第三十九話:遊戯
ベルトリオンは世界最大のギャンブル都市であり、その都市の約四十パーセントが賭博エリアで占められている。
この都市で最も人や金の流れが盛んな場所である一方、この都市で最も闇が深い場所でもある。
「よし! これで十ゴールドだ!」
俺達は借金返済を目指すべく、初めは一人金貨一枚で、各々のやり方で金貨を稼ぐ作戦だ。
俺は今スロットに挑戦している、今までの戦いのせいか、スキルのせいかは分からないが、最近色々なものがゆっくりに見えるようになってきた。
だがそのおかげでめちゃくちゃ早いスロットをある程度目で捉えることができる。
ニグラスはブラックジャックだ、あいつは普通に運が良く、さっきから二十一を出しまくっている。
リリアはというと、
「おい見ろよあれ、あの可愛い嬢ちゃんさっきから負け無しだぞ」
「まじかよ、しかも相手はプロのディーラーじゃねぇか」
声の賑やかな方へ目をやると、ドレス姿のリリアがポーカーを嗜んでいる。
その座り方や所作から妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「フルハウス」
周りから歓声が上がる。
「すげー! もう金貨二百枚だぞ!」
「不正してる様にも見えねぇしな、一体どうなってんだ?」
なるほど、リリアはスキルを使ってるのか、確かにリリアのスキルとトランプは相性が良い、自分の手札を後ろの観衆に見せない様に振る舞っているのがその証拠だ。
逆相因果で自分の手札と山札のカードを入れ替えている。
‥‥‥だけどそれって普通にイカサマじゃないか? バレたら普通にやばそうなんだが。
そしてルビリスはというと、
「ゼニー、お金なくなちゃったからまた貸してー」
負けまくっている。
「またかよお前、二分前に渡したばっかだろ、何でルーレットでそんなすぐに無くなるんだよ」
「当たると思ってオールインしたんだもん、しょうがないじゃん、次は絶対当てるからお金貸して!」
絶対貸しちゃいけない奴の言動のそれだ。
「‥‥‥断る」
「ケチウム」
「ケチウム言うな、お前に貸したってどうせ返ってこないんだから大人しく外のバーでジュースでも飲んでろ」
「ああ! またそうやって子供扱いした! ならこっちだって奥の手があるんですけどー」
ルビリスの雰囲気が変わる、俺の目の前にいるのは同級生だが精神年齢と肉体年齢が低いルビリスのはずだ、だが彼女の目は圧倒的強者、勝利を確信したと思わせるほどに鋭かった。
俺は身震いした、普段は感じないこの冷えついた空気、思わず息を呑む。
「へ、へぇ、一体何をしようと?」
恐る恐る口を開く、ここで怯んだらルビリスに負けたってことになる、それだけは避けたい。
その返答を待っていたのか、ルビリスが邪悪な笑顔と共に口を開く。
「泣き叫んで邪魔する、うぇええん! 同級生のドレス姿で発情して友達の目の前でズボンを急に脱ぎだした人が意地悪するー! ひどいよー!」
予想以下の幼稚な悪戯と、予想以上の誹謗中傷、それを聞きつけた周りの視線が一斉に俺に集中する。
ラブレターの内容を混んでる電車の中で朗読された時と同じくらい羞恥心が俺の中で芽生える。
「何でお前が知ってんだよ! 言ってることは間違ってないけど全部間違ってるわ!」
こいつやりやがった! このままだと俺が誤解される、下手したら普通に捕まる!
‥‥‥いや待てよ?
「すいません! ここに未成年者が紛れ込んでます! 店の外へ連れ出してください!」
「は、え?」
すると黒服の男が二名やってきて、ルビリスの手を掴み外へと引きずっていく。
「ちょっと待ってよ、私もう十八だって! 離しなさいよこの豚肉共‥‥‥ボヘェ!」
店の外へ放り投げられ、顔から地面にダイブした。
ようやく貧乏神が居なくなったか、あの貧相な体と子供用ドレスのおかげで助かったな。
俺は再びスロットを回し始める。
「あ、支配人! 大変です! 熟練のディーラーが先ほどからあの女性に連戦連敗中で‥‥‥」
二階から二つの人影が、人々の欲望を見下ろしている。
「ええ、すでに確認しております、まあ今回は相手が悪いですね、あのディーラーが負けるのも無理はありません」
席を立ち上がり階段を降り始める、一歩一歩段を降りるたびに木製の階段が軋む。
「あまり関わるのは避けたいですが、せっかくの機会ですし少しご挨拶をしておきますか」
「フラッシュ」
リリアの一声と共に再び歓声が上がる。
「もう六百ゴールドだぞ!」
「あの嬢ちゃんまじで何者だ?」
リリアの前には金貨の山がいくつも連なっている、光源に照らされより一層金貨の山が美しく輝いていた。
六百か〜、借金返済まで残り九千四百ゴールド、まだまだ道のりは長いけど一日でこれだけ取れれば十分かな、それに他の皆んなも頑張ってるだろうし焦る必要はないよね。
「今日はここまでにしておく」
その一言を聞き、ディーラーが驚きと絶望の表情を浮かべる、ディーラーは客を楽しませつつ、かつ一番重要なのは店の金を守ることだ、何年もディーラーを勤めてきた彼にとってこの結果は、プライドを患部なきまでに潰されたと同義だった。
リリアは金貨を袋に詰める準備をする。
「おや、もうお帰りになるのですか」
階段から二人の人物が降りてくる。
黒と白のメッシュが幾つも折り重なった髪色、赤いネクタイに黒いシルクハットを被り、片目には魔道具であろうモノクルをつけていた、見た目は同い年くらいの女性だが、男物の黒いスーツを着ており、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
もう一人は黒いスーツ姿のただの男性だろう、だが奇妙なピエロの仮面をつけている。
「あなたは‥‥‥?」
リリアはその異様な雰囲気に警戒しつつ尋ねる。
女性は被っていたシルクハットを胸へと抱えて丁寧にお辞儀をする。
「この賭博エリアの統括をしております、エミリー・パーカーと申します」
顔を上げ再びシルクハットを被り直す。
「ぜひ私とも一ゲームだけお相手願えませんか?」
帽子の影の下、鋭い目線がリリア顔を覗き込む。




