第百一話:回帰
「アニス‥‥‥」
ゼニウム、ルビリス、ニグラスの三がその名を忘れるはずがない。様々な感情が心の内で渦を巻くが、誰一人声を発することはなかった。レイナはそのまま話を続ける。
「アニスだけじゃない。惰性の十翼のトップやサディスの女王、ラグゼントの王は御伽噺に出てくる勇者パーティーの生き残り、千年以上生きる大英雄。彼らは神々との大戦に向け、ずっと準備してきたんだ」
「神‥‥‥」
神という言葉がここで初めて色濃くなったように感じた。神々の執行者を名乗ったビアンカやエミリー、不完成だったパズルのピースが一つずつ正しい場所に埋まっていく。
「前回の大戦で大勢が死んだ。大騎士、公爵、勇者、幾ら当時の人間達が強くても、千年間蓄積された魂の物量には勝てなかった。その全てを見通す目の持ち主もね」
レイナはゼニウムの目を見つめる。ここで初めてゼニウムは理解した。何故あの時、レイナが自身へ視線を向けてきたのかを。
「後二年弱で再び大戦が始まる。彼らは今回でこの繰り返される滅亡に終止符を打つつもりなんだろうね」
「‥‥‥仮に今回勝ったとしても、また千年後に同じことが起きんじゃねぇのか」
ニグラスが疑問を投げかける。
「神々はね、直接この世界に干渉できない。だから自身のコマを送るんだ。何の色もついていない新品のコマを。異世界って、言われても簡単には受け入れられないよね。でもあるんだ。数え切れないほどにね。そしてそれぞれ異なる色、魔力の質があるんだ。その世界に生まれた瞬間、生き物はその世界の色を身に宿す。そして異なる色の場所へは行くことが出来ない。神々もね」
「じゃあ‥‥‥どうやって‥‥‥」
ルビリスが聞くと、レイナは少し脱力したような声色で答える。
「あるんだよ。色の無い世界、魔力が存在しない世界が。神々の執行者も、そして私もそこから来た。渡り方は違うけどね。神々の執行者は言わば門の役割を担ってる。最も色の濃いこの世界と天界を繋ぐ為のね。つまり、神々の執行者を全員殺せば、神々はこっちへ手出しできなくなるってこと」
「殺してもまた新しい執行者を送ってくるんじゃ‥‥‥」
「あの世界はもう滅んでるみたい。だから新たに執行者が現れることはない」
レイナは自身には無関係のように軽く語っている。
「ニホン? だっけ、先生は良いの? 自分の故郷がもう無くなっちゃってるってことだよ」
リリアが心配そうに尋ねる。
「別に良い思い出はないから良いよ。戦争ばっかしてたし‥‥‥」
三人はレイナが最後の方に何と言っているか聞き取れなかったが、彼女はそのまま続ける。
「話を戻すけど、今回が最後の戦いになる。そしてこの戦いに勝つためにリリアちゃんのスキルが必要不可欠らしい」
「らしい? 先生もわかんねぇのか?」
「うん、私もそこまでは聞かされてない。まあ最近まで執行者の容疑をかけられていたからね。一通り喋ったつもりだけど何か質問はある?」
一瞬の静寂の後、長らく沈黙していたゼニウムがようやく口を開いた。
「‥‥‥リリアを連れ戻す方法はありますか」
「大戦が終わるまでは不可能だね‥‥‥」
再び静寂が訪れる。あの圧倒的な力、レイナですら勝てなかった惰性の十翼からリリアを連れ戻すことは不可能だと皆理解していた。感情で動いてどうにかなる問題ではない。
「‥‥‥なら、待ちます」
「へ?」
レイナはゼニウムの予想外な言葉に唖然とする。
「先生は覚えてますか? あの時先生が言った言葉、リリアが抱えてきた思いを受け止めて欲しいって。でもリリアは俺たちが思う以上に重いものを背負ってました。だからその思いを受け止めれるよう、もっと強くならないとダメだなんです!」
「そうそう! リリア疲れて帰ってきた時にちゃんと三人で迎えてあげれるようにしないと!」
「四人揃わねぇとなんか物たりねぇからな!」
ルビリスとニグラスもゼニウムの主張に賛成していることが見て取れた。レイナはその光景を記憶に残る自身の過去の光景と重ねる。
「‥‥‥てっきり、ローデンでのことを聞かれると思ってたよ」
レイナはゼニウムの顔を見つめる。だが彼女の顔は先ほどまでとは異なり普段の先生としての表情を浮かべていた。
「その答えも結末も、自分の手で見つけ出すって決めました。先生を頼ってばっかじゃいつまで経っても成長できませんし」
「あー! またゼニーがカッコつけてる!」
「まあ良いだろ、まだそういうお年頃なんだよあいつは」
「うるせっ! 別に普通だろ!」
三人の仲睦まじい姿はレイナの目にとても輝いて見えた。
見てますか、チューベリー先生。私達の生徒はここまで立派になりましたよ───
次回からダクシオン達視点の過去編をやります!




