第七十三話:決め手
<<LOCATION:テルグラス焦土>>
<<WEATHER:快晴>>
大地に聳え立つ無数の建物群の麓で爆発音と共に土煙が上がる。建物が傾き倒れ、他の建物を巻き込んでいく。立ち込める煙の中から人影が飛び出す。キブシルはアニスから一定の距離を維持していた。斧を一振りするだけで地形すら変化させるほどの相手に近接戦闘は圧倒的不利だということは本人も理解していた。ロベリアもそれを理解しており、真っ先に身を潜めチャンスを伺っている。
煙の奥から光が漏れ出す。高密度の魔力を察知した瞬間キブシルは身を屈める。光が弧を描き彼の頭上を通り過ぎると、周辺の建物が浮き上がり、断面が露わになる。稼働していた機械が爆発すると共に瓦礫が降り注ぐ。
「くそ‥‥‥!」
キブシルは自身の俊敏さを生かし、間一髪崩落から逃れる。ロベリアのために隙を作ろうとしてもそんな余裕はない。アニスが、姿を眩ましたロベリアの存在を警戒していない訳がない。そもそもキブシル達の攻撃ではアニスの防御を突破できないのだ。防戦一方だがキブシルはこの短時間で彼女を観察し一つの仮説に辿り着いた。
キブシルは高速道路の下を駆け抜ける。アニスは一切焦りを見せず、余裕そうな表情で彼を追いかける。アニスが高速道路の下に差し掛かった瞬間、キブシルは彼女の頭上を撃ち抜く。道路が崩壊し、瓦礫が落ちてくるが、アニスはそれを巨斧で砕くか避けつつし、難なく突破した。
「‥‥‥可能性はあるな」
俺やロベリアが攻撃をした際、あいつは避けず、障壁のようなもので弾き返された。もしその障壁が完全防御を誇るのなら瓦礫の雨程度無視できるはずだ。だがあいつはそうはしなかった。ここでの違いはたったの一つ、魔力を纏っているかそうでないかだ。あの膨大な魔力が自然の防壁となり、一定値以上の異なる魔力が衝突すると反発すると言ったところか。
今の光景はキブシルにとって、そして、ロベリアにとっても決定的な証拠となった。遥か遠くの建物の屋上から弓を構え、標的に目掛けて放つ。一般的に騎士を始めとする戦士職は武器に魔力を込め威力を上げる。飛び道具なら射程も同様だ。込める魔力を減らせば飛距離が落ちるデメリットがあるが、ロベリアにとっては何の障害にもならなかった。針に糸を通すように放たれた矢は建物の隙間を通り抜け、アニスへと迫る。矢は魔力を纏っていないため、仮に魔力探知を使えたとしても察知することはできない。
だがアニスはその矢を最も簡単に叩き落とした。そしてその射線上に視線を向ける。彼女はこの瞬間を待っていたのだ。
「はぁ、何故射手というのは誰も彼も暗殺じみた戦い方をするのだろうな」
ただでさえ膨大だった魔力がより一層荒れ狂う。その殺意は明確にロベリアに向けられていた。数百メートル離れた距離でも明確に感じ取ることができた。
キブシルは全身の鳥肌が立つのを感じた。獲物がキブシルからロベリアへと移ったのは明白だった。ロベリアがこの事態を予測し、捕捉されようとすぐに場所を変えれるよう十分な距離を取っていたことは分かっていた。だがそんなものは何の役にもたたないと本能が訴えている。そう確信していた。
「ロベリア!!!」
キブシルが声を上げた瞬間、アニスは硬い地面を蹴り出す。先程まで立っていた場所がクレーターとなり、突風が吹き荒れる。今までの比ではない、アニスは一瞬で数百メートル離れた建物の屋上へと飛んだのだ。そして、その眼下に居るのはロベリアだった。
「見〜つけた」
「っつ!?」
漆黒の斧が振り下ろされると、高層ビルが薪割りのように真っ二つに裂けた。ロベリアは思考よりも先に足が動いた。靡く銀色の髪を犠牲に当たる寸前の所で回避する。だがそれも束の間、崩壊する足場でバランスを崩した。アニスは崩れゆく足場を高速で伝い、ロベリアの背後を取った。死の刃がロベリアへと振り下ろされる。
だが、刃が肉体に触れる直前、ロベリアは側面から強い衝撃を受けた。視界の端で彼の姿を捕らえた。キブシルは右腕を突き出しロベリアの体を吹き飛ばす。そして黒い刃が降り下ろされた。突き出された腕は最も簡単に切断される。赤い液体が吹き出し、空中に飛び散る。
「ぐっ!」
キブシルは自身の右腕から強烈な痛みを感じ取った。だが彼はその激痛に逆らい、左手で銃を構える。
「銃術・光焔弾!」
一発の弾丸が至近距離からアニスへと放たれる。その弾丸は魔力が宿っていた。つまりアニスにはその弾丸は届かない。だが彼女は本能で斧を防御目的に構える。弾丸が斧の面へと触れる直前、内側から光が漏れ出し爆発する。鉄片が四方八方に飛び散り、爆風で両者別々の方向へと吹き飛ばされた。




