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「ボクは……お婆ちゃんに褒めて貰いたくてポーション作りを教わり始めたのが全てのきっかけでした……色んな事を教えてくれたお婆ちゃんは、立派で素敵な人だったと今でも思っていて、だから、今日式典で選ばれる聖女様についても、ボクは同じ様に立派で素敵な人が選ばれるんだろうなと思っています」


 リーフは頭の中で一つ一つ、自分の言葉を考えつつ目の前の女性に話す。そして、何故自分がこの場に呼ばれているのかについても、考えていく。


「ボクが此処に呼ばれた理由も未だに解って無いし、先程の司教様のボクへの評価も相当大変な事をしてしまったんだと、怖く感じてます……だけど、今日を楽しみにしていたのは本当で、聖女様に選ばれる事は凄い事だから、ボクは聖女様に選ばれたその人を心から応援したいんですっ!」


 リーフは頭の中がいっぱいいっぱいになりながらも、自分の純粋な想いを話していく。これから聖女に選ばれる様な人は、きっと家族として心から好きだった人と同じ様な人だと考えているからだ。


 リーフの言葉を聞いて、ローブ姿の女性はニヤニヤと笑い始める。


「あら、貴方の口からそう言われてしまうと、随分と目標が高い存在だと感じてしまうわね。うふふ」


「そ、そんな事は無いです! ボクなんてこれからどうすれば良いのか解らない様な、全然ダメな中途半端な奴だからっ! 義兄さんとだってこれから数年は離れて暮らしていかないとだし、大変なんですよ!?」


「そう、大変になるわよねぇ。でも、このポーションがあれば、これからなんてどうとでもなるとは思わないの?」


 女性が手にするリーフのポーションは、聖教会の司教から既に値千金のお墨付きを貰っている。だが、所詮は基礎ポーションにしか過ぎないと思っているリーフは、それだけではまだ駄目だと自分を卑下している。


「そんな!? だって、ボクは聖女様みたいに上級のポーションを作る機会は無かったし、そもそもボクは男だから、この場には関係なんて無い筈だよ!?」


「それがね、その聖女候補達のせいで、貴方の知らない所で勝手に舞台に上げられていたとしたら、どうするのかしら? 随分と回りくどい事をしてしまったけど、それが貴方をこの場に呼んだ理由よ?」


「えっ……? えええっ!?」


「ど、どういう事だ!? 何でリーフが巻き込まれてるんだ!?」


 リーフとスコールの驚く顔を見て、遂に頭を覆い隠していたローブを外す女性。その顔は年齢よりも若々しくあり、長い金の髪が現れ、気高くも慈愛を持った碧い瞳が二人を見つめ、優しく微笑んでいた。




◆◇◆




 二人を此処に呼んだ女性は、東西南北の国を庇護する中央の国、ミラクリオールの王妃シルビアであった。


 彼女は中央国の聖教会に居る大司教と同じく、聖女選定を行う上での最高責任者であり、女神から直々に聖女とはまた違う加護を受けてこの任に就いている。


 シルビアの顔を見た一同は、皆一斉に跪こうと姿勢を崩しかけたが、彼女の静止によってそれは止められた。


「シ、シルビア様っ!? ど、どうして此処に!?」


「皆落ち着きなさい、これから順を追って説明してあげますから、姿勢も楽にしてて良いからね?」


 リーフとスコールも当然彼女の正体に驚いており、戸惑いと驚きが連続で来ているリーフにとっては、常に驚きの度合いを更新し続けているこの状況は、精神上とてもしんどいと感じる物になって来ていた。


「義兄さん……ボクもう頭が追い付いて行けなくなって来たよ……」


「ああ、俺もだ……だが、お前が此処に連れて来られた理由がようやく解るって言うんだから、もう少し頑張れ……!」


 精神的な疲労で弱るリーフを、スコールはその肩を支えて励ます。そして、二人で静かにシルビアの方に視線を向ける。彼女は司教と共に、聖女候補達の方に近付いていた。


 シルビアが自身の正体を明かし、遂にリーフを呼んでポーションを作らせた事による説明を始めると言うので、パトリシアも顔を険しくして固唾を飲んで見つめている。


 シルビアが、手にしていたリーフのポーションに何やら呟くと、ポーションは青く光り輝きだし、その光は隣の司教が持っていたポーションの瓶を閉じていた封にも反応する。


「今行っているこれは、リーフの作ったポーションに流れた魔力の純度を元にして、それと同じ物を探知する魔法をかけました。私と司教が持つポーションは同じ物ですから、純度が一致して封が反応したという訳です」


