第十二話:ネフィリムの墳墓⑥
「ゼニウム‥‥‥!」
彼の顔に明かりが灯る。
「おいおい、クラスのリーダーともあろう奴がなんつうツラしてんだ」
「えー本当だ! カメラ持ってくればよかったー!
「よかった! チタニスもスウィーピアも無事みたい!」
「みんな‥‥‥!」
彼に再び勇気が戻ってくる。
「安心してるところ悪いんだけどさ、逃げろ!」
「え?」
背後の壁が吹き飛び、至高なる存在が姿を現す。
「おいおいマジかよ‥‥‥!」
全員一目散に奥へと走り出す。
「スウィーピア!」
リリアが座り込んでいる彼女を見て叫ぶ。
「ごめんなさい、足がすくんで‥‥‥」
彼女の元へ駆け寄ろうとするがニグラスに止められる。
「ここはあいつに花を持たせるべきだろ?」
俺は今までで無いほどに力が湧いていた。
この瞬間、このタイミング、このシチュエーション、ここで動かなくていつ動く?
ここで彼女を助ければ俺に惚れるに違いない!
そして合法的にボディタッチもできる!
俺はスウィーピアさんの元へ駆け寄り体を抱え走り出す。
人一人抱えているのに、自分でも驚くほどの速度が出ており、うっすらと香水のいい匂いが鼻の奥に流れてくる。
「うわぁ、あ、あの‥‥‥! あ、ありがとうございます!」
「いえいえ友達として当然のことです、できれば友達という呼称よりももう一歩奥へと行きたいんですけどね、えへへ」
自分でも言っててキモすぎた。
赤い雫が大広間中央の肉塊に落ちる。
一瞬にしてその肉塊は赤黒い煙を上げながら消えて無くなった。
「あれに当たったら即死だね、他の人たちはどこ行ったんだろう」
「宝物庫に全員避難しているらしい、ていうかアレをそこまで連れていくつもりか!?」
さらに長い階段を駆け降りる。
「俺たちに策があるんだ、ルビリス、こっちであってるんだろうな!」
「うん! 一回探知してるからあの魔力はもう忘れないよ! ていうか向こうもすごい速度でこっちへ向かってきてる!」
「よし、いいか? チャンスは一度きりだ、あいつらが戦ってる隙に一気に地上へと向かう! スウィーピアさんはしっかり捕まっててください!」
「は、はい!」
目の前に巨大な十字路広がり、そして正面から膨大な魔力が近づいてくるのを感じる。
「右だ!」
俺たちは右へと曲がり立ち止まる。
「はぁはぁ‥‥‥タイミングは完璧なはずだ、後はいい感じにあの二体が争ってくれれば‥‥‥」
あの呪われた騎士が姿を現すと同時に、追ってきた赤い怪物も十字路へとたどり着く。
俺たちは息を呑み込む。
騎士があの黒剣の鍔に指をかけた瞬間、とてつもないほどのエネルギーの圧が俺たちを押しつぶす。
「なんだ‥‥‥この魔力は‥‥‥!」
騎士が剣を抜く、だがその刃はまるで太陽の欠片を封じ込めたかのような白い光を放っており、大気そのものを震わせていた。
怪物の目から大量の赤い涙が溢れ出し、無数の赤き流星が騎士へと降り注ぐ。
騎士は一瞬で怪物の頭上へと飛び上がると、その光り輝く剣を振り下ろす。
辺り一帯が光に包まれ、俺たちは思わず目を瞑ってしまった。
光が消えたかと思うと俺たちは目を開く。
斬撃の道筋全てが灼熱に侵され、空間ごと溶解していく。
断ち切られたはずのものは、斬られる間も無く、ただ蒸発し消え失せるのみ。
遅れて訪れた轟音と熱波が、周囲の景色を無慈悲に焼き焦がした。
「は‥‥‥はは‥‥‥ははは‥‥‥俺たちは‥‥‥夢でも見てんのか‥‥‥?」
あまりの光景にニグラスは失笑する。
「プランBで‥‥‥行く‥‥‥? まだ‥‥‥何も考えてないけど」
騎士は、あれほどの一撃を放っておいて疲労というものを感じないのか、そのまま俺たちの方へと歩みを進める。
「いや〜すごい光景だね〜」
声が響くと同時に騎士がその方向へ振り向き、俺たちも視線を向ける。
「みんな無事か〜い?」
「レイナ先生!」
彼女の声色はいつも通りだったが、両手には古い杖と、見たことがない文字が刻まれた剣が握られており、その目は半分しか空いてないにも関わらず、鋭い視線でその騎士を捕らえていた。
後ろからは騎士団の人達が大勢やってくる。
「後は私がなんとかするから〜みんなは早くここから離れ‥‥‥あれ? ゼニウム君! 可愛らしいお姫様を抱えてるね〜、いつからそんな仲良くなったの?」
スウィーピアさんは顔が赤くなり、すぐに俺の手の上から離れる。
終わった、俺のボーナスタイム。
「先生、他の人たちはみんな宝物庫にいます!」
「さすがチタニスくん、いい情報だよ! ‥‥‥あれは私が相手をするから、他はよろしく」
「は!」
背後の騎士団が一斉に動き始める。
「先生‥‥‥私たち‥‥‥」
「リリアちゃん達はよく頑張ったよ、後は私がやるから、みんなは先に地上へ行ってて」
その時のレイナ先生の声ははっきりとしていた。
「わ、わかりました、先生も無理しないでください」
俺たちは出口の方へ走り出し、騎士達はすれ違うように宝物庫へと、向かっていく。
そしてその場には、かつて同じ時代を生きた一人の魔女と騎士だけが残った。
「はぁ、その甲冑を見るのはいつぶりだろうね、当時はすごい輝いていたんだけどなぁ」
騎士は何も言わず、目の前の少女をただ見つめ続けている。
情景描写が結構難しいです( ´△`)