第十九話:約束
次回が一章の最終話!
白衣の男が去ってから程なくして、多数の装甲車が学園に突入し、中から重装備の騎士達が降りてきた。
彼らはすぐに怪物達を鎮圧し、生存者の発見、負傷者の手当などを行っている。
「ニグラス、リリア、ルビリス、チタニス、皆んな無事で居てくれ‥‥‥!」
俺は廊下を駆け回り、皆んなを探す。
すると、荒れ果てた教室から声がした。
「グスッ‥‥‥グスッ‥‥‥ごめんなさい‥‥‥ごめんなさい‥‥‥!」
「リリア!」
教室の片隅でリリアがしゃがみ込んでいた。
「リリア! 良かった、無事だった、もう大丈夫だから」
生徒の中で一番強いリリアがこうなるのも無理はない、それほど凄惨なことが起きたんだ。
彼女の手には、俺が無くしたスウィーピアさんから貰ったペンダントがにぎられていた。
「あれ、それ俺が無くしてたペンダント、拾ってくれてたんだ! ありがとう!」
「グスッ‥‥‥え? あ、これは、うん、はいこれ‥‥‥」
弱々しく俺に手渡す。
そのペンダントには傷どころか、汚れすら付いていなかった。
「とりあえず外へ行こう、みんなもきっと居るはずだから」
「‥‥‥うん」
◇◇◇◇◇◇◇
「ん? あー! リリアー! ゼニー! 良かった、無事だったんだ!」
校庭へ出ると、多くの生徒と騎士団で溢れかえっており、レイナ先生、ニグラス、ルビリスの姿を確認出来た。
「そっちも無事で良かった! あれ、チタニスは? また取材班に向かって超喋ってるの?」
三人の顔から笑顔が消え、レイナ先生が口を開く。
「ルビリスくんは‥‥‥ごめん、間に合わなかった‥‥‥」
「っ‥‥‥!?」
俺の中で、再び何かが崩れ落ちそうになった。
俺は自分の両頬を全力で引っ叩いた。
「うわ! びっくりした!」
ルビリスがニグラスの後ろへ隠れる。
「あ、ごめん、でも大丈夫」
スウィーピアさんにこれ以上情けない姿は見せられない!
レイナ先生が手を鳴らす。
「まあ、ここにいる皆んなが無事で本当に良かったよ、暫くは‥‥‥というか多分この学校はもう終わりかな〜、こんだけ荒れたし、多分現場検証とかもあると思うから、とりあえず特に怪我をしていない皆んなは帰宅していいよ〜」
「そうじゃん! 家が無事かどうか確認しないと! ね〜ニグっち〜怖いから一緒についてきてよ〜」
「ああ? そんくらい一人で行けよ、俺もお袋達が無事か心配なんだよ」
ルビリスはニグラスの腹に抱きつく。
「お願い〜後で私も一緒についてってあげるから〜」
「いらねぇよ! はぁ〜しゃーねぇなぁ」
あそこはいつからあんなに仲良くなったんだろう。
「私も一旦帰るね‥‥‥」
リリアもニグラスとルビリスの後に続きどこかへ行ってしまい、その場には俺とレイナ先生が残る。
「ゼニウムくん、さっきは冷たくあたってごめんね〜怖くて泣いちゃったでしょ〜」
「いや別に泣いてはいないですけど‥‥‥」
レイナ先生はいつもの声色に戻っており、雰囲気もさっきまでのがまるで嘘のように感じるほど穏やかになっていた。
「先生、色々聞きたいことが‥‥‥」
レイナ先生は絶対に今回の事件の裏を知っている、指輪や白衣の男、それに例の大公爵のこと。
「ごめんねゼニウム君、今回に関しては私の口からは何も言えない、本当にごめん」
「っ!?」
追求しようと思ったが、それが意味をなさないのは彼女の顔から感じ取れた。
「ほら、君も早くお家に帰りな〜きっと親御さんも心配してるよ」
「‥‥‥わかりました、先生もお気をつけて‥‥‥」
俺は学園を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇
電車が止まっていたため、俺は線路沿いを駆け足で移動していた。
怪物はもうほとんどが討伐されたらしい、移動中に騎士や軍用車両とすれ違う。
今思い返すと、今日は信じられないこと、認めたくないことが沢山あり、今でもこれは悪い夢だったと思っている。
遠くに見知った屋根が見えた。
あの路地を曲がれば愛しい我が家だ、またお母さんに心配かけちゃったな。
「ん?」
路地を曲がると一台の緊急医療車と、複数人の騎士が右往左往していた。
ご近所さんで怪我人が出たのかな、後でお母さんとお見舞いに行ってあげないと。
俺の家から一台の布を被されたカートが押されて出てきた。
「‥‥‥え?」
腕の力が抜け、俺は手荷物を地面に落とす。
俺にはその布の下にあるものが何であるかが見えていた。
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
俺はカートの側へと駆け寄り、騎士の人の静止を振り切って布を引っ張った。
そこには誰よりも大切な人の顔があった。
「うわああああああああ! お母さん! お母さあああん!」
引き離そうとした周りの騎士達は、全てを察し、手を止める。
「お願い! 目を開けて! お帰りって言ってくれよ!」
度重なる親しい人の死、いくら声をかけても反応はない。
絶対に守る、そう約束したのに、結局そう誓った相手は誰一人守れなかった。
自分の情けなさ、弱さに怒りが湧き上がってくるが、俺はもう立ち上がることはできないと確信していた。
心が完全に壊れていたからだ。
「よぉ坊主」
後ろから声がかかるが、俺には聞こえなかった。
「おい、聞いてんのか坊主、チッ、テメェ‥‥‥」
俺の方に手がかかる、と同時に俺の拳が背後の男の顔面に食らいついていた。
「ペッ、いいパンチじゃねえか!」
腕を掴まれ抜け出そうとするもびくともしなかった。
「いつまでそんなしけたツラしてるつもりだ、男ならシャキッとしろ」
怒りが頂点に達した。
何も知らないくせに‥‥‥偉そうに‥‥‥!
「うるせぇ!」
俺はもう一つの拳で殴りかかるが、この髭面の男は避けなかった。
再び拳が顔面に食らいつく。
「‥‥‥親しい人間が殺されて辛いか? 悔しいか? なら立て、死人は立たねぇが、お前は生きている」
俺の両足はいつの間にか地面を力強く踏みしめていた。
「泣くなとは言わねぇ、だがな、戦場では親しい奴の死なんて当たり前だ、こんなクソみてぇな世界を地獄と思うなら、お前は悪魔にでもなればいい、聞いたぜ? 立派な騎士になるんだろう? 復讐でも守るためでもなんでもいい、男なら根性見せろ!」
俺の怒りはいつの間にか収まっていた、そうだ、約束したんだ、騎士になるって‥‥‥!
俺は背筋を伸ばし、涙を堪えた。
「‥‥‥いい顔だ、お前、うちに来い」
「え?」
突然の提案に思考が止まる。
「もちろん拒否権はねぇ、こんな逸材ここでくたばって貰っちゃ困る、ああ自己紹介がまだだったな、キブシル・ヴォルツェンだ、騎士長をやってる、巷じゃ疾風の子爵って呼ばれてる」
渋くて強いおじさんってカッコいいですよね。