやつなんだ?」
ニグラスが口を開く。
「どんなって言われてもなぁ、強いて言うなら‥‥‥強いよ、とても」
その声は、圧倒的な自信が含まれているように聞こえた。
「へぇ、一回手合わせしてみてぇな」
◇◇◇◇◇◇◇
「結構奥まで来たな、てかどのグループともすれ違わないのはなんでだ?」
時間的にはそろそろ最初のグループとすれ違ってもいい頃だ。
だがそれどころか人の気配すら全く感じない。
「道間違えたか? レイナ先生ってなんか言ってた?」
「広い道をまっすぐ進めばいいよ! って言ってた」
まじで適当すぎる。
「‥‥‥! 待って、近くに魔力反応がある、この感じ、多分獣の魔物だと思う」
ルビリスのことは散々言ってきたが、魔法科の中ではレイナ先生お墨付きの生徒だ、あの似顔絵の他に、魔法に関しても才能がある。
「ああ、この深さにいるとしたら多分あれだな、目は見るなよ」
ルビリスの指示に従い、通ってきた広い道を外れ、入り組んだ細い通路を進んでいく。
奥に進むに連れ、鼻に中に嫌な匂いが染み込んでくる。
細い道の脇に小さな部屋があることに気づいた。
「あの部屋から反応が二つある」
「どうする誰がいく? 私が両方やって来てもいい?」
まるでどこかへかお出かけをしに行く子供のようにリリアが言う。
「いや、ここは俺とゼニウムで行く、どっちが先に倒すか競争しようぜ」
ニグラスもやる気満々だ。
「いいよ、でも念のため姿を確認してからな」
部屋の入り口の脇に立ち、そっと中を覗く。
<<千目の幻影獣>>
レベル:324
全身に無数の眼球を持つ獣、その目を見た者は別の世界へ連れて行かれると言われているが、実際はその目を見た者に対して精神干渉をしてくるだけだ。
何かに夢中のようでこちらに気づいていない。
「よし、よーい、どん!」
勢いよく二人は部屋の中へと突入した、二体の獣が足音に気づくが、その時にはもう遅い」
「剣術・天翔剣!」
「剣術・雷刃閃!」
ほぼ同時に体が真っ二つに分かれる。
二体の獣は悲鳴を上げることなく動かなくなった。
「よし、俺の勝ち!」
「は? 俺の方が早かっただろ!」
「はいはいお子さん二人とも、どうでもいいから早く次行こ、ルビリスがなんか見つけたんだって」
部屋の出口へと口論しながら向かう、魔物の死体を迂回して。
この魔物達は何に夢中だったんだろう。
腹が真っ二つに切れたこの死体を見れば、その答えを得られただろう。
視界の端に映ってはいけない物が映った気がした。
だが本能がそれを理解、認識させようとしなかった。
俺たちは部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇◇
「ほらこの奥! なんか光ってるよ!」
ルビリスは石レンガの壁を指さした。
そこは、子供一人入れるかどうかの隙間がありその奥に何かがあると言う。
「お宝じゃない!? ゼニウムちょっと見てみてよ、こういう時しか役立たないよその目!」
まじでぶっ飛ばしてやろうかなこいつ。
言われるがままに穴を覗く。
<<エーテル魔石>>
「エーテル魔石だってさ」
「まじか」
「エーテル魔石!? こんな浅いところにあるんだ」
「やったーー! これでバイトして魔石を買わなくて済む!」
「忘れたのか? ダンジョン内の物は国の所有物だから、ここから出たら没収だぞ」
「やだ! 絶対持って帰る! はぁ、これだからケチウムは」
「誰がケチウムだ!」
エーテル魔石、高純度の魔力を持つ魔石だ。
魔導機関のエネルギー源や高級魔法装備にも使われている。
「で、どうするんだ? 覗いた感じじゃかなり奥の方だぞ。剣じゃ届かない、チタニスの槍が有れば届いたんだが、体ちっちゃいやつがこの中に入って取るしかねぇぞ」
体ちっちゃいやつか、そもそも俺やニグラスは170超えてるから無理だし、リリアは162で、ルビリスが159か。
「行くとしたら女性の御二方のどちらかだな、まあ器用さで言ったらリリアか?」
「いや‥‥‥私はちょっと厳しいかも」
「なんでよ! 私こんな狭くて暗い場所無理だよ! リリアお願い!」
ルビリスがリリアの腰に抱きつく。
「いや‥‥‥でもちょっと‥‥‥」
「なーんーで! お願い! 一生のお願い! わかった、お金上げるお金、私があの魔石ですごい魔法使いになって稼いだお金あげるから!」
うわぁ‥‥‥そこまで落ちぶれたか。
「多分ルビリスしか適任がいないよ」
「なんで!? なんか入れない理由があるの!? あるなら言ってよ!」
リリアが覚悟を決めたのか、ルビリスの両肩に手を乗せる。
「私のこと、嫌いにならない?」
「ならないよ! ズッ友じゃん!」
リリアがため息を吐く、いや大きく息を吐いてそれを吸った。
そしてルビリスの目を見る。
「私は胸が大きいから引っかかって入れないの、だから、その、ルビリスなら‥‥‥」
最後の方は言葉を濁す。
リリア、甘い、甘すぎるよそれは。
ルビリスの思考が止まる。
「ああ! なるほど! ルビリスはまっっっっったく胸がないから! 穴に入りやすいってことか!」
わざと大きい声で大袈裟に言ってやった。
ルビリスは膝から崩れ落ち灰になった。