第十七話:愛
「これで‥‥‥‥三十八体目‥‥‥!」
チューベリー先生、ニグラス、ルビリスの三人は、学園内に蔓延る怪物を狩り続けていた。
だが一向に減る気配はない。
「私が見た感じは少なくとも学園内には百体以上いるわぁん、いったいどこから湧いたのかしら、しかもレイナ先生がいないこのタイミングでねぇ」
「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥ゴホッ‥‥‥」
ルビリスの顔からは、汗が滝のようにこぼれ落ちていた。
ニグラスも体は鉛のように感じていた。
クソ、もう体が悲鳴をあげていやがる! ルビリスのやつももう魔力が限界か。
ニグラスはチューベリー先生の顔を見つめる。
彼女は体にかすり傷はあるが、汗ひとつかいていなかった。
「あらら何かしらニグラスちゃぁん、私の顔をそんなに見つめて、私の顔が可愛いのはわかるけどぉん、あんまジロジロ見られるのは恥ずかしいわぁん」
「一人で二十体以上倒しといて汗一つかかねぇなんてな、レイナ先生もそうだが、あんたも大概化け物だな」
「レディに向かって化け物呼ばわりなんて失礼しちゃうわぁ」
ふざけているようだが、彼女の目は常に辺りを警戒していた。
彼女は俺たちと周りを見渡しこう告げる。
「申し訳ないけど、あなた達はここまでのようねぇ、よく頑張ったわ、みんながいる避難シェルターに案内するから、もう休みなさい」
突然の発言に動揺する。
「ああ!? ‥‥‥俺はまだ戦えるぞ!」
「私‥‥‥も、後五回、いや十回は打ってみせる‥‥‥!」
チューベリー先生は二人の肩に大きな手を乗せる。
「もう一度言うけど、あなた達は本当によくやったわぁん、でもあなた達が本当に頑張るべき場所はここではないのよ、先生っていうのはね、貴方達生徒に出来るだけ将来の選択肢を作ってあげる義務があるのよぉん、今ここで大事な生徒に、その選択肢を失って欲しくないの。」
「先生‥‥‥」
突如、地響きと共に十数体の怪物達が一斉に廊下の奥から押し寄せてきた。
「もぉう、大事なお話の最中に割り込んでくるなぁんて、空気が読めないわねぇ、避難シェルターまではここからそう遠くないわぁん、着いてきて!」
三人は一斉に反対側へと走り出す。
「あ‥‥‥!」
ルビリスが、疲労で自分の足を支えられずその場に倒れる。
「ルビリス!?」
ニグラスが向かおうとするも、足に力が入らない。
チューベリー先生が急いで彼女と怪物達の間へと割り込み、彼女を抱える。
それと同時に先頭にいた怪物の剣がチューベリー先生の背中を斬りつけ、血が飛び散る。
「くっ、痛ったいわねぇ〜」
「先生!」
チューベリーはその怪物に後ろ蹴りをかまし、後続の怪物達の方へ吹き飛ばす。
そのまま走りだし、通りすがりにニグラスも脇へと抱える。
「うおっ!?」
「一回経験したことあるかもしれないけど、しっかり捕まってるのよぉん!」
チューベリーは凄まじい速度で廊下をひたすら駆ける。
前方からも数体の怪物が彼女へと斬り掛かる。
彼女はその巨体で、抱える二人を覆い、ひたすら前へと突っ込んでいく。
無数の傷が彼女の体へと刻み込まれていく。
「先生! 離してください! このままじゃ先生が!」
「俺も降ろせ! 数体くらいなら惹きつけられる!」
だが抱える腕の力はより強くなったのを感じた。
「これくらい何も問題ないわ! そのまま大人しくしてなさい!」
その間にも、斬撃は彼女の体へと降り注いでいく。
次第に速度が落ちていき、後方からくる怪物達との距離が縮まっていく。
「うぅ‥‥‥先生ぃ」
「クソ‥‥‥! 早く離せ!」
遠くに堅牢に閉ざされた避難シェルターの扉が見えた。
彼女の声が急に穏やかになる。
「いいかしら二人とも、私はこんな見た目だから生徒達から怖がられてるし、私は不器用だから授業の教え方や生徒達への接し方も他の先生より劣るわん、でもね‥‥‥」
彼女の走る速度が再び上がる。
「生徒を思う愛は! 誰にも負けないのよ!!!」
抱えている二人を上へと持ち上げる。
「二人とも耳を塞ぎなさい!」
彼女は顔につけている黒くてゴツいマスクを取り外す。
「ドアを開けなさあああああい!!!!!!!」
今まで聞いたことのないほどの大声を放つと、遠くの避難シェルターの扉が少しずつ開き始めた。
そして、そこ目掛けて二人を投げ飛ばす。
二人は前方からも押し寄せる怪物達の頭上を通り抜け、開きかけのドアの隙間へと放り込まれた。
「閉めなさい!!!!!」
再び声が響く。
「おい! 待て!」
ニグラスが急いで立ち上がりそれを止めようとするが、体が思うように思わない。
閉まりかかる扉の隙間から彼女の顔が見えた。
マスクを取った初めて見る彼女の素顔は‥‥‥誰よりも優しく笑っていた。
ドアが閉まる。
ニグラスは急いでドアの側へと近づく。
「はぁはぁ‥‥‥おい! 開けろ! まだ先生が外にいるんだよ! さっさとドアを開けろ!!」
鉄の扉をひたすら殴る彼に怯えながら生徒の一人が答える。
「いや‥‥‥でも今ドアを開けたら‥‥‥すぐ外にいる怪物達が‥‥‥」
「‥‥‥!? クソがぁ!!!」
ドアを全力で蹴飛ばす、だがビクもしない。
分かってる、分かってはいんだよ‥‥‥! だけどなぁ‥‥‥!
「グスッ‥‥‥グスッ‥‥‥チューベリー先生‥‥‥」
ルビリスは床で踞りひたすら彼女の名前を呼んでいた。
「チッ‥‥‥」
ニグラスはルビリスの側へと座り込み、彼女の頭を優しく撫でた。
自分が書いた中で一番いい話だと自負してます。
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