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Deceptive Love  作者: 緋色
第三章:ベルトリオン編
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第四十七話:愚物


 神々の執行者!?


 俺はその言葉を聞いた瞬間腰の剣に手をかける。


 「おっと、そう先走らないでください、ここは人が多いですからそんなものを振り回したら危ないですよ」


 「くっ」


 この女の言うことは正しい、もしここで戦えば大勢の一般人を巻き込むことになる、だがこれは実質的に人質を取られているようなものだ。


 「我々への印象は最悪だと思いますが、皆が皆あの女と同じというわけではありません、私は少しだけ貴方とお話がしたいのです」


 殺意は感じられない、そして嘘を言っているようにも見えない。


 そしてこの女は俺の横を通り過ぎ、手に持っていた杖を立てかけそのまま先程のベンチに腰掛ける。


 「さあこちらへ、座っていた方が落ち着きますよ」


 その言葉につられ、少し距離を離して同様に俺も腰を掛ける、だが警戒は解いていない、いつでも剣を抜ける準備はしている。


 すると女は距離を詰め、俺の目を至近距離から覗く。


 「な‥‥‥!」


 「ふむふむ、肉眼では分かりませんね」


 ち、近い! 


 相手が執行者だと分かっていてもドキッとしてしまった、実際顔立ちは美しく歳は同じくらいだろうか、体もリリアと同じくらい良いものが付いている、近くで喋るたびに息が顔にかかりこそばゆい。


 「っ、で、話したいことって何だよ、てか何で俺のことを知ってる」


 「ああ! 失礼、私としたことがつい気になってしまって」


 女は血の滲んだスティッズを抱え上げ、膝の上で撫でる。


 「後者からお応えしますと、私は賭博エリアの統括をしていますから、スロットで大勝ちしたお客様のことは記録しています、まあ後は知人からの言伝、とでも言っておきますか」


 やっぱり、リリアの言っていた女性はこの人のことか、リリアのスキルを見破った上でポーカーに勝利した人‥‥‥。


 リリアが言うには何かスキルを使っているようだが、俺のスキルを通しては確認することはできない。


 「そして本題の前者ですが、貴方のその目、どこまで見えていますか?」


 「目?」


 天啓の瞳(オラクル・アイ)、おそらくこの女が付けているモノクルは鑑定系の魔道具で、リリアの時もそれを用いてスキルを暴いたのだろう。


 「どこまでって言われても、相手の名前、レベル、称号、スキルとか」


 「おや、そうですか、どうやらあの男が言っていたことは杞憂だったようですね」


 「他にも、相手の身長や体重、バストサイズ、最近はホクロの数や」


 「それ以上はもう良いですよ、気持ち悪いので」


 嫌悪したのか少し苦笑いをする。


 神々の執行者にすら引かれてしまった。


 「私の用件は以上ですが、貴方も何か聞きたいことがありそうですね、私も質問にお応えしてくださいましたし、ここは平等に貴方のご質問にも一つだけお答えしましょう」


 俺はその言葉に反応した、相手は神々の執行者本人だ、おそらく俺たちが疑問に思っていることのほとんどを知っているだろう。


 「何でもいいのか?」


 「ええ、何でも構いません、我々執行者のこと、魔王達のこと、大英雄達のこと、ああお望みならば私個人のことでも良いですよ? ですがお答えできるのは一つだけです」


 再び至近距離まで顔が迫る、正直聞きたいことは山ほどあるが、それ以前に先程の言葉が俺の頭から離れない。


 「その人形が人間って、どういうことだよ」


 意外な質問だったのか、少し驚いた表情を浮かべ、そして膝の上に乗ったスティッズの顔を見つめる。


 「ああこれですか、言ったままの意味ですよ、人間の子供から作ったんです」


 「は? だからどういうことだよ」


 俺は頭の整理が追いつかない、その血が滲んだ人形が人間の子供? 


 「これは私の()()なのですが、一方に自らの幸せを望む者、もう一方に他者の幸せを望む者、この二名を合わせた時、その肉体、或いは魂に刻まれた技術、魔法、スキルは受け継がれるのか」


 この女の表情は常に笑顔だ、あたかも普通のことを言っているかのような雰囲気、それが俺の脳を酷く狂わせる。


 「合わせる? だから、いや、意味が、分からない‥‥‥」


 「そんなに難しいことを言ったつもりはないのですが、ですからこの人形、もといスティッズは二名の子供を無理やり縫いつけて作ったんです、ああ、ちゃんと生きていますよ」


 と言うと、女性はスティッズを地面へと下ろして立ち上がる。


 「では私は色々と準備がありますのでここで失礼いたします、ぜひこの都市では己の欲に従い存分に楽しんでください」


 そのまま人混みの中へと消えていく。


 気配が消えたその瞬間、俺はまるで眠りから目覚めたかのような感覚に陥る。


 振り向いた時にはあの女の姿はなかった。


 何で俺はあのまま行かせたんだ? 止めることは出来なくても尾行することはできたはずなのに、この違和感、リリアの言っていたのはこういうことか! まるでこういう結果が最初から定められていたかのような‥‥‥


 今は皆んなや騎士長にこのことを知らせないと!


  ◇◇◇◇◇◇◇


 「ふんふふふ〜ん♪」


 「ご機嫌だな」


 賭博エリアの地下通路、裏社会への入り口でもあるこの場所は、薄暗い電球が点滅しており、壁には錆びたパイプが血管のように広がっている。


 「先日例の男の子と少し会話をしてきましたが、障害にはなり得なそうです、そして何より私は彼のことを個人的に気に入りました」


 「そうか」


 ピエロの仮面を被った男は、普段通りその女性に付き従う。


 「まあそう焦らないでください、これが終われば契約通り貴方の娘も目覚めるでしょう」


 「‥‥‥」


 男は何も言わない、仮面はその男の表情を隠蔽している。


 「例のネズミ達の捕獲は完遂しましたか?」


 「ああ、全員生捕にしてある」


 「流石です、どうやら序章までには間に合いそうですね、貴族の方々への招待状は無事行き届いたようですし」


 「騎士長が一人、ここベルトリオンに来ている、わざわざ獣を呼び寄せて良かったのか?」


 女性の足が止まり、男の方へと向きを変える。


 「もちろんですとも、私と正反対の運命を歩む、そんな彼女に私は嫉妬しているのですよ」


 邪悪な笑み、そしてそこから溢れ出す殺意がこの空間にこだまする。


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