 シルビアから行われた説明を聞いて、パトリシアや一部の修道女はハッとした顔となり、何かを察した様子であった。


 当の本人のリーフは、そんな魔法があるのかと思った反面、それで一体何をするのかは把握出来ていなかった。


 シルビアはそんなリーフをチラリと伺い、これから話す事でどうか聖女に対して失望しないで欲しいと願いながらも、しなければならない説明の続きをしていく。




「そして、これは基礎ポーションという訳ですね。その役割は聖女候補の皆さんなら説明しなくても存分に理解出来る筈でしょう。私がこれから行う事はこれで解りましたね?」


 シルビアは彼女達に微笑むが、目は一切笑ってはいなかった。その雰囲気はリーフに話しかけていた時の様な優しい物では無く、これから何かを裁こうとする者の様だった。


 彼女を見た一部の聖女候補は震えるが、シルビアはお構い無しに先程と同じ行動を聖女候補が作ったポーションが置かれた机の前で行う。すると、半分程のポーションの封が反応してしまう。


 そのポーションを作った者達は、名前が書かれた札を見れば、パトリシアを除いたこの国の上位の貴族令嬢が大半で、一部商家の娘達の物も含まれていた。


 この事実に、修道女達は苦々しい表情となり、睨み付ける様な強い眼差しで貴族令嬢達をみている。シルビアのかけた魔法に一切反応しなかったパトリシアも、この事態に顔を青ざめさせながらも取り巻き達を含めた令嬢へ問いただす。


「あ、貴女達! これは一体どういう事なんですか!? ジャネットにナンシーまでこんな事をするだなんて!? この大事な式典をなんだと思っているの!」


 パトリシアは怒りの声を上げて令嬢達を叱り飛ばす。辺りは騒然となり、反応した者と反応しなかった者達で言い争いになりかけ聖職者達が呼んだ衛兵に取り押さえられる。


 この状況に巻き込まれたリーフとスコールは、事態を上手く呑み込めないままシルビアの元まで近づく。震えが足に来るほどに心労を重ねたリーフは、スコールに支えられていないと最早立ってはいられなくなる。


「あ、あの……! どうしてボクのポーションが、他の人達のポーションにまで反応してしまったんですか……!? だって、この式典って、聖女様を決めようって大事な物なんですよね!? なのに……なんで!」


 繊細さを求められるポーション作りにおいて、今のリーフの姿は、正に理想的な反応なのだと言えるのだろう。それ故に技術の高さや、この現状への証拠となる証明となってしまう事を、シルビアと司教はリーフを見つめて辛くなって来る。




 シルビアはリーフを見つめ、自分に出来る限りの優しさを込めながらも、それでも伝えなければならない事実を丁寧に話していく。


「男である貴方が作った基礎ポーションならば、誰にも怪しまれる事無く素材に出来ると踏んだんでしょうね。貴方のポーションは知る人は知っている相当な代物だったから、後は上級の素材や自分の魔力で上書きすれば効能だけをそのまま得られると、そう思った聖女候補はずるをしてしまったと」


 シルビアは憂いを帯びた顔でリーフに語り掛ける。この子は何も悪くは無いと思いながらも、抱いている理想を砕く様な話を続ける。


「ポーションの腕前は当然として、貴方の容姿も妬まれた要因でしょうね。有名になったスコールに寄り添う様に仲の良い、女の子みたいな見た目をした義理の弟。世の若い女性達はスコールに自分を見て貰いたくても、肝心の彼はリーフしか見ていないもの。それは、勝手に恨まれてしまったのでしょうね」


 シルビアはそっとスコールに目を向ける。今も尚リーフの肩に手を当てて支えている。シルビアからして見れば、リーフよりも有名になったスコールの方が周りに配慮するべきだったと考えていた。


「聖女として選ばれるには、ポーションの腕前が求められている。だけど、聖女になった後もスコールはリーフと比較してしまうでしょう。だったら、リーフのポーションをそのまま利用すれば、弟と同じくらいの腕前を持った聖女として意識して貰えるのでは無いのかと……大体こんな感じかしら?」 


