第三十七話:印象
「うわぁすごい綺麗、夜なのにこんなに明るいよ!」
飛空船の上から見渡せるこの都市は黄金の光を放ち続けている。
「そっか、今日は月に一度の大サーカスだっけ」
遠くでは花火がいくつも上がっており、この黒い空を彩っている。
リリアとルビリスはデッキから外を眺めている。
「オエッ‥‥‥吐く吐く、夕飯が全部無駄になってしまう‥‥‥」
俺は絶賛船酔い、こればっかはどうにもならないんだよな。
「もう後十分くらいで着陸だ、それまで辛抱しろよ」
ニグラスは俺の背中を摩ってくれている、やばい惚れちゃうかもしれない!
◇◇◇◇◇◇◇
「着いたぁぁぁぁ」
三日間の船旅、正直ダンジョンに潜った時よりも精神的にきつかった。
「まずは泊まれるホテルを探さないとな、そのチケットで行けんだろ?」
「公爵が言うには、出せば全てを解決するらしい」
にしてもだ、流石金と娯楽の街と呼ばれるだけある、周りの人々は皆んな指に馬鹿でかい宝石の指輪やネックレスをつけてるし、服装もスーツやドレスだ、対して俺らは、
「‥‥‥まずは服屋に行くか、これだと悪い意味で目立つし」
◇◇◇◇◇◇◇
「いらっしゃいませ」
俺たちは空いた口が塞がらない、ここまで来た道もそうだったが全部金ピカだ、ありとあらゆる装飾に金が使われているのだ、靴を脱いで歩いた方が良いのではないかと思うほどに。
「お、おいゼニウム、これ見たか?」
ニグラスが震えた声で商品棚を指さす。
「は!?」
この店に並ぶ服はどれも、ガルツェンの二十から三十倍の値段だった。
「高すぎだろ‥‥‥」
これ数着買えばキブシル騎士長の車弁償できるぞ? どうなってんだよ。
「ベルトリオンはこの国で最も物価が高いんですよ」
店員さんが慣れた様に説明してくれる。
「そもそもこの都市には資産家や貴族といったセレブの方々が殆どですので、それに見合う商品を店側も用意しなければなりません、見た目は他の都市にも販売されているものに似ていますが、各種魔法耐性や貴重な素材も使っておりますし、このほとんどを凄腕の職人が手がけているのでその分人件費もかかっているのです」
正直舐めていた、冷静に考えれば公爵レベルの人が招待される都市なのだから当たり前だ。
「うーん、買い物は諦めた方が良さそうかな‥‥‥」
「見て見てゼニーとニグっち! これ可愛くない?」
「ちょっとルビリス! 傷つけたら大変だから元の場所に戻して!」
ルビリスとリリアが駆け足で寄ってくる、ルビリスの手には高そうな宝石まみれのドレスが握られていた。
「あ」
ルビリスは引きずっていたドレスの裾を踏み、盛大に転んだ。
それと同時に布が破れる様な音が聞こえたのは気のせいだろうか。
「いてて、私の可愛いお鼻が潰れちゃうよ、ん?」
ドレスを持ち上げると案の定裾から腰あたりにかけてパックリ逝っていた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「お買い上げありがとうございます!」
店員は慣れた手つきでルビリスからドレスを取り去り、レジへと歩いていく。
「‥‥‥え、これって私のせい? 違うよね、だって、えっと、あ、この建物の床なんか少し歪んでるんだよ! 手抜き物件だ! このせいで転んじゃったんだからむしろ私に慰謝料払うべきでしょ!? お客様は神様だもん!」
床に座りながら駄々をこねる。
ゴミクズだなこいつ、これが共に死線を潜り抜けてきた仲間だと思うと悲しくなる。
とりあえず残りの二人と作戦会議だ。
「どうする‥‥‥」
「どうするも何も払えるお金なんてないよ、ただでさえ借金背負ってるのに」
「ルビリスを置いて全力で逃げるってのはどうだ?」
今の手持ちで金になりそうなのものは武器とこのチケットだけ。
「あ、良いこと思いついたよ!」
床に座り込んでいたルビリスが元気よく右手を上げる。
「そのチケット売っちゃおうよ! 公爵から貰ったもなんでしょ? きっと高く売れるよ、私って天才!」
どの面下げて言ってんだこいつ、だがそれくらいしか手段がない。
こうなるくらいならこのチケットをオークションに出せば良かった‥‥‥
俺は渋々レジへと向かう。
「すいません、これでどうにかなりませんか」
公爵から貰ったチケットを店員に差し出す。
「‥‥‥へ?」
店員さんの手が止まる。
くそ、やっぱチケット一枚じゃ弁償は無理か‥‥‥惜しいがここはルビリスの魔石を売るしか‥‥‥
「これはこれは失礼いたしました! まさかヴォルカニス公爵家の方々とは思いませんでした! 弁償代は必要ありません、お好きな服をお選びください、無償で提供いたします!」
急に頭を何度も下げ、破れたドレスをゴミ箱に投げ入れ、俺たちを商品棚の方へ誘導する。
「ふふふ、ようやく己自身の無礼さに気づいたかしら、まあ本当は極刑だけれど今回は許してあげるわ、このルビリス様の寛大な心に感謝しなさい!」
「感謝いたします、ルビリス様!」
こいつ切り替え早すぎだろ、ちなみに俺らはヴォルカニス公爵からチケットを貰ったってだけでただの一般人だ、おそらくあのチケットは特別なものだったのだろう。
◇◇◇◇◇◇◇
「お、これは中々良いのでは?」
「似合ってんじゃねぇか」
俺と二グラスは黒メインの紳士風のスーツに着替えた、想像よりも軽く動きやすい。
隣の試着室が開かれリリアが出てくる。
「ど、どうかなこれ、変じゃないかな」
品の高そうな純白のスリップドレス、金髪のリリアに配慮された青い造花の髪飾り、ドレスを着るのならこれもセットであろうハイヒール、目の前の彼女の雰囲気はまさに貴族の御令嬢、俺の想像を遥かに超えた。
リリアって結構胸あるよな、ていうか同級生のドレス姿か。
ゼニウムはリリアの全身を舐め回す様に観察する。
「き、聞いてる? やっぱちょっと変?」
リリアは少し顔を赤らめ、自らの細い手でドレスを隠そうとする素振りをし、落ち着きがない。
「リリア、アリだ」
「本当?」
安堵したのか、息を一気に吐き出す。
二グラスもそうだが服だけで結構印象変わるもんだな、リリアがこんなに可愛いとは思わなかった、どちらかといえばカッコいい印象だったし、いやーリリアも立派な女性なんだな。
さて、残りは‥‥‥
「ちょっと何で私だけお子ちゃま用の服しか用意されないわけ!? 私もリリアみたいなドレス着たいんですけど!」
「ですがルビリス様のお体の発達具合ですとこれしかサイズが合うものが‥‥‥」
「はぁ!? そんなのやってみないとわからないじゃない! それとも私の胸が小さいって言いたいの!? 不敬罪で訴えるわよ!」
「ひぃ! それだけはご勘弁を!」
まだまだ時間がかかりそうだ。
ドレスってものすごく種類があるんですね。




