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Deceptive Love  作者: 緋色
第六章:ルミナスト編
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第百二話:残火


 <<DATE:ヴァルムント歴-978年>>

 <<LOCATION:ゼルファリス連邦国-首都ルミナスト>>


 ルミナスト───ゼルファリス連邦国の首都であり、その景観は他国よりも数歩先の時代を歩んでいる。巨大な空中庭園が空を仰ぎ、ホログラム掲示板が二十四時間消えることなく輝き続けている。中心に建つビル群は雲を突き抜け、その先を拝めることは叶わない。


 それらの超高層ビルに入口を構える世界屈指の高級レストラン。料理の味、見た目だけでなく、顧客のプライバシー配慮、防犯性も評価され、政府の要人が集うことも少なくない。


 とある一室。壁や天井、食器には金銀細工が施され、中央には二十名ほどが座れる巨大な丸テーブルが置かれている。部屋の一辺は壁ではなく巨大なガラスが埋め込まれ、首都を一望できる。


 窓際に寄せられた一人用の席が埋まっていた。机の上に置かれた料理は、量は少ないが一目見るだけでその価値に固唾を飲むだろう。しかし椅子に腰を下ろしている女性は料理に手を付けていないどころか目もくれず、窓の外を呆然と眺めている。


 部屋の扉がノックされる。返事を待たずに扉が開かれ、ジャスミナが入室する。


 「‥‥‥料理、冷めてしまいますよ。公爵」


 アニスは視線を少し上げ、ガラスに映ったジャスミナの顔を見る。


 「まだ時間じゃ無いだろう。何か問題でも?」


 ジャスミナもまたガラスに反射するアニスを見ていた。表情は笑っているように見えるが、その意気消沈振りは容易く見破れた。


 「ミルトニアスさんに見張っておけと指示を出されました。なんだかんだ優しい人ですよね」


 「娘ができてからまるで人が変わったよあいつは。天下の大賢者様が自身の娘に教えを乞う光景を見た時は、そりゃあ皆んな大爆笑したさ」


 千年以上前の記憶は今も鮮明に残っている。仲間との旅の日々を、自身と同格の相手に出会えた瞬間を、そして大切なものを失った悲劇を。


 アニスは大きく溜息を吐く。


 「なぁ、ジャスミナ。私の娘は───リリアは、いつになったら帰ってくるんだろうな‥‥‥」


 「‥‥‥」


 視線がガラス越しに重なる。だがアニスの目はジャスミナではなく、もっと遠い場所を見つめていた。


  ◇◇◇◇◇◇◇


 「───報告は以上だ。今の我々には状況を覆せる決定打となるカードが足りない。一先ずはサディス共和国、ラグゼント王国と連携し、神々の執行者の殲滅を最優先とする」


 会議が終わり、アニスはあくびをしながら腕を上へ伸ばす。すると横から優しい声がかかる。


 「貴方が会議に時間通り出席するなんて、一体何十年ぶりかしらね」


 「ん〜? どうせ私のことしか喋らないじゃないか。お前達から重要かも知れないが、本人からしたら退屈極まりない」


 「あら、皆貴方について真剣に考えてくれてるのよ? 幸福なことだと思わない?」


 「殺すって単語が何十回も出なければな。ていうかお前もだからな、キクエラ。浄化とか解放とか上品に聞こえるが、意味は一緒だ」


 キクエラは返事の代わりに笑顔を返すと、席を立ち上がりラナキュアの所へと向かう。アニスも一拍置いて席を立ち上がると、二人の人物が話し合っている姿が視界に映る。


 「親子団欒か、微笑ましいな」


 囃し立てるようなその声にミルトニアスとフェンネリーネが同時に振り向く。


 「何か会議内容に疑問点でもあるのか?」


 ミルトニアスが鋭い眼光を向ける。


 「いや? 別に。ただ羨ましいと思っただけさ」


 「‥‥‥」


 フェンネリーネは何も言わず、憐れむような視線でアニスを見つめる。するとアニスの肩に大きな衝撃が走り、何か重いものが伸し掛かる。


 「おいおい、らしくないな。過去を振り返るなとは言わないが、足だけはひたすら前へ伸ばせ。昔みたいにな、ハッハッハッ!」


 オリヴァードは豪快に何度もアニスの肩を叩く。


 「はいはい、それが数少ない私の取り柄らしいからな。そういえばお前の相方は?」


 「クロヴィスは何か急用があるとか言って一瞬で消えたぞ」


 すると今度はミルトニアスから声が掛かる。先程と同様鋭い眼光だが、真っ直ぐ前を向いていた。

 

 「アニス。我々にとってこの大戦での勝利は、この世界を本来の未来へと繋ぐことを意味する。その大義のために、我々は前回の大戦で散っていった者達の屍を踏み越えなければならない」


 「分かってる‥‥‥分かってるさ‥‥‥」


 アニスは拳を握りしめ、ミルトニアスに対してではなく、まるで自身に言い聞かせるように言葉を発した。そのまま背を向け、小走りで部屋を後にした。


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