 ため息をついて、語り終えるシルビア。彼女の言った話は誰か個人の思惑とは断定された物では無かったが、それを聞いた貴族令嬢の一部は虚ろな顔になり黙り込む。


 こんな話を聞かされたリーフは、自分のポーションが使われた事への衝撃や責任を感じると共に、自身への思われ方について、様々な感情に押しつぶされそうになり目から涙を流してしまう。




「こんな……こんな事になるだなんて……ボクは、どうすれば良かったの……? ポーションを作る事が間違いだったの……? 男らしく無いのがダメだったの……? 義兄さんと仲良くしてはいけなかったの……?」


「そ、そんな事は無い……! 落ち着け、リーフ! お前は悪い事なんて何一つやってはいないさ! 寧ろ悪いのは俺だ! お前に感けて、ちゃんと自分の想いを周りに伝えなかったのがダメだったんだ!」


 自分が悪かったのかと俯いて泣いてしまうリーフに、そうでは無いとスコールは励ます。そしてそのまま自分の想いを周りにアピールしようとした瞬間、シルビアから止められる。


「ダメよ、スコール。今それを言うのはリーフに対して卑怯な行為だし、この場で言ったら余計騒ぎが大きくなってしまうわ。火に油を注いでどうするの」


 シルビアは商会での一部始終を見ていた。それにより、スコールがリーフに対してどの様な想いを抱いているのかも察している。だが、聖女を決めるこの場でそれを明かしてしまう事は、決してリーフの為にはならないし、更なる混乱を招いてしまう事態になるので、今はそれを止めるしか無かった。


 シルビアは泣き続けるリーフに近付き、そっと抱きしめた。それは幼い子供をあやす母親の様な慈愛に満ちた物であり、シルビア自身の若い見た目とは裏腹に、彼女が王妃として子を産み育てた、れっきとした母親である証明でもあった。


「大丈夫……大丈夫よ、リーフ。色々と悲しくなる様な事を言ってごめんなさいね……これは女神様も見ている大事な決め事だから、貴方も巻き込んでしまったのだけど、本来なら誰一人でもズルい事をしなかったら女神様も、その中からきちんと聖女を決めていたんですもの」




 シルビアによって、リーフは辛うじて泣き止む。正気に戻ると、大人の女性に抱きしめられた事に今度は恥ずかしさを覚え、泣き止むとすぐにシルビアから離れ、頭を下げた。


「あ、あの……有難うございました。王妃様……」


「ふふ、良いのよリーフ。落ち着いて貰わないと、これからとても重要な話が出来ないもの」


 重要な話と言われ、リーフはじっとシルビアを見る。これから何を言われるのか身構えていると、シルビアが話し始める。


「ねえ、リーフ。女神様はね、実はもう聖女になるのに相応しい子を一人見つけているのよ。こんな事になってしまったけど、もし、これからそれを私が公表しても、貴方はちゃんと祝福出来る?」


 自分の作ったポーションで、大事な式典が大変な事になってしまったと思っていたリーフは、シルビアからの言葉を聞いて、目に希望が戻る。


「ほ、本当ですか!? 王妃様! 良かったぁ……ボクのせいで台無しになってしまうんじゃないかって心配していたけど、ちゃんと聖女様は選ばれたんですね……」


 きっと、先程ポーションが反応しなかった人達の中からちゃんと選ばれたのだろうと、リーフは心の底から安堵した。ちゃんときちんとした手順を踏んでポーションを作り、この場に居るのだろうから、女神様もそれを見ていたのだと考える。


 リーフの反応に、シルビアもつい笑顔になる。この場で素性を明かしてから、一番嬉しそうな笑顔だった。


「その子はここに居る誰よりも可愛らしくて、純粋な思いでポーションを作って見せて、聖女の誕生を楽しみにしながら、それを心の底から喜べる様な素敵で立派な子よ。腕前だってズルに使われる位に確かな物で、これからはその実力を正当に評価されるべき、今一番祝福されるに相応しい子なの! それが貴方なのよ! リーフ!」




 笑顔のシルビアがそう言うと、手のひらをリーフに向かって伸ばし、光り輝く魔法の玉を勢い良く飛ばした。


 言葉の意味を理解する間も無く、飛んで来た魔法の玉がリーフの胸に直撃する。


次回は18時になります

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