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作者: 雉白書屋

「たのむよぉ~ん! お願いだよぅー!」


 夜、駅前でそう声を上げる男がいた。


「お願いしまっす! このとーりぃ!」


 手を合わせたり土下座したり、遠目に見ても情けない顔をしていると分かる。

中年男性、髪はもっさり、眼鏡をかけている。

対する女性は服装とスタイルからして美人っぽいけど

壁に寄りかかりスマホの画面に向いているので顔はよく見えない。

つまり、完全無視。どちらも見事と言っていいほど一貫した態度。

そしてまあまあ見ごたえもある。

 なので、友達と待ち合わせ中で暇をしていた僕は植え込みの縁石に座り

向かい側のそのやり取りを、いや、一方通行を眺めることにした。


「た、た、た、た、頼むよぉ! お、お、お、お願いしちゃいまぁすぅ!」


 リズムよく懇願する男。僕は思わずクスッと笑いそうになったけど

すごいな。女性は目もくれない。

 そもそも何を頼んでいるんだろう? 

なんて、考えるまでもないか。近くにホテル街があったはずだ。


「おねげぇしますだ! どうかどうか……」


 ああも、よく必死になれるなぁ。


「よ! よ! 憎いねこの! あいよ! 頼んでますよっと!」


 二人は知り合いだろうか? それともナンパ?

多分後者だな。まあ、あれで上手く行くとは思えないけど。


「お願いお願いおねがおねがお願いお願いおねがおねがウォーオ! 

オー! オオーッオッオッオー! オーネガイッウォッオッオー!」


 動きをつけてリズムに乗せて、いやすごい攻防戦……でもないか。

鉄壁完全無視。ゴールネット揺らす気配なし。


「お願いちゃああああああああぁぁぁぁ! はああああぁぁぁぁぁん!」


 ほら、やっぱりね。女性はスタスタと、どこかへ。

おじさん、可哀想にっとはははっ。あのおじさんも忙しないなぁ。


「お願い! ね! お願あああああぁぁぁぁい!」


 また別の女性に膝をついてお願いしはじめたよ。


「おねがあああああああぁぁイアアアアアァァァァ!

ウィルオオオオォォォォォルウェイズラアアアアァァァァァヴュウウウウウウウゥゥゥ!」


 大熱唱、いや大熱傷だ。広場に響き渡る歌声。

みんな、頭がおかしいと思ったのだろう無視一択。


「お願ぁぁぁい……う、う、ふええええん! えふぅおふぅ!」


 泣き落としも駄目。


「お願いしてんじゃんかよ! うおおおおおおおお! おうんぬおうんぬ!」


 キレても駄目。みんな、無視無視。女性も男も……ん? 男?


「頼む、頼む頼む頼むよぉぉぉ、ジョォォン、ね、ね、ね、おねがいだよぉぉぉぉぉう」


 ジョンって誰だ。いや、あのおじさん、男にも同じように懇願している。

見境なし……いや、そもそも何をお願いしているんだろう? 

気になるな……よし……。



「あ、あの」


「おね、えっ、ジョン、え」


「違います。いや、大丈夫ですか? 何をお願いして――うわ!」


「ああ、もういいんだ。ようやく見える人が来た」






「……お願いします。お願いします……お願いします……お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」

 

 以来、僕はここでこうしてお願いし続けている。

 誰か代わって、と……。

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