第四十四話:血縁
「ごめんねリリアちゃん、女の子がこのお店に来るなんて久しぶりだからさ〜」
リリア、ニグラス、ルビリスは席へと案内される。
俺は床だ。
ニグラスとルビリスに一矢報いたが、ルビリスに足を凍らされバランスを崩し、ニグラスに剣の面で頭をぶっ叩かれそのままノックアウトした、つまり秒殺された。
「このお店は‥‥‥」
「見たまんまのお店だよ、夢を追い求める人々にひと時の幸せを届ける場所だ」
メイド服を着たサキュバスはさまざまなご馳走を机の上に並べてくれる。
俺は床で縛られているので机の上がギリギリ見えない。
「にしても案内なしでよくここまで来れたね、この周囲には結界が張られているから私たちのようなサキュバスの一種や紹介状を持っている人じゃないとたどり着けないんはずなんだけど」
サキュバスはルビリスの隣に腰を下ろす、ルビリスは圧倒的なボディを前に目を見開いて絶句していた。
「結構うめぇなこれ、お前らも食ってみろよ」
二グラスは何の躊躇いもなく、目の前に並んだご馳走に手をつけていく。
「ちょっ、ニグラス、そんな無防備に食べていいものなの? ほら、こう言うお店だから、その、色々入ってるかもよ」
リリアは食に手をつけるのを躊躇している。
「大丈夫だよ、これは普通の料理だから遠慮なく食べて」
空腹に限界を感じてたのもあってか、そのセリフを聞いた瞬間ご飯へ飛びついた。
「た、頼む、誰か俺にお恵みを」
俺は手を使えない、そして目の前で美味しそうな食事を頬張る二人を見て俺の理性は崩壊寸前だった。
「いいよ、今お皿に装ってあげる」
リリア! ありがとうリリア! 天使! マジ最高!
さっきは悪いことをしてしまったが、もう許してくれるとは何て寛大な心の持ち主なんだ。
「はい、どうぞ」
俺の目の前に小皿を置いてくれた、俺はまるで餌を欲している犬のように目を輝かせその皿に乗せられているものを見た。
「‥‥‥これは?」
皿の上には謎の枝のようなものが数本乗っていた。
「果物のヘタだよ、お腹空いてるでしょ? ほら食べなよ」
リリアの顔は笑っていたが、その裏に溢れ出す殺意を俺は見逃さなかった。
「君は食べないの?」
サキュバスはルビリスに問いかける。
ルビリスはご馳走をただ真剣に眺めているだけだった。
「ちょっと気になってることがあって、聞いてもいい?」
「もちろん、私に答えられることならね」
ルビリスは軽く息を吸った。
「お姉さん達ってナグルヴェイン峡谷に行ったことある?」
唐突な質問に驚いた表情を浮かべるがすぐに返答する。
「ここにいる子達はないと思うけど、どうして?」
「なんか、ここの魔力もあそこの魔力も私に似てるなーって」
サキュバスは自分の口に手を当て、ルビリス体を詮索するように眺める。
「‥‥‥なるほどね、多分ルビリスちゃんには私たちサキュバスの血が流れてるのかもね、本当に僅かだけど」
ルビリスは目を見開き驚いた表情を浮かべるが、何かを察したのかすぐに真剣な顔に戻る。
「嘘だ」
「どうして?」
「本当にサキュバスの血を引いてるならお姉さんみたいな体つきになってるはずだもん」
ルビリスは眼前に広がる胸をガン見する。
「そ、それは‥‥‥」
サキュバスは困ったように頭を指で掻き始める。
「確かに血を引いてたら体つきは良くなる傾向があるけど、絶対じゃないよ? それにルビリスちゃんに流れる血は本当に僅かだからほとんど関係ないかな」
「じゃあリリアは濃い血を引いてるってこと?」
ルビリスはリリアの方へ鋭い目線を向ける。
その鋭い視線に気づき、リリアは驚いたように振り返る。
「わ、私!?」
「あの子は、ハーフノクシスだね、エルフの一種だから関係ないかな、あの肉体は遺伝だと思うよ」
サキュバスはそれを冷静に否定した、それを聞いたルビリスは血眼になった目でリリアをガン見する。
「え、えっと、なんかごめんねルビリス」
リリアは状況を掴めていないが、なんとなく罪悪感を感じたのかルビリスに謝った。
「コホン、話を戻すけどナグルヴェイン峡谷のことだったね、実はあそこにはサキュバス達の間で言い伝えられている伝承があるんだよ」
サキュバスはルビリスの頭を撫で、話し始める。
「遥か昔、私たちがまだ魔族と言われてた時代なんだけど、人間達と魔族との間で大きな戦争があったらしくてね、サキュバスの魔王があの辺りで一人の人間と戦ったんだよ」
魔王? 俺は果物のヘタを咥えながらその聞きなじみのある単語に反応した。
「あまりにも凄まじい戦いだったっぽくてね、その時の魔力がまだあの谷に残ってるんだよ」
夢で見た光景、谷底の遺跡に現れた吸血鬼の魔王、俺の頭の中で今まで奥で眠っていた疑問が一斉に目を覚ました。
「ちょっと待った! その話もっと詳しく! 魔王って何人いるんですか? その戦った人間ってどんな人ですか? そもそもその戦いって‥‥‥ホゲッ」
「うるさい」
俺はご機嫌斜めなリリアに頭を踏まれる。
「え、えーっと、本当に昔の話だから私も詳しくは知らないけど、魔王っていうのは各種族の王達のことだし、沢山いたと思うよ、そして私達の魔王と戦ったのは確か‥‥‥千年以上前の大公爵、だったかな、それ以上は私にも‥‥‥」
その言葉を聞いた瞬間様々な疑問が解消され、そしてさらに多くの疑問が浮かび上がる。
チューベリー先生やチタニスにスウィーピアさん、そしてお母さんが死んだ原因を作った黒幕、ようやく手がかりを見つけた! けど人間より長寿と言われるサキュバスでさえこれ以上のことを知らない。
となるとやっぱりレイナ先生、あの人は絶対何かを知っている、でもあの人は何故それを俺に教えてくれないのだろうか。




