第二十七話:ナグルヴェイン峡谷②
「グスッ‥‥‥グスッ‥‥‥」
「あーあルビリスを泣かせたー、ゼニウムひど〜い人でなし〜セクハラ〜」
「私めは何も後悔しておりません、むしろ清々しい気分です」
こいつを哀れに思ってしまった瞬間負けだ。
すると昇降機が止まった、深度計は四千八百メートルを示している。
「やっと着いたか、マジで足元見えないほど真っ暗だ、慎重に進もう、逸れたら終わりだ」
「寒いねここ‥‥‥」
「前回みたいに私が先頭行くよ」
リリアに続いて俺たちは昇降機を降りる。
地に足をつけた瞬間、気持ち悪い感触が足を伝う。
俺たちがライトで地面を照らすと、そこにはおそらく一週間前に調査に行ったっきり消息不明だった調査隊の遺体が無数に転がっていた。
「おい‥‥‥これって‥‥‥」
「うん‥‥‥」
そのほとんどが干からびているか、鎧だけになっている、共通していることは、死体の顔は恐怖で染まっており、全てが昇降機の方へ手を伸ばすように倒れているということだ。
何かから必死に逃げたが、間に合わなかったのが想像できた。
「死体か‥‥‥調査隊は全滅って事で良いよな?」
「ああ、どう見ても人間の所業じゃねぇな、唯一言えることは、前回のダンジョン同様やべぇ奴がいるって事だけだな」
「少し高いところの岩肌にいい感じの凹みがあるから、そこにテントを張って仮拠点にしよ」
リリアの言う通りに俺たちはテントを張って火を起こし、荷物の整理などをした。
◇◇◇◇◇◇◇
「でけぇ穴が空いてんな、巨大な洞窟ってこれのことか」
仮拠点から少し移動した岩肌に崩落のせいか穴が開いており、その下には巨大な洞窟が広がっていた。
調査隊が設置したのであろう梯子を使い、洞窟へと降りる。
「一見ただの洞窟だけど、建造物ってどこかな」
「とりあえずまっすぐ進もう」
闇の中を四人は進んでいく。
しばらく進むと、暗い通路の先に光が見えた。
「見てあそこ! なんか凄い明るいよ!」
ルビリスの声と共にそこへ向かうと、俺たちはそこで見たものに言葉を失った。
そこには想像を絶するような広い空間が広がっており、無数の建造物が生えていた。
そこら中に生える様々な色の発光するクリスタルが、遥か昔に栄えたのであろうこの都市の全てを照らし、岩肌からは幾つもの地下水が流れ出しており、この空間全体がまるで御伽話に出てくるような幻想的なものに作り変えていた。
「‥‥‥綺麗」
「こんな深くに街があるなんて‥‥‥」
生き物気配はない。
「探索は明日にしよう、この広さだと下手したら数日かかる、一旦仮拠点へ戻ろう」
「怖くてビビっちゃったの?」
ニヤニヤしたルビリスが小馬鹿にしてくる。
無視しよう、これが最善の行為だ。
<<LOCATION:ヴァルムント帝国-要塞都市ガルツェン>>
<<WEATHER:晴れ>>
「‥‥‥マジで言ってんのかロベリア」
「ああ、今さっき連絡が来た、ヴォルカニス公爵とアルヴェスト伯爵の乗った飛空戦艦が明日ここにご到着になられるらしい」
キブシル騎士長は大きなため息をつく。
「よりによってなんであの大公爵なんだ‥‥‥しかもアルヴェスト騎士長は帝都に帰ったばっかだろ、俺あのおっさんに会いたくねぇし、今からベルトリオンにでも行って一攫千金でも狙ってこようかな、お前も来るか?」
「我々で出迎えることを伝えてある」
「クソ‥‥‥抜かりねぇなぁお前は」
「騎士長だろう? 潔く腹を括れ」
「へいへーい」
◇◇◇◇◇◇◇
あれ、ここどこだ?
俺はリリア達と仮拠点に帰って明日に備えて寝ていたはずだ。
だが俺は今戦場に立っていた。
は? え? なんだよここ、しかも声が出ない!?
落ちている剣を拾おうとするが、触れることができない。
だがこの戦場は俺が知っているものとは異なっている、戦艦同士の砲撃や、魔導兵器を駆使した効率的な戦いではない、ここにいる数えきれない騎士達は、剣一本で、空や地を埋め尽くすほどの魔物の大群へとただ真っ直ぐに突っ込んでいく。
俺がその波へ飲み込まれると同時に景色が変わる。
いつの間にか、小さな丘へと俺は立っていた。
周りを見渡すと、黄金に光輝く鎧を来た百人にも満たないであろう騎士達が、横一列に並び前進している。
その騎士達の向かう先には数十万、いや数百万の魔物の群れが背を向け逃げ惑っており、その騎士達が通った後には、数えきれない程の魔物の残骸が、この大地を赤く染め上げていた。
また景色が変わり、今度は広い草原に立っていた。
そしてそこには金色の髪を持ち、光り輝く剣を握っている女性と、赤黒い角が生え、手に漆黒の闇を放つ槍を携えた魔族が立っていた。
次の瞬間、凄まじい轟音と共にあたり一帯が光で包まれた。
<<LOCATION:ナグルヴェイン峡谷>>
<<WEATHER:晴れ>>
「おーいゼニー、生きてるー?」
「こいつ自分から言っといて全然起きねぇじゃねぇか」
「あ、いいこと思いついた!」
‥‥‥なんか匂いがする、なんだろこれ。
‥‥‥待て、なんかめちゃくちゃ臭い!
「くっっっさ!」
俺は勢いよく体を起こし目を覚ました。
顔には、昨日魔物の粘液で汚れて臭くなった服が巻かれていた。
「くっさ! ちょっと、と、取れない!? 誰かああああ助けてくれー! 誰か‥‥‥」
あまりの臭さに意識を失う。
「おい、また寝ちまったぞ、やり直しか?」
「へへーん、昨日の仕返しだよー、ゼニーのザーコ」