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Deceptive Love  作者: 緋色
第一章:ローデン編
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第五話:静寂の教室②


 さあ、後がなくなった。


 リリアは授業が終わる直前まで帰ってこないだろう、残り15分‥‥‥我々もかなり限界だ。


 ちらっと視界の端に茶色い頭が見える、ルビリスだ、机の下でしきりに手を動かしている。


 何してんだあいつ‥‥‥?


 よく見てみると紙コップだ、紙コップに何かを書いている。


 「よし‥‥‥ウィンド‥‥‥」


 ボソッと呟き、風魔法で器用に紙コップを、電子黒板にひたすら文字を書き続けるチューベリー先生の頭上へと運んでいく。


 カポッ


 面白すぎる音と共に、面白すぎる光景が広がる。


 あの女まじか‥‥‥! まじでやばい、本当の本当にギリギリだ。


 「とまあこんな感じかしらね、さあ皆んな書き写してちょうだい」


 怪物が振り向いた瞬間。


 「ブフォ‥‥‥! ハッハッハッハッハッハ!!!」


 後ろから甲高い笑い声が響く、ニグラスだ、なんと紙コップにはチューベリー先生そっくりな無駄に上手い似顔絵が絵描かれていたのだ。


 「あらら、ニグラスちゃぁん、どうしたのそんなに大きな声をだしてぇ」


 どす黒い声が彼に降りかかる。


 「ハハハハハッ! いやこれはフッヒッヒッヒ! あいつが‥‥‥!」


 「スリープ」


 ニグラスはその場に倒れ込んでしまった。


 敗北者に発言権はない、そう、死人に口なしなのだ。


 「もぉう、授業中なのに何をふざけているのかしらぁ」


 軽々と彼を片手で持ち上げると脇で抱え、そのまま授業を続行する。


 やばいやばいやばい、てかなんで気づかないんだよ。


 誰もルビリスのやった行いについて口を出さない、なぜならそんな余裕がないからだ。


 少しでも口を開いてしまえば、あの脇に抱えられている惨めで哀れな男と同じ結末を迎えてしまうのだ。


 後二、三分‥‥‥耐えろ‥‥‥!


 「プフッ、フフッ‥‥‥」


 この声はまさか、スウィーピアさん? 嘘だろ!?


 「プーーーーーーーー!」


 声が漏れてしまった。


 「あらぁ、まだふざけている子がいるのぉねぇ、誰かしらぁ?」


 考えろ、考えろ! ここでスウィーピアさんにあんな屈辱を受けて欲しくない!


 くっ‥‥‥背に腹は変えられない! ここは俺が罪を代わりに被り、失われた信頼度を取り戻す!


 ‥‥‥待てよ? 俺も、スウィーピアさんも助かる方法があるじゃないか!


 俺はこの人生において最も美しく優雅にそして可憐に右手を上げた。


 十年以上教師を務めたチューベリー先生はその光景に、まるで、荒れ果てた大地に一輪の美しい花がこの青い空へ向けて蕾を開いたかのような錯覚を受けた。

  

 「Oh My God‥‥‥」


そして俺は口を開く。


 「申し訳ありません、俺の下半身が双剣術(ディアマクス)を発動しました」


 「‥‥‥???」


 静寂が帰ってくる、騎士科以外の皆はこれを聞いても何を言っているのか全く理解できず思考が止まるだろう、そして騎士科はリリア以外は男、つまりあの時の光景は他の男子にとって笑えるところなどなく、残酷な場面だったのだ。


 そして、一人だけ例外がいる。


 「ブフフッ、アッハッハッハッハッハッハ! ねぇ! ちょっブフォ‥‥‥イッヒッヒ! それはずるいって! アッハッハッハ!」


 ルビリスだ。


 「あらぁ、どうしたのルビリスちゃぁん、なんか面白いところあったぁ?」


 チューベリー先生の注意がルビリスの方へ向く。


 今だ‥‥‥!


 「ルビリスは先生の頭の上にブサイクな顔が描かれた紙コップを乗っけて一人で遊んでました!」


 チューベリー先生は空いている方の手で自分の頭へ手を伸ばし紙コップを手に取る。


 それを数秒見つめると握りつぶした。


 「あらぁルビリスちゃぁん、授業中にこんな悪いことしてたのぉねぇ、これは後で少しお話ししないとねぇ」


 ルビリスに微笑みかける、だがその笑顔の裏側には到底抑えきれないような怒りが存在していると言うことを誰もが理解していた。


 「ひぃ!? 違います! これには深い訳が‥‥‥」


 「スリープ」


 ルビリスは床に倒れ込む。


 キーンコーンカーンコーン


 「ゼニウムちゃぁん、よく教えてくれたわねぇ、これに免じてさっきの意味わからない発言は聞かなかったことにしてあげるわぁん」


 勝った! 計画通りだ!


 自分は怒られず、スウィーピアさんを庇い信頼度もアップ、あの諸悪の根源(ルビリス)を倒すことにも成功したんだ、これはもはや英雄、いや大英雄と自称してもいいだろう!

 

 このように浮かれていると。


 「そういえばぁ、さっき握りつぶしちゃったけどぉ、あの紙コップに描かれた私の似顔絵すごく上手だったわよねぇ? ゼニウムちゃぁん」


 急に何を言い出すかと思えば。


 「そうですね、ものすごくそっくりでした! 彼女にあんな才能があるなんて驚きです」


 ここはとりあえず話を合わせておこう。


 「そうよねぇ、とても私にそっくりだったわよねぇ‥‥‥でもあなたさっき()()()()()()()()()()()って言ったわよねぇ」


 「あ」


 全身に悪寒が走る。


 自分の最大の過ちに気づいた時にはもう遅かった。


 「いやそれはその‥‥‥!」


 「スリープ」


 俺の意識はそこで途絶えた。


 チューベリー先生は軽々ニグラスと同じように二人を持ち上げ、肩に担ぐ。


 「週末を挟んだらぁ、次の日はダンジョン探検よぉん、今回行くのはここローデンから見て南西にある()()()()()()()()ってところよん。いくら騎士の人たちやレイナ先生が護衛をしてくれるからと言って、舐めてたら死ぬわぁん。ちゃんとそういうところを意識しておくのよぉん、少し伸びちゃったけど、今日の授業はここまで」

 

 この日の放課後、俺とニグラスとルビリスはアンデットのように痩せこけた姿で発見された。


次回からはダンジョン探検!

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