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Deceptive Love  作者: 緋色
第三章:ベルトリオン編
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第四十九話:地下闘技場①


 金と娯楽の街ベルトリオンは昼夜問わず人々で賑わっている。


 お店はもちろん、アトラクションや賭博場まで光を灯している。


 三人は黒いフードを深く被り、賭博エリアの境界線に沿って進んでいると、巨大なシャッターが埋め込まれている壁が見えてくる。


 サーカスなどのイベント関連の小道具などが保管されている場所であろう、一般人なら皆そう思いわざわざ近づく人は居ない、だがシャッター横に備え付けられている鉄製の小さな扉、その手前に人影が居座っている。


 三人が近づくとすぐに反応し立ち上がる、片手をスーツの胸元の隙間に入れ相手の出方を伺う。


 ルディア騎士長はあらかじめチケットを手に取り、相手に見えるようにヒラつかせ、警戒を解かせる。


 すると胸元から手を抜き、そのチケットを受け取る。


 「ようこそお越しくださいました、お客様の個人情報保護のため鑑定機能を持つ魔道具等の持ち込みは禁止です、そしてお手数ですがこちらの着用が義務付けられております」


 懐中電灯のような魔道具で三人の体を照らす、おそらく身体検査だろう、そして三人分の仮面を差し出すと奥の小さな鉄の扉を開ける。


 外の光り輝く街とは正反対に、扉の中は漆黒の闇が広がっていた、生ぬるい空気が扉から溢れ出しているのを感じることができた。


 三人が未知の世界へと足を踏み入れるとすぐに扉が勢いよく閉められる。




 「‥‥‥ふぅ、潜入成功」


 俺は安堵した、魔物を想定して隠密で行動することは何度もあったが、対人間ともなるとまた変わった緊張感に苛まれていた。


 三人は薄暗い通路を進んでいく、壁や天井には無数の錆びたパイプが張り巡らされおり、所々に吊るされている照明の点滅が不気味さを際立たせる。


 パイプから漏れ出す水滴の落ちる音がこの空間で響き渡り、自分たちの神経を刺激する。


 通路の奥に光が見えた、それと同時に人々の声が大きくなっていく。




 視界が広くなる、薄暗い通路を歩いたせいか、広場から漏れ出す光が一層眩しく感じた。


 「これは‥‥‥!」


 目の前に広がったのは円形状の巨大空間だ、円の中心を丸く囲むように石造の壁が聳え立ち、その上にはまるで階段のような観客席が並ぶ、石の壁には対角線状に鋼鉄の扉が備え付けられ沈黙している。


 観客席には仮面をつけた人々で埋め尽くされていた、格好からここに集う者全員が富裕層だということが一目瞭然だ。


 「まるで競技場だな、地下にこんなものがあるとは」


 三人は空いている席に腰を下ろす、それが合図かのようにスピーカーからマイクのスイッチ音が響く。


 中央に吊るされた明かりが消え、スポットライトが会場の一点を指し示す。


 その一点に佇む一人の女に俺とリリアは見覚えがあった。


 「エミリー・パーカー‥‥‥!」


 「あれが‥‥‥」


 エミリーは会場一体を見渡す、子供が遊園地に行くのを待ち遠しく思うのと同じように、今から始まるショーは彼女にとっての娯楽である。


 「お集まりの皆様、本日はこんな夜分にお越しいただき‥‥‥と、くだらない前置きは省略しましょう」


 大きな深呼吸をし、もう一度マイクを握りなおす。


 「月の光が届かない地の底に眠るこの場所は地下闘技場! 法律? 人権? 善意? そんなものはここには存在しない! 一方が生き残り、一方が死ぬ、恐怖、刺激、快楽、この夜を明かすのに相応しいものをお届けしましょう、さあ! ショーの幕開けだ!」


 歓声が響くと同時に、競技場中央の鉄の扉が開かれる。


 鎖に繋がれて、ボロ布を被せられた人が十人ほど出てくる、深い傷はないものの、切り傷や痣が体の至る所に見受けられる。


 ピエロ達が一人一人の鎖を外す。


 「皆様にご報告があります、今回、この地下闘技場の情報が外部に漏洩致しました」


 辺りからからざわめき声が響き渡る、中には焦る者、怒る者、冷静な者など様々だ。


 「ですがご安心ください、その情報が広まる前に紛れ込んだ鼠達は全て捕獲いたしました、私はこの鼠達に感謝をしているのです、何故ならこのショーをより盛り上げてくれる役者となってくれたのですから!」


 「まさか‥‥‥」


 ルディア騎士長に緊張が走る、目を見開き布を被った人々に視線を向ける。


 ピエロ達が去ると同時に鉄の扉が閉ざされる、それを合図に自分達で被せられた布を取り外し、素顔が露わになる。


 「あの人達は一体‥‥‥」


 「‥‥‥私の部下だ」


 「!」


 ルディア騎士長は腕を組み足を揺らす。


 「今まではただ寄せ集めた元傭兵や奴隷でしたが、今回は違います、何と彼らはバル=ゼノ砂漠国境を警備する現役の騎士達です!」


 再び歓声が響き空気が振動する。


 ここに集う者達は皆刺激を求めるために貴族という立場を一時的に捨てている、現役の騎士達の強さは貴族達が身を持って知っているが、彼らにとって今目に映る騎士達は、娯楽の道具でしかないのだ。


 「な‥‥‥!?」


 俺とリリアは驚きを隠せない、そして、これから始まるであろう悲劇が脳裏に浮かび上がる。


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