第二十三話:騎士長
「入団早々に一時間遅刻とはいい度胸だなガキ」
「はあ? しょうがないでしょ、誰かさんの下手くそな運転のせいで疲れてたんだもん!」
ルビリスは遅刻してキブシル騎士長と喧嘩をしている。
「リリアもなんで起こしてくれなかったの!?」
挙げ句の果てにリリアにも飛び火が。
「起こそうとしたよ! でも布団剥がそうとしたら弱体化魔法打ってくるし蹴りもくらったからさ‥‥‥」
リリアが気の毒になってきた。
「まあいい、さっさと始めるか、各々訓練用の武器を取れ」
俺とニグラスは勿論剣だ、ルビリスは杖、リリアは‥‥‥
「あの、双剣ってあります?」
「あ? 嬢ちゃん双剣使いなのか、悪りぃ、何せ双剣使いがここに居なくてな、長剣二刀流じゃダメか?」
腕ぶっ壊れるだろ。
「あ、わかりました、じゃあ私もゼニウム達同様剣でやります」
「よし、やることの説明なんだが、自分よりレベルが100高い騎士と一騎討ちをしてもらう、学校でもよくやっただろう? 最初はゼニウムからだ」
周りにいる騎士の一人が動き出す。
なるほど、おれの相手はあの人か、レベルは約1600、熟練の騎士だ。
「始め!」
俺は相手に向かって突っ込む、向こうは出方をさらに伺っているのか、子供だからって舐めてるのかは知らないが動かない。
「剣術・月華一閃!」
剣同士がぶつかる。
防がれてしまったが、威力と速さが想像以上だったのか相手がバランスを崩した。
「そこだ!」
さらに一撃を相手の肩にお見舞いする。
「くっ」
「そこまで! やるじゃねぇか、まあ向こうが油断してたのもあったがお前の勝ちだ」
「よっしゃ!」
自分が確かに成長してるのを実感できた、確かに向こうは熟練の騎士だが、今まで戦ってきた化け物達の方がよっぽど強いし怖い。
◇◇◇◇◇◇◇
その後ニグラスとルビリスが戦った。
ニグラスは、相手が俺の試合を見て真剣になったのもあって苦戦したが、ちゃんと勝利していた。
ルビリスはというと‥‥‥惨敗だ、これまでに見たことないほどの惨敗、あまりにも弱すぎて相手の魔術師の人が拳で戦うとかいう意味のわからない構図だった。
俺のレベルは1562になっていて、ニグラスは1398でいつの間にか抜かしていた、別に歩んだ場の数も同じのはずなんだがなぜここまで差が空いたのだろう、ルビリスは1200、それでもその歳では高い方だ。
そして我らがリリアさんというと。
「次はリリアの嬢ちゃんか、普段使ってる武器じゃねぇから多少多めに見るつもりだ、だが一個問題があってな、嬢ちゃんレベルが高すぎてそのレベルより100高いとなると‥‥‥」
リリアさんのレベルはなんと2012、高ければ高いほどレベルは上がりにくいはずなのになぜ個人差がここまで出るんだろうか。
「私が相手をしましょう」
聞き覚えがある声が響く。
「‥‥‥まじ?」
思わず声が出てしまったのだ。
「ほう、わざわざロベリア騎士長様が刃を交えてくれるってよ、よかったな」
キブシル騎士長も驚いているようだ。
ロベリア騎士長は大きな弓を片手に位置へ着く。
「無理すんなよリリア」
「うん、大丈夫」
リリアも位置につく。
周りの訓練をしていた騎士達も腕を止めこの試合に注目をしている。
騎士長とはこの国の最高戦力であり英雄でもある、そんな人の戦いをこんな間近見れるなんて滅多にない。
「始め!」
両者とも動かず、互いに出方を伺っている。
ロベリア騎士長に関しては弓に矢をつがえてすらいない。
「弓術」
「!」
ロベリア騎士長の声に反応しリリアが動く、矢を放つ前に仕留めるつもりだ。
だが弓に矢をつがえる速度は俺たちの想像の遥か上を行った。
「貫穿の矢」
とてもつもないほどの速度の矢が放たれる。
リリアはそれを寸前で躱すが、頬に掠る。
そのまま斬り掛かるが、ロベリア騎士長は空高くへと飛び上がりそれを躱す。
「弓術・飛燕連」
矢の雨がリリアに降り注ぐ。
「剣術・飛燕斬!」
降り注ぐ矢の雨を全て切り落とす。
「‥‥‥まじかよ」
俺やニグラスは言葉を失っていた。
そのままリリアは空中へ飛び上がり剣を振るう。
「剣術・月華一閃!」
その技は、俺が先程の試合で放ったものよりも速く、美しかった。
ロベリア騎士長は弓で受ける。
「くっ、あなた本当に双剣使いですか?」
リリアの剣はそのままロベリア騎士長の弓を斬り落とした。
「な!?」
弓が地面へと落下すると同時に両者も地面へと着地する。
「はああああ!」
リリアは追撃の手を緩めない。
「まじかよリリア、これ騎士長に勝っちまうんじゃねえの?」
「行けーリリア!」
行ける‥‥‥!
「‥‥‥弓術」
「! そこまで!」
突然キブシル騎士長の声がかかり、両者が止まる。
「ロベリア、お前が熱くなるなんてらしくねぇな」
「‥‥‥すまない」
「リリアー!」
ルビリスがリリアの側による。
「すごいじゃんリリア! あの騎士長を追い詰めるなんて! しかも剣術もゼニーとかよりも断然凄かったよ!」
く、否めない、だがルビリスの言う通りあの騎士長とあそこまで渡り合えるなんて。
「いや、あのまま試合が継続してたら多分負けてたというか、死んでたかも」
「え?」
「すまないリリア、こんな半端な終わり方になってしまって」
ロベリア騎士長が申し訳なさそうに言う。
「まあ何が共あれ、今回の試合は嬢ちゃんの勝ちだ、誇っていいぜ」
周りから歓声が響きく。
見ていた騎士達もリリアの技には関心を置くところがあったのだろう。
ロベリア騎士長に関しては頬を膨らませて納得のいかないご様子だった、なんかかわいい。
「よし、お前らの実力もわかったことだし初任務をやるから耳かっぽじってよく聞け」
俺たちはキブシル騎士長の方へ向き直る。
「喜べ、お前達にはナグルヴェイン峡谷に潜ってもらう!」
どこだっけそれ。
騎士長の真の実力は!?