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Deceptive Love  作者: 緋色
第四章:テルグラス焦土編
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第七十七話:選択


 <<LOCATION:ナグルヴェイン峡谷-近郊>>

 <<WEATHER:快晴>>


 テルグラス焦土を後にしたゼニウム達は、途中ドランザール伯爵の護衛艦隊と合流し、アークシルヴァン公爵の元へと向かった。通信が復旧したおかげで現在の状況がある程度把握できた。現在ナグルヴェイン峡谷から溢れ出た魔物は侵攻を停止しており、艦隊と睨み合いが続いている。ヴォルカニス公爵はイシュガルの魔王から襲撃を受け、一時的にアークシルヴァン公爵の戦艦に身を置いている。


 ロベリアはドランザールと共に巨大な戦艦へと搭乗する。マストの最上部にはヴァルムント帝国の国旗が今も激しく揺れている。甲板へ上がるとまず最初に目に入るのは巨大な艦砲だ。中型の船ならば一撃で木っ端微塵にすることすら出来るだろう。帝国の強大さを体現している。次に目に入ったのは二つの人影。豪華な貴族服に身を包み、腰に提げている宝剣は今なお光を放ち続けている様に感じた。


 「只今帰還致しました」


 「ご苦労様、無理を言って悪かったわね、ドランザール騎士長」


 ドランザールに続き、ロベリアも公爵方へと挨拶をする。


 「テルグラス焦土より帰還致しました。救援感謝申し上げます」


 ロベリアは公爵方へ一礼し、ドランザールにも改めて頭を下げる。今のロベリアに公爵達は少し違和感を覚えた。彼女は騎士長という立場に相応しく非常に真面目であり、上に立つ者として必要な冷酷さを持ち合わせていることも理解している。人の前では堅物を演じており、内面はまだ少し幼いという事も。公爵達は常に前者を見てきた。つまり仮面を被った姿だ。だが今の彼女の姿は普段通りの振る舞いながらも仮面を付けている様には見えなかった。


 「ふむ、少し見ないうちに変わられましたな」


 アークシルヴァン公爵は顎髭を弄りつつ興味深そうにロベリアを見つめる。


 「無事で何よりだわ、ロベリア騎士長。状況は把握しているわよ、辛かったわね。でもその決断はより多くの命を救った。今はそれを誇りなさい。せめてもの彼への手向けとしてね」


 ヴォルカニス公爵は滅多にロベリア()()()とは呼ばない。開戦前の様な非常に砕けた愛称を好むが、これは決して子供扱いをしているのではなく、ロベリアへの信頼を表している。だが、彼なりにも時と場合を考えている。


 「‥‥‥はい」


 ロベリアは喉の奥から声を絞り出す。今の声が相手に聞こえたかは分からなかったが、込み上げてくる何かを抑えるのに必死だった。


 「彼を失ったことは我々にとっても非常に大きい。だが、よりによってゼルファリス連邦国が横槍を入れて来るとはのう」


 「そうね、だけど今あの大国と刃を交える余裕なんてないわ。それは向こうも同じだと思うのだけれど」


 公爵達の顔が厳しくなる。ヴァルムント帝国は公的にゼルファリス連邦国と戦争をしたことはない。あくまで非公式の小競り合い程度だ。だが、ヴォルカニス公爵は自身が騎士長の時代、一度だけその小競り合いに巻き込まれたことがある。その記憶は今も鮮明に残っている。ゼルファリス連邦国が誇る殲滅魔導兵器、守護者(パラディン)。一機が戦艦一隻に相当する戦闘力を持つと言われる。強力なシールドに守られ、複数の対軍魔法を放つその風貌は守護者の名とは程遠い。当時のヴォルカニス公爵は重傷を負いつつも一騎討ちにてそれに勝利した。彼が大公爵と呼ばれる所以でもある。

 

 「ふぅ、一先ずロベリア騎士長にはしばらく休暇を」


 「必要ありません」


 ヴォルカニス公爵の言葉を途中で遮り、ロベリアが発言する。本来ならば上の爵位の者の言葉を遮るのは不敬極まりない行為だが、彼女の異常な気迫に誰もそのことを気にも止めなかった。


 「私はまだ戦えます! いや、戦うしかないんです! ここで()()引き下がったら、もう自分を許せない。テルグラス焦土で自身の弱さに気づかされました。このままじゃ駄目なんです、あいつを殺すためには‥‥‥!」


 ロベリアの悲しみはいつの間にか怒りへと置き換わっていた。


 キブシルが死んだのはあの女のせいだ。あの女が居なければ、いや、私がもっと強ければ‥‥‥!


 「ロベリア騎士長!? 公爵に対してそのような発言は」


 同じ騎士長として、ドランザールがロベリアを止めようとするが、ヴォルカニス公爵は手で合図し彼を静止させる。


 「それが貴方の選択なのね」


 「はい」


 「迷いはない?」


 「はい!」


 ヴォルカニス公爵は彼女の目に一切の揺らぎがないことを確認するとため息を吐く。


 「自分で後悔しない道を選択したのなら、私達にそれを拒む権利はないわ。貴方の前線への復帰を認める。もう下がって結構よ」


 ロベリアは深くお辞儀をするとその場を後にする。公爵はその姿が見えなくなるまで彼女の背中を見つめていた。アークシルヴァン公爵は少し愉快そうに戦友をからかう。


 「大公爵であろう者でも反抗期の子への対応は苦手ですかな」


 「そういう訳じゃないのよ、以前にも別の子に同じ様なことを言った気がするの。それに、自分の子はいつも拳で立場を理解させてるから問題ないわ」


 「ははは、それは恐ろしい。私の息子なんか‥‥‥」


 この後、公爵達の家庭話は数時間続き、それに巻き込まれた未婚の騎士長が居たとか居なかったとか。

 